-狐の神様-
私は狐神。
つい最近母様からその役目を受け継いだばかり。
私の家系は代々神社の守り神をしている。
守り神は魔や厄を払い、人々に繁栄をもたらす。
「そんな感じだからちゃんと奉りなさいよ」
「えー。だって姉ちゃん全然神様っぽくないんだもん」
そう言って私に口ごたえするのは神主の息子。
小さい頃から面倒見てあげてきたのに最近私の事をさっぱりありがたがってくれなくなった。
「はぁ。こんなのが次代の神主とは」
やれやれと溜息を吐く。
「その言葉姉ちゃんにそっくりそのまま返すよ。確かうちの神様って狐の姿で屋根の上から街を見守ってるんじゃなかったっけ?」
「そうよ。ちゃんと見守っているじゃない」
「それは石像がでしょ。姉ちゃんがそれやってるところ見たこと無いよ」
「後でやるわよ後で」
「そう言っていつもやらないじゃないか。あーもー煎餅齧りながら寝そべらないで。掃除が大変なんだから」
そう言って本来入ってはいけないとされる神の間にズカズカと入ってきて箒で掃除していく。
どうしてこんな口煩くなっちゃったかなぁ。
深夜。
私は屋根に狐の姿で上がり、街を見下ろす。
うん。今日も特に問題はないかな。
配下の狐達からの報告も問題なし。
あー眠い。
配下達は普通の狐だから夜行性なんだけど、それを統べる私が合わせるってなんかおかしくない?
でも日中は人が起きてるからそれはそれで問題になるからしょうがないんだけどさ。
だから日中ぐらいはゆっくりさせて欲しいんだけど、言ってないからねー。
私が頑張ってるところを見せたくないのよね。
なんか負けた気がするから。
神主の息子をからかいながら平穏な日々を過ごしていたんだけど、ある日妙な気を感知した。
一応神の私はそういう神気や邪気というものを感じ取る事が出来る。
ただ、今日感じたそれはどっちでもない、不思議な力だった。
「ね、姉ちゃん?」
慌てて飛び出して屋根に上る。
むー、どんどん近付いて来ている。
とりあえず人払いの結界を張って、こっちに来ないよう退散の符術を展開する。
・・・ダメだ、全然効果無い。
「姉ちゃんどうしたのさ」
「うるさい。アンタは神主呼んできて。緊急事態」
「う、うん。わかった」
近付いてくる力は仲睦まじそうに歩いてくる男女から感じられる。
二人には悪いけどこれ以上ここに近寄ってもらっては困る。
・・・嘘、なんで?色々やったけど何も効果無いなんて。
あーもーどんどん近付いてくる。どうしよう。
・・・うげ、あの二人竜のお守りを首に下げてる!そりゃ術が効くわけないじゃん!もーやだー。
あーあ。結局何も出来ず神社の前まで来ちゃった。
呼んだ神主が出迎えてる。あぁ、知り合いなのね。
狐の姿になってこっそり物陰から様子を伺う。
うん、今日は奉納品がある?あ、そうなんだ。
はぁ、何も出来なくて今日は落ち込んだから羊羹が食べたい。
「ねーちゃん。こんなところで何してるのさ」
神主の息子が目ざとく私を見つけて話しかけてきた。
「ねぇ、あの二人何者?」
「最近帰ってきた人だよ。凄腕の冒険者なんだって」
「へー」
凄腕かぁ。竜のお守り持ってるぐらいだからそうなんだろうな。
「それより姉ちゃん。奉納品の祈祷するんだから戻って準備してよ」
「えー。気分が乗らない」
「乗る乗らないの話じゃないの。いいから準備して」
「しょうがないわねぇ」
祈祷が始まり祭壇で終わるのを待つ。
御簾の中に座って神主の祈祷を聞くのだが、早く終わって欲しいと毎回思う。
「それでは奉納品をこちらにお納めください」
「はい」
「うっ!」
男が竜のお守りの袋の中から出したものを見て私は変な声を出してしまった。
「う?」
「な、なんでもない。それが奉納品か?」
「はい。私達を一緒にさせてくれたお守りです」
「そうか。良いのか?」
「はい。一つは私達で持っていますので」
「わかった。では大事にこちらで保管しよう」
「ありがとうございます」
神主はお守りを息子に渡し、息子は奥へそれを運んでいった。
・・・なにあれ。
なにあれ!!お守りとかそんなレベルじゃない気を放ってるんですけど!?
竜のお守りのせいだと思ったら原因はアレだ!間違いない!
何かよくわかんない木の剣みたいなものだったけど、なんなの?
あーもーアイツが運んでいった奥と目の前の女から同じ気を感じて辛い。
もーやだー。早く終わって帰って欲しい。
奉納の儀が終わり、二人は満足そうに帰って行った。
それはいいんだけど、二人が奉納していったこれ、どうしよう。
「姉ちゃん、何してんの?」
「あーアンタか。ちょっと考え事」
「姉ちゃんが考え事なんて明日雪でも降るんじゃないの?」
「うっさいわね。ホントどうしようかなぁコレ」
「今日奉納されたこれ?東の方で流行ってる恋愛成就のお守りって言ってたよ」
お守りねぇ。
この子も一応神職の端くれ。一応神気や邪気というものをある程度は感じ取れる。
普通のお守りならそういう気配を感じ取るぐらいは出来るはずなのよね。
そんな子がこれを見て何も感じないというのが不思議なところ。
神主も何も感じなかったみたいだし、神の私だけが気付けるような力ってなんなんだろう。
恐る恐る奉納品を触ってみる。
・・・あ、そういうことか。
「ふふふ、んふふふふ」
「ね、ねーちゃん?」
「あはははは。なぁんだ、そういうことか」
「どうしたの?大丈夫?頭大丈夫?」
「あーもーうるさいわね。折角この神社の格が上がったというのに」
「そうなの?」
「そうなの。たぶん」
「ふーん?でも今の姉ちゃんじゃ直ぐに下がるんじゃない?」
「アンタ本当に口が減らないわね。ちゃんとやるわよ、今後は」
「本当かなぁ・・・」
コイツの事は放って置いて私は心を新たに決意する。
これを触ってわかったこと。
それはこの世界には私よりもっと、竜なんかよりもっと凄い存在がいる。
その存在はとても温かい、包み込むような存在だということ。
なんとなくそれは小さい頃に母様から感じたものに似ている気がした。
「姉ちゃん。これ今日の祈祷表」
「ん」
あれからしばらく経った。
あの奉納品から感じる気配に私は倣うことにした。
あの温かい感じを氏子達にも感じて欲しいので頑張る事にした。
神主の息子も私の頑張りを見て立派な神主になれるよう頑張っているようだ。
「あ、そこ字間違えてる。ここ形がずれてるからやり直しね。あとは・・・」
「あーもーうっさい!」
色々変化はあったけど、こいつの口煩さは相変わらずだった。
あーあ、どうして私はこんなのを将来の夫として決めちゃったんだろうなぁ。
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