掘り出し者

下界のオアシス周囲を見てて思ったのは結構砂漠も雨が降るという事。


雨量も結構あって一時的に川が出来たりもしていた。


この雨が地下水になってオアシスで湧き出るのか。なるほどね。


どうして今日オアシスに注目しているかというとオアシスの街の信者が増えていたからだ。


オアシスの街は基本勇者の末裔とヒーラーの子ぐらいしか居なかったのだがどうやらその二人が要因らしい。


元々一人で戦えるぐらいに強い末裔がヒーラーと組んだことで安定感が増し、街の周囲で活動することで名を上げていた。


有名になってくると人はどういう人物か気になるので、その二人組みに注目するとそれが何とも見守りたくなるような雰囲気。


こういう場合双方それぞれちょっかい出されて関係がこじれたりするものだが、斡旋所の存在がそれを二人にばれないように解決していた。


斡旋所からすればくっついて謝礼金が貰えないと損しかないので全力でサポートしている。


そんなわけで当人らが気付かないところで二人に憧れる人が増えている。


特に街の女子が憧れており、街の外から来た人、運命の出会い、仲睦まじい様子というのがそれを後押ししていわばファンのような状態になっていた。


そうなると女子というのは面白いもので関係するあらゆるものに興味を示し始める。


その中の一つに信仰先があり、興味半分で信者になってくれた人が出てきたというわけだ。


俺からすれば完全に棚ぼたなんだが、なんであれ喜ばしい事だ。


もちろんちゃんと叶えられそうな願いは叶えている。


素敵な出会いをありがとうございますってお礼が来てるけど、俺はその前の親友二人が再び仲良くなるようにって願いの方にちょっかい出しただけなんだけど。


どういうわけか結果として仲を取り持った男とくっついたりするものだから縁というのは面白い。


そんな感じで常駐する信者が増えてよかったなとか思ってたらみるみる信者の数が増えていった。


「どうやらあるアイテムが信者を増やす効果を発揮しているようです」


「どんなの?」


「これです」


サチが画面をズームして見せてくれたのは木剣をモチーフにしたキーホルダーだ。


お土産屋を中心に勇者の魔法の針をモチーフにしたキーホルダーと一緒に売られているが、入荷すると瞬く間に売れて行っている。


「どういうこと?」


「どうやらこれを付けていると良い出会いがあると言う噂が広がったようで、若い女性を中心に流行しているようです」


「マジか」


「ちなみにこれの元になったのは勇者の剣です」


末裔が持っているアレか。


あーなるほど、末裔の仲の良さに憧れた女性が結果的に良縁に巡り合ったからか。


完全に勘違いなんだけど、どうしよう。


うーん、でもなんであれきっかけがあって信者になってくれるのであればそれを受け入れていくのが神の在り方かもしれないな。


前の世界でも擬人化されてキャラクターになった途端参拝客が激増したなんて話もあったな。


よし、甘んじて受け入れよう。


だからといって特に縁結びを頑張るつもりは無い。いつも通りでやる。


どうせ縁結びだなんだってのは斡旋所が率先してやってくれるだろうしな。


流行が去れば落ち着くだろうし、今回がきっかけで結ばれた人はそのまま信者として残ってくれるだろうから、そういう人達を大切にしていこう。



家に帰るとアストから荷物が届いていた。


ふむ、前回頼んだものと同じものが多いな。


新しいものは手間取ってしまうから先に出来るものだけ送ってきた感じか。


「現在職人仲間と相談しながら製作に取り組んでいるようです」


「そうか。何か礼の品を、いや、期日は設けないので存分に腕を揮って欲しい、期待している。と返しておいてくれ」


「わかりました」


この前ユーミに言われて気付いた事がある。


俺は俺なりの、神なりの立ち振る舞いというものを少し身につけなければならないようだ。


物で感謝を表す方法もあるが、彼ら職人であればこのような言葉の方がいいと思う。


俺がこの世界の命運を握っている以上、立場が上であることは避けられない事実だ。


ならば上の者なりの感謝や気遣いを見せる方が喜ばれるのではないかと。


ま、身近にいい手本がいるから見習わせてもらおう。


「ソウもなかなか彼らの心をくすぐるのが上手いですね」


「ふふふ、俺も日々進化してるんだよ」


「その調子で頑張ってください」


「あぁ。でも慣れてない事だから何か間違ってたらすかさず訂正してくれ」


「わかりました。それで今日はどうします?」


「早速これをルミナのところに届けよう。早いに越したことはない」


「了解です。収納次第転移します」


さーて、今日はお料理教室だな。




