-人間種はじめました 穀倉地帯-

俺はルシカ。冒険者のはずだ。


何故か最近武器より鍬を持っている時間が長い気がする。


今日も沢山耕した。


借家に帰れば二人の女が俺を迎えてくれる。


悪くない生活だ。


悪くないがこのままはよくない。


全く、どうしてこうなってしまったんだ。




草原の街を出た俺達三人はまず森の村に向かった。


古い遺跡があるという情報があったからだ。


数日滞在して色々調べたが、昔の俺に関わる手がかりは無かった。


しいていえば魔女の弟子が素材が沢山手に入って喜んでいたぐらいか。


仕方ないので一度草原の街に戻り、情報収集と次の出発の準備をした。


ここである事に気が付いた。


金の減りが早い。


そりゃ元々俺一人で旅立つつもりが同行者が二人も増えたのだから仕方ない。


二人には俺の勝手な旅に付き合ってもらうのだから自分の金は自分のためだけに使えと言ったのが不味かったか。


まぁいい。減ったのなら稼げばいいだけだ。


冒険者ギルドで漁村への物資輸送の依頼があったのでそれを請ける事に。


その足でそのまま漁村から西に移動できれば丁度いいからな。


途中、敵対生物や賊が現れたがお姉さんが一人で蹴散らしてた。相手が悪すぎる。


漁村に到着し、報酬を受け取ったところで見知った顔と偶然出会うことになった。


いつだったか俺を草原の街に運んでくれた爺様だ。


話を聞くと護衛を請けてくれる冒険者がおらず、足止めを食らっていたらしい。


爺様には色々良くして貰った恩がある。


二人にその事を説明すると快く頷いてくれたので俺達で護衛を引き受けることに。


爺様の護衛は草原の街の仕入れを経由して穀倉地帯まで。


結構な量を買い込む爺様。その量を持つのは無理だろう。俺が持ってやるからこっちによこせ。


道中賊が現れたが敵ではなかった。もう少し相手を選べ。この辺りの敵対生物の方が利口だぞ。


穀倉地帯の集落に到着し、報酬を貰うと爺様が一言言ってきた。


「若いの。もう少しここで働いていかんか?」




気付けば爺様から借家を提供され、毎日畑を耕す仕事をしていた。


全てはここの新鮮な野菜が美味かったのが悪い。そうに決まってる。


爺様との契約は戦力になる冒険者が来るまでここに滞在すること。


最近までここにいたベテランの冒険者がアイドルの追っかけをするからという理由で草原の街に戻ってしまったらしい。


アイドルと聞くとあの双子の天使が思い出される。今も元気に歌っているのだろうか。


それはともかく、その冒険者が抜けたせいで集落の防衛力が若干落ちてしまったので俺達でその穴埋めをして欲しいと言われた。


別に急ぐ旅でもないし、家賃と食費は基本的になし、防衛の仕事が発生した時と畑や雑用などの仕事をした時に報酬が発生するという良好な条件だったので引き受ける事にした。


期限がはっきり決まっていないがそこも問題はない。


お姉さんはギルドの受付員と用心棒は辞めたがまだギルド職員としての資格は有しているようで、出張ギルド滞在員と同じ扱いに変更になったらしい。


今回の爺様の依頼もギルドへの正規の依頼とされているので補充員が来なければギルド本部に要請が出来るようになっている。


とりあえず今は金が足りないので稼がせてもらうつもりだ。




俺は主に畑仕事をしている。


最初は色々教えてもらったが、今ではコツを教える側になっている。


だから何も考えずにやるなって言ってるだろう。


無心になってやるのはいいが、考えずにやるのはよくないと何度言えばいいんだ。


この前まで賊だったから要領が悪い?


知ってる。倒したの俺達だし。


待て、逃げようとするな。今はもう足洗ったんだろ。教えてやるから諦めるな。ああもう、泣き付くな、鬱陶しい。


ここには更生目的で送り込まれてくる人も少なからず居る。


こういう奴らが再び悪さをしないようにするためにも戦力が要るのだが、どうも俺はそういう奴らに好かれやすいようだ。


そういえば昔も下僕共がなんやかんやで慕ってくれていた。懐かしい。


今日はあそこまで耕したら終わりだから頑張るぞお前ら。




集落では基本的に婆様が作る飯が振舞われる。とても美味い。


食べ方はそのまま食堂で食べるか小さい鍋などに移して持ち帰るか。


俺は後者だ。


家で二人が待っているし、俺が余った食材で更に数品作るから家の方が都合がいい。


三人で顔を合わせて飯を食うのも慣れた。


最近は日中別の行動をしているのでその日あったことを話し合うのが日課になっている。


「今日また爆発起こしただろう」


「う、うん。ちょっと間違えちゃって」


魔女の弟子は滞在している植物研究員達の所に赴いて手伝いをしている。


たまに変な臭いや爆発が起きるが魔女の家でもよく起きてたので他の連中と違って動じる事はない。


「促進剤作れそうなのか?」


「うーん・・・ちょっと森の素材だけじゃ難しい。砂漠の素材が欲しい」


「じゃあギルドの運搬依頼に入れておくわね」


「お願い」


お姉さんは日中ギルド職員として集落での情報収集や周辺調査を行っている。


ここのギルド出張所は決まった駐在員がおらず、冒険者同様職員が草原の街との行き来で依頼を収集している。


職員が数日間滞在する事もあるがお姉さんのように長期滞在する人は少ないので、ギルドはこれを期としてお姉さんに周囲状況の報告を頼んでいるらしい。


「今日の成果は?」


「家屋や柵で使われている木材が少し傷んできてたわ。近々大工さんを呼んだ方がいいかもしれない」


冒険者や爺様婆様だとこういう先を見通す部分が甘く、ギルド職員ならではの目が必要なんだとか。


「あ、大工さん呼ぶならついでに大きな風呂も作って欲しいわね!」


若干自分の仕事を私物化している気もするが俺も欲しいので止めはしない。ギルドの判断に任せる。


ちなみにうちには風呂はある。


使われなくなった身長程の大きな樽を改造して湯を入れたものだが。


座る事も出来ないし、俺が入っていると二人が乱入してきて狭い。


あぁ、そういえば魔女の弟子ともそういう関係になった。


大体はお姉さんの根回しのせいだが、おかげで前より会話がスムーズになったのでよしとする。


二人と共に家で生活しているとこういうのも悪くないと思うときがある。


だが、俺には目的と大きな野望がある。


二人ともそれに賛同した上で付いてきてくれている。


だからこそ達成せねばならない。


とりあえず今は路銀を稼ぎつつ、来るべき達成した時のために女性の扱いの訓練に励むとしよう。

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