4.1 「ある」と「する」(1)

 日本語に主語はない、述語中心の言語だ、と書いてきた。したがって、述語の中核である動詞に日本語の特徴が反映していると考えられる。よく言われるように、自動詞と他動詞の区別、および受動態・受け身表現などがそれである。

 そこで自動詞と他動詞の区別から始めよう。

 またしても学校文法批判である。

 学校文法では目的語として「~を」をとるものが他動詞、それ以外は自動詞とされている。自動詞「回る」や「降りる」や「代わる」も、「その角を回る」「階段を降りる」「役割を代わる」と「~を」をとるじゃん、というつっこみ以前に、そもそも説明になっていない。たんに、「直接目的語をとるのが他動詞」という英文法の規定をそのまま持ってきただけである。

 ところで、英語には他動詞と自動詞の形態上の区別のない動詞が非常に多い。例えば辞書のSの項を見れば、say、see、stand、stopなどのなじみ深い単語が自・他の両方を持っている。

 思うに、英語の動詞には自動詞・他動詞の(形態上の)区別はなく、「直接目的語を持つ→それを主語にした受け身形が作れる」という構文上の区別、あるいは動詞の用法(作用)の区別から要請された文法用語なのではないか? 

 むしろ日本語の動詞こそ、自動詞・他動詞の区別を語るにふさわしいと思う。かなりはっきりした形態上の区別があるからだ。

 日本語では同じ語幹から自動詞・他動詞のペアが作られているものが多い。先に挙げた自動詞は「回る」→「回す」、「降りる」→「降ろす」、「代わる」→「代える」という他動詞になる。英語のturnやchangeは自他両用だし、downは副詞なのでgoとかgetとかの動詞が必要になる。

 ついでに脱線すると、動詞を省略したdownで命令文「伏せろ」にすることができる。そのうちdownは動詞になるかもしれない。事実、「負かす」「飲み下す」という意味の動詞として辞書に載っている。

 そこで思うのだが、ある事態や概念に名称(名詞)が与えられ、それに関する行為をdoとかgoとかの基本動詞を使って表現するうちに、動詞を省略した名詞の動詞化がおこるのではないだろうか。例えば「study=勉強」が、「動詞(do)+study=勉強する」(本当か?)になり、「study=勉強する」という動詞になる(歴史的に妥当かどうかは知らない)。book=本が「予約する」になったり、land=陸地が「着陸する」になったり・・・。

 で、今の説明文中にもあるように、日本語でも名詞に「する」を付けて動詞化することが多い。「勉強する」「予約する」「着陸する」、さらには「チンする」など・・・。しかし、「する」を省略して名詞自体が動詞化する例は少なく、省略するにしても、せいぜい「する」が「る」になる程度だろう。「メモする」→「メモる」、「ハーモニーする(?)」→「ハモる」、「日和見する」→「ヒヨル」、「写メールする」→「写メる」、「グーグル検索する」→「グーグる」など。

 その理由として、一見したところ二つありそうだ。ひとつは漢字熟語の名詞は安定的・固定的で、語尾変化を伴う動詞にしずらいこと。もう一つは、日本語の動詞は語尾に「る」を持つものが多いので、「る」を残すとしっくりする、ということ。本当かどうか分からないが、そんな感じを受ける。

 さて、ここからいきなり核心に入る。

 日本語の多くの動詞は、語幹となる名辞に「する」や「ある」の基本動詞を接続して作られたものではないか、と考えたらどうか。その上で、日本語の自動詞、他動詞を考えると非常にわかりやすいし、日本語の発想の特徴(日本語の思想)もはっきり見えてくるだろう。

 つまり、「ある」系が自動詞で「する」系が他動詞というわけである。次にそのことを検討してみる。

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