スライムの不思議な儀式
今日は久しぶりに下界のスライムに注目して観察している。
というのもどうもここ数日、一定の範囲のスライムが少しずつだが一箇所に集まって行っているようなのだ。
例えば草原の街の付近に生息するスライムなら、そこから然程遠くない草原地帯のとある場所。
砂漠のスライムであれば、隕石落下地点など。
共通しているのは人が滅多に来ないような静かな場所だ。
集まるスライムはどれも知能が無い単一種で、基本的にどの種も普段はのほほんと生きているようなスライム達だ。
そんな知能の無いスライムが一箇所に集まるという不思議な現象は一体なんなのだろうか。
観察を続けていると、草原地帯の一箇所に集まったグリーンスライムが夜に次々と合体を始めた。
合体を続けていくとどんどん大きくなっていく。
サブウィンドウの種族名表示も次々変化して行っているな。
そしてマスターグリーンスライムと表示になったところで合体が止まった。
すると今度は合体したスライムがぼんやりと光り、数秒するとはじけ飛ぶように破裂して、いつものグリーンスライム達に戻った。
うーん、一体なんだったんだろうか。
他の場所でも同じように合体してぼんやり光り、そしてまた分裂をいうのをやっている。
分裂したスライム達は元来た道を戻るように分散していってる。
そのまま夜は明け、結局なんだったのか分からず終いだった。
なんだったのかと考えていると、サチが一つパネルをよこしてきた。
するとそこには、かんしゃ、とだけ書かれた願い事が沢山並んでいた。
送り主は先ほど合体分裂をしていた各マスタースライムから。
・・・泣くかと思った。
まさか知能の無いスライム達がわざわざ集まって感謝をしてくれるなんて思いもしなかった。
こういう不意打ちに弱いんだよな、俺。
よくよく調べたら一瞬だけ信者になっていたのが分かった。
どうやらマスタースライムになると信者になるようだ。
彼らとしては自然への感謝なのかもしれないが、今はそれが信仰に繋がっているからこのような事になったのだろう。
ふむ、今回の事で色々な事が分かったな。
スライムの生態の新たな発見もだが、数秒程度だと信者になっても視野範囲が作られないという事もわかった。
それにここまで来るということはその願いの純度は高い。
いや、こういう生き物だから純度の高い願いが出来るのかもしれないな。
スライムが信者か。
あれだけ数が居れば大丈夫だとは思うが、一応絶滅しないように気にはしておこうかな。
今日は、今日こそは料理をする日にした。
最近は色々あって作り置きが大分減ってきてしまったし。
空間収納のおかげで出来る時に作れば後は保存が利くのがこの世界のいいところだと思う。
物があまり置いてないキッチンの広さをいい事に、あれこれ並べて並行作業で進めていく。
特にお菓子類は時間がかかる。
うちには甘いもの好きがいるしな。リクエストには応えねば。
「ふぅ、ソウ、ちょっと休憩してもいいですか?」
「うん。無理するな」
サチには先ほどから念を使った調理をしてもらっている。
サチの念による調理もなかなか上手くなったもので、失敗する事はほぼ無くなった。
代わりに精度を高めた分疲れるのも早くなり、今日みたいに色々作る日は休憩を挟んでもらっている。
今は俺の調理を見ながら出来立てのプリンを頬張って幸せそうにしているな。
サチは俺の拙い料理でもとても美味しそうに食ってくれるのが嬉しい。
そういえば今まで苦手や嫌いで残した事って無いな。
まさか俺が作ったからって無理してないだろうか。
「なんですか?あげませんよ?」
「いや、いいよ。沢山作ったし。そうじゃなくて、サチは好き嫌いしないなって思って」
「しますよ。基本的にソウの作るものは美味しいので好きですが、このプリンやアイスは中でも特に好きです」
「嫌いなものは?」
「・・・そういえばどうしても嫌いというものは思い当たりませんね」
「そうだろう」
「それはソウがいつもちゃんと味見をしてから出してくれているからだと思いますよ。酷いものは絶対他人に出さないではないですか」
「そういえばそうだな」
「いずれ私や農園の人達が調理の技術が向上して、ソウのように色々と作れるようになり、食の経験が増えてきたら、もしかすると嫌いなものも出てくるかもしれません」
「そっか。もしそういうのが出てきたらちゃんと教えてくれ。考えるから」
「はい。ありがとうございます」
食の経験か。
俺もそこまで多い方ではないが、それでもこの空間では上位に来るだろうからな。
だが、もっと色々なものを試してみたい。
うーん、そうなると調味料不足がやはり辛いところだなぁ。どうにかしたいものだ。
キッチンには小さな窓が付いているのだが、焼き菓子を作り始めた頃からチラチラと人らしき姿が見え隠れしている。
「サチ、アレどうする?」
「放っておきましょう」
「え、でもアレ風の精の母だろ?いいのか?」
見え隠れしている姿は緑色をしており、明らかに普通の風の精より大きい。
あ、窓に気付いてこっちを覗き込んでる。
「こっち見てるけど」
「・・・はぁ、仕方ありませんね」
そういうとサチは窓を少しだけあける。
すると風の精の母はその隙間に顔を押し込んで思い切り息を吸い込んで来た。
おぉ、流石風の精。空気の流れが変わった。
様子を見ていると続けてというジェスチャーをしてきたので調理作業を続行する。
なんか換気扇のような事をしてもらって悪いなと思ったが、見ると恍惚とした表情を浮かべていたので気にしない事にした。
菓子作りも大分落ち着いたので、次の料理に移る。
「あ、辛いもの作るから気をつけてな」
うんうんって頷いてるけど大丈夫かな。
辛さや酸味が強い料理を作っていると、サチが笑いを堪えているのに気付いた。
どうしたのかと思って視線の先を見ると風の精の母が凄い顔していた。
涙目なのに目は見開いていて、眉間に皺が寄り、眉はハの字に歪んでいる。
そんな顔するなら嗅ぐのやめればいいのに。
気にせず続けて?そうか、凄い執念だな。
その後は風の精の母の顔にちょくちょくサチの集中力が乱され、失敗品が少し増えたが、それでも結構な量の料理が出来た。
「ふー」
「お疲れ様でした」
「これだけ作ればしばらくは大丈夫かな」
「そうですね」
風の精の母も調理が終わったので変な顔からいつもの綺麗な顔に戻ってる。
ん?終わったようだから帰る?
そうか。子供達によろしくな。
夜。
「ぁー・・・」
「ぅー・・・」
食べすぎで布団で横になって消化に全力を注いでいる俺とサチ。
こんなの絶対他には見せられない状態だ。
この状態だと集中力も働かないので念でどうにかする事も出来ない。
数日に一回ぐらいの間隔でこんな日になってる気がする。
自制しなければと思うのだが、美味そうに食べるサチを見るとついついつられてしまうんだよなぁ。
一応太らないためにこういう日の運動は激しめにしてる。
・・・。
サチの狙いはそこだったりするのか?
いや、まさかな。
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