軽い運動
今日も下界のギルドの観察。
正確に言うと今ギルドで依頼を物色している五人組の冒険者の観察をしている。
冒険者の多くは複数人で徒党を組んで活動しているが、基本的に種族や性別が違う混成部隊になっている。
そんな中、若い女性のみ五人という珍しい冒険者がいた。
年も皆同じぐらいで出身地もオアシスの街で同じ。
お揃いの木剣のキーホルダーを持っているな。
仲良し五人組で冒険者を始めた感じなんだろう。
五人組はオアシスの街から移動し、草原の街のギルドから依頼を請けて活動している。
草原の街のギルドは手広くやっているおかげで、他のギルドより依頼に幅があり、初心者から熟練者まで多くの人が利用している。
一方オアシスの街の場合、ギルドに寄せられる依頼が地域的に若干特殊だったりと初心者が扱うには難しいものが多い。
普通オアシスの街の人が冒険者になる場合、斡旋所の所属になり、先輩と共に行動して腕を磨くようになっている。
しかし、そうなると斡旋所所属にならざるを得なく、この五人組のようにどうしても気の合う仲間で活動したいと思う人達には少々難が出てしまう。
そこでそういう人は草原の街に移動してから冒険者になる。
草原の街のギルドでは初心者へのバックアップが手厚く、生活できる賃貸物件の紹介、街の外での討伐や採取の依頼時には回復品の提供、必要に応じて武具の貸し出しなど行っている。
どれも頭に最低限の文字は付くが、他の場所のギルドではこのようなサービスすらない。
何故このようなサービスをしているかと言えば、やはり信頼と効率が関わっているようだ。勉強になる。
さて、注目の五人組だが今日は討伐依頼を請けるみたいだ。
内容は街の外にいる指定の生物の討伐。
この指定の生物は直接人を襲うような危険な生物ではないのだが、増えるとそれはそれで問題なので適度に間引くのが目的だな。
生物の種類、討伐を行う場所、必要最小数に追加報酬最大数と事細かに指定されている。
北のダンジョンもそうだが、必要以上に刺激しないのが草原の街の方針のようで、ギルドもそれに倣った依頼内容を出している。
生態系が崩れそうになったりすると突如攻勢に出たり、突然変異が生まれたりするからな。いい方針だと思う。
五人組は現在初心者枠の中域程の評価を受けており、ギルドの貸し出し武具からは卒業しているようだ。
うーん、前の世界だと学生をしていそうな年の子が武器を振り回して戦っているのを見ると何か複雑な気持ちになる。
この世界であればこれが普通なんだが、どうにも心配で見守りたくなるんだよなぁ。女子だけの徒党だし。
ま、木剣キーホルダーを持っている事だし、本当にあぶない状態になったら分からない程度に加護をすればいいかな。
毎回そういう風に思ってるけど、下界の人達は逞しいので殆どそんな事する機会ないんだけどね。
とりあえず見ていて面白いので見守っていこうと思う。
「んっ・・・よし」
屈伸や伸脚で体を軽くストレッチしてから歩き出す。
歩幅は大きめ、早さも負荷をかける感じで。
今日はサチが所用で出かけてるので、軽く運動でもしようかと。
神の体なので別に鈍ってる感じとか特にないのだが、気分的にちょっと動きたい。
島の半分ほど進んだが、体力が衰えてる感じはない。
・・・毎晩別の運動してるおかげかな?
とはいえ使う筋肉が違うので少しずつ使っている部分に疲労がたまっていくのが分かる。
一周すると程よく息が上がる。
近くの石に腰掛けてちょっと休むとあっという間に上がった息は戻り、足にたまってた疲労も抜ける。
神の体になったことでこのあたりの回復速度が凄まじく速いのはありがたい。
今度は歩きから軽いジョギングに変えて走ってみる。
一周すると先ほどより息が上がる。
ふーむ、やっぱりこのあたりは人と変わらないな。
今度は家の正面の一本道を家に向かってダッシュしてみる。
ダッシュしては休み、ダッシュしては休みを繰り返してみるが、直後は息が上がってしんどいが直ぐに戻る。
普通だと繰り返せば次第に消耗していくのだが、その感じが無く、何度やっても同じぐらいの速さで走れる。
ふむふむ、大分神の体について分かってきたな。
どうやら神の体は常時回復状態と休息回復状態の二つがあるようで、前者は消耗を抑える程度だが常に機能しており、後者は体が休む体勢になると機能するようだ。
以前学校で子供達に追い掛け回された時は休む暇なく走り回ったのでへばってしまったんだな。
しかし、本当にこれが神の体なのだろうか。
確かに回復速度は人を大きく超えているが、それ以外は身体能力の高い人間と余り変わらない。
下界の亜人種の方がよっぽど身体能力が高いように感じる。
そういえば人の体は一定以上に力が引き出せないように無意識に制御してるとかなんとか。
運動選手とかはその制御の幅を如何に広げるかが大事になるらしい。
という事は俺も自制が働いているのかもしれないな。
んー・・・ちょっと気になるけどやめておくか。体壊しても良くないし。
後は下界の人達がやっているような身体強化だな。
下界なら魔法、こっちなら念でやれるが、これも俺は出来ない。
しょうがない、それなりに汗もかいたし、終わりにして風呂にでも入ってこよう。
「それで今日は島の周りを走ったりしていたと」
「うん」
夕食時、帰ってきたサチに今日やっていた事を話す。
それを聞いてサチが渋い顔をしている。
「何か問題でもあったか?」
「あー・・・いえ、問題といいますか・・・うーん・・・」
「いいから言ってみ」
「その、神様たる者がそのように島の周りを走り、汗だくになっている様子を他の誰かが見たらどのように感じるのかと」
「あぁ、そういうことか。少し迂闊だったかな」
「いえ、そもそもそのような機会を設けなかった私が悪いのでソウが気にする事はありません。仮に目撃者が居てもソウはそういう方だと認識させれば良い事ですし」
「そうか。悪いね、手間かけさせて」
「問題ありません。今後は定期的に運動する機会を入れますね」
「うん。よろしく頼む」
「丁度警備隊から訓練視察の話が来ていましたので、参加できるよう調整しておくと返しておきます」
「え、訓練?しかも参加?」
「運動不足解消には良いかと」
「いやいや、多分俺警備隊の人達より貧弱だぞ」
「大丈夫です、その辺りもちゃんと伝えておきますので」
「・・・もしかして怒ってる?」
「いえ、そんな事は決して。ただ先に一人でお風呂を堪能したのがずるいなと思っただけです」
怒ってはいないが不貞腐れてはいるな。
「わかったわかった、夕飯食べたら入ろうな。そっちでデザートでも食べながら入ろう」
「・・・デザートは何ですか?」
「そうだな・・・プリンアラモードっていうプリンにフルーツやクリームを添えたやつでどうだ?」
「っ!し、仕方ありませんね、ソウがそこまで言うなら一緒に入ってあげてもいいですよ」
どうやらお気に召したようだ。
だからってそんな慌てて夕飯を食べなくてもいいだろうに。
その後入った風呂でサチは終始ご満悦そうだった。
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