第44話

次の予定を伝えながら、

彼の半歩後ろをついて

移動車に乗り込んだ


「俺の初恋、知ってる?」


彼が徐に尋ねる


「え…ううん

あ、“中学の時の先生”?」


雑誌のインタビューで見たことあるのを

思い出した


「違う。本当は高2の時」


「え?そうなの?

先生じゃないの?」



なんかリアルっぽくて

ちょっと聞くのが怖くなった


なんでそんな話しするのかな


「うん。

さっき話してたら思い出した。」


そうなんだ…

やっぱり

聞いても良い気分しなさそうだから

聞きたくないのに

彼は続ける


「大会で負けた後、

控室に戻る前に

ぼーっと優勝者見てたら

マジで悔しくて

泣きそうになって、

目逸らしたら、

そばにいた子と目があって…」


聞いてる?-


話半分に聞いていたら

バレてた


私があの写真を出したから、

彼がそんなこと

思い出しちゃったんだ


「聞いてる…」


聞きたくないけど。


私の同窓会の話しの時

彼もこんな気持ちだったのかな

と思った


「なぜかその子の目も

赤く潤んでてさ、

なんか目が離せなくなったんだよな。」


わー 想像しちゃったら、

嫉妬しかない


「ゴミでも入ったんじゃない?」


「へ?はは」


まだ彼は続ける


「それで目が合ったままいたら、

その子が、

“お疲れ様でした”って言って、

微笑んだんだよね」


しばらく忘れられなかったなー


「•••」


「ん?」


「え?」


「なんかないの?」


「なんか?なに?」


明らかに嫉妬してた


それ以上何も聞きたくもなかったけど

彼が私の質問待ちしてるから


「それで、付き合ったの?」


あー 聞きたくないのにっ


でも聞いてよかったのかも。


「いや。

その子、彼氏いて

帰りに一緒に歩いてるの見たから

そこで即失恋した」


「あ、そうなんだ!

初恋は実らないって言うから」


声のトーンが上がってしまった


「なんか喜んでない?」


「ん?いやいやいや

そんなこと…」


あるけど…


「ココの初恋は?」


「え、私は…」


佑の顔がすぐに浮かんだ


幼稚園とか小学生とかも

好きな子はいたかもしれない


だけど、

はっきりと

“好き”を意識して

覚えているのは

佑が最初だ


「初恋は実ったの?」


「えっと…」


私の初恋は

実った。


なんと答えようか


悩んでいると、

電話が鳴った


珍しく事務所からの電話だった


そのうちに

目的地に着いて

質問に答えることはなかった









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