「サチナリアちゃーーーん!」


農園の建物の前でいつものお迎え。


「みんないつも迎えてくれてありがとね」


「いえいえ、教わる身ですからこのぐらいはさせてください」


ルミナは放置して後ろの天使達と挨拶を交わす。


「ちょっと、ソウ!くっ、これは、あんまりじゃ、ないですか!?」


ルミナの抱擁突撃を避けながらサチが悲鳴を上げている。


「今日のサチナリア様はなかなかしぶといですね」


「ルミナが手抜いてるからだろ?」


「わかりますか。あのぐらいのルミナテース様なら私達でも勝てますね」


「そうね。あ、一段階身体能力を上げましたね」


「あ、あー、捕まっちゃった。いいなぁサチナリア様の肌柔らかそう。私もすりすりしたい」


「それは勘弁してやってくれ。多分泣き出すから」


「そうなんですか?それはそれで見てみたい!」


「見たい見たい!」


「ちょっと!貴女達!見てないでこの怪力上司を止めてください!」


天使達と並んで様子を見ていたが、ルミナがトリップし始めたので皆で止めに入った。




「それでは本日の座学を始めます」


メガネをかけて差し棒を手の上にぺしぺし当てながらサチは調理室内の皆に言う。


オアシスの街の影響なのか前よりなりきり具合が増してる気がするんだが気のせいだろうか。


さっきまで助けるのが遅れた事にプリプリ怒ってたが、今日はシャーベットアイスを作る事を伝えたら許してもらえた。


その時の悪い笑みたるや他の人には見せられないものだったが。


座学の内容は冷やして固める事とシャーベットの作り方。


包丁の数に限りがあるから今日から班を組んで本格的に実習開始するようだ。


俺は待ってる間に作ってもらってた小麦粉の出来栄えの確認をしている。


ふーむ、結構差があるな。


とりあえず簡単に粗いのと細かいのの二つに分けておこう。


どっちがいいというわけではなく、それぞれ用途があるからな。大事に扱おう。


あ、講義終わった?あいよー。


んじゃ手本のシャーベット作りますか。




手本をやったあと各班で実習開始。


俺はブラブラ各班を見てまわっている。家庭科の先生の気分。


今回使う果物は班の自由選択。ただし一種類のみ。


相性のいい果物を混ぜて作ったりしてもいいとは思うんだけど、試食した時味がわからなくなるので今回は禁止。


やるなら終わった後でやって欲しい。


ちなみにサチはルミナと同じ班に入って一緒にやっている。主に口出し担当。


「ちょっと、そんな力一杯やると果肉が飛び散ります!」


「あはは、ごめーん。力の加減が難しくって」


・・うん、結構楽しそうにやってるな。


黄色い声が飛び交ってて気分は完全に女子学校の先生だ。


ふむ、結構班によって差が出るな。


丁寧に絞った果汁のところ、逆に粗くて果肉も混じっているところ、綺麗に凍らせているところ、完全に凍ってしまって包丁で砕いているところ。


そんな中一箇所既に作り終えたところがあった。


「もう出来たの?」


「は、はい」


目が見えるか見えないかぐらいまで前髪が落ちている子が答えてくれる。


「ユキちゃん凄いんですよ、あっという間にぱぱっとやってしまって」


この子ユキっていうのか。


地味な見た目だが、何だろう、妙に気になる。


「ちょっと作ったもの見せてもらえる?」


「あ、はい」


溶けないように空間収納に仕舞っていたようで、出してくれる。


「頂いてもいいかな?」


「はい、もちろんです」


許可を貰って一口貰う。


ふむ、果物は桃か。


果汁を凍らせた粒もさらっとしててきめ細かいのも凄いが、何よりそれとは別に氷の粒が入っている。


「これ氷の粒が入ってるけど」


「ご、ごめんなさい。私その作物の担当なのですが、味が濃かったので後から氷を足してみたんです」


「ほら、やっぱりソウ様なら気付くって言ったじゃない」


俯くユキにほかの子が追い討ちをかけてるが、俺はそれに待ったをかける。


「いや、これは凄いよ」


「え?」


「味の濃さがいい感じに氷で薄まって果汁のくどさが抜けて美味しい」


「本当ですか?」


「うん。正直驚いた」


本当に驚いた。


まさかアレンジしてくる子がいるとは。


もしかするとこのユキという子は料理の才があるのかもしれない。


「ユキって言ったっけ」


「は、はい」


「今後も何か作ってて試したい事があったらどんどん試してみていいよ」


「え、いいのですか?」


「うん、本来料理ってそういうものだから。もし不安なら俺に聞きに来ていいから」


「はい、ありがとうございます」


怒られるとでも思ってたのかな、意外な顔した後に嬉しそうにに微笑んでる。


「えっと、ソウ様。それってユキちゃんが凄いんですか?」


「ん?うん。少なくとも今のみんなより少なくとも頭一つ抜き出てるかな」


おぉ、と周りの子達から感嘆の声が上がる。


「そんな、買いかぶりすぎです」


「買いかぶりすぎかどうかは今後のユキの研鑽次第かな」


「あぅ。頑張って、みます」


俺一人じゃ教えることに限界があるから出来れば将来教える側に来てもらいたいものだ。



他の班も見てまわって最後にルミナの班に戻ってくる。


ユキのところで試食したのを他の班の子にも見られてたせいか、班の中で一番良い出来のを試食する流れになって戻るのに時間が掛かってしまった。


「随分盛り上がってましたね」


「あぁうん、ちょっとね。こっちも出来たか?」


「はい!ばっちりです!」


「よく言います。私の方が上手く出来ましたよ、ソウ」


ルミナとサチがそれぞれ出来たシャーベットを見せてくれる。


「ちなみにこの班で一番出来がいいのは?」


「・・・」


無言で他の班員の子を指差すサチとルミナ。


だよな、どう見てもこっちの子の方が出来が良い。


「味見していいかな?」


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


一口貰い、味見。


うん、他の班を見て来て思ったが、やはりユキだけ飛び抜けてる感じがする。


いや、他の子も見込みはある子もいたし、そのうち開花する子も出てくるかもしれないな。


「むー、私もソウ様に味見して貰いたかったなー」


「くっ、私は家で見ていたはずなのに・・・」


サチとルミナはそれぞれ恨み言を言ってるが今回は残念だったな。


「ごちそうさま。次も頑張って」


「はい!ありがとうございます!」


サチとルミナの視線が刺さるが気にせず試食させてもらった子に礼を言ってから部屋の皆に言う。


「それじゃ後は各自で食べてみてくれ。自分のやつもそうだが班員のと食べ比べてみるのもいいぞ」


言い終わると同時にみんな一斉に食べ始める。


そして半数以上が頭を抱えて悶絶し始める。


「・・・ぶふっ」


はいはい、サチさんはコレが見たかったのね。


その肩を震わせて笑っているサチの隣のルミナは平然とシャーベットを食べている。


「ルミナは頭痛くならないのか?」


「なってますけど、この程度どうという事はありません」


た、耐えながら食ってるのか。


想定外の回答に笑ってたサチも驚いてルミナの方に振り向いてる。


「ルミナ、味わかるか?」


頷いてる、わかってはいるのか。


「急いで食べるのもいいけど、ちゃんと今回の反省点を考えながら自分のを食べないと次に生かせないからな」


はっと何かに気付いたようで動きが止まる。


「ぐるっと見て来たけど既にルミナより二歩三歩先を歩いている子もいたが、さて、ルミナはどうする?」


「あ、味合わせて頂きます」


半分ほど減ったシャーベットに再び向かい合って今度はゆっくり食べている。


うんうん、ん?サチがこっち見てる。


「なんだ?サチ」


「いえ、せっかちなルミナテースを落ち着かせるとはやりますね」


「そうかな。出来れば落ちこぼれを出したくないだけだよ」


「えっ、ソウ様?それって実は私って下の方ですか?」


会話を聞いていたルミナが食べるのを止めて聞いてくる。


「あ、うん、実は。サチも実は下から数えた方が早い」


「そ、そんな・・・」


二人してショックを受けているみたいだが事実だからしょうがない。


「そんな落ち込むなって、最初なんだし。何だったらこの後補習でもするか?」


「是非!」


お、おう。ルミナはともかくサチ、お前まで来るか。圧が凄いぞ。




食後補習組と自習組で分かれて再実習になった。


自習組はユキをはじめとした上手く出来た人が二種の果物で作ったりあれこれ意見の出し合いをしている。


それに付いて行けない人が補習組に集まっている。


ルミナやサチ、他数名の下から数えて早い子は実技補習。


それより上の子は見学しながら質問や雑談。


どっちも自由参加なので双方を行ったり来たりしてる子もいる。


何にせよ料理に対してみんな前向きに取り組んでくれている事が嬉しい。


ほら、ルミナは力任せにやらない。


サチは慎重にやりすぎ。


うん、そこの子、凍らせるのに失敗しても諦めない。どうにかする方法あるから。


え?自習組で四角く一口サイズにしたのを作ってる?


発案者は?ユキか。あいつホント凄いな。


結局結構長い時間料理教室をしてしまった。


夕飯入るかなぁ。

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