第115話

マウンテンゴリラ型の自動人形の動物装甲アニマル・アルマは防御力と筋力に特化した近接戦闘タイプの一つだ。しかし、よくあるゴツイタイプの強化外骨格によくあるような移動速度を犠牲にしているわけでもない。ここまで調整するのに苦労したのだが、今この時のための苦労だと思えばこそだな


そんな過去の苦労を思い出しながら、規格外のロングソードや血の鎧などの重量をまるで感じさせないような縦横無尽に様々な角度から自由に仕掛けてくるテオバルトを捌いていく。こいつら動物型の自動人形は、元々貴重な魔金属類を豊富に使っている。戦乙女たちのようにウルツァイトのみで構成されているわけではなく改修した際にウルツァイトの強化が出来ないかと様々な実験をした結果、相性の良い魔金属が幾つか存在するのが判明した。動物型の自動人形はそれらの相性の良かった魔金属とウルツァイトを錬金術を用いて混ぜ合わせる事で完成した魔金属を使用している


「ハハハハハハ‼」(テオバルト)


最早、テオバルトは戦闘に興奮しすぎて笑い声しか上げなくなってしまっている。ロングソードも興奮しているかのように魔力の波打ちの鼓動の感覚が早くなっている。それに伴ってテオバルト自身の動きもロングソードの威力も剣速も異様なまでに、加速度的に上がってきている。しかし、俺の装甲には細かく薄っすらとした傷しかついていない


しかし、俺の攻撃もテオバルトには致命的なものには至っていない。血の武装一式の防御力は高く、吸血鬼としての再生力と相まって余程の威力がないと致命傷にはなりえない。だがそれを補ってくれるのが他の動物型の自動人形たちだ。鳥型の自動人形は上空からの魔術を放ちながらも、上空からの視界を共有してテオバルトの様々な角度からの動きを監視している。他の陸上型のタイプの自動人形たちは俺の動きのサポートと、テオバルトの動きの牽制と隙があれば一撃離脱でチクチクと攻撃を与えて集中力を削いでいる


「どれもこれもが一級品だな‼壊すのが勿体ないな‼」(テオバルト)

「そういう事は実際に壊してから言え‼」

「ハハハハ、その通りだな‼では…………」(テオバルト)


テオバルトの闘気が上っていくごとにロングソードの心臓のように波打つ鼓動が強く大きくなっていく。濃密な魔力がロングソードから吹き荒れる。ロングソードの剣身が赤黒い色から徐々に真紅に染まっていく。俺はマウンテンゴリラ型の自動人形の機能の開放を行う。相手から感知されないように外見上も魔力面から見ても、変化がないように調整に調整を重ねた。そのため、テオバルトは俺が魔力を練り上げていることも気づくことなく興奮して真っ直ぐに突っ込んでくる


探知用の魔糸が奥から手前に向けてもの凄い反応を示す。先程と同様に瞬きの間に俺の目の前に唐竹割からたけわりの構えでロングソードを振り下ろそうとしている。その瞬間に俺はマウンテンゴリラ型の自動人形に組み込んだ能力を使用する


「こ……れ、は⁉」(テオバルト)


テオバルトは一切の身動きが取れないままに地面に縫い付けられている。しかし、テオバルトが吸血鬼としての人外の身体能力を最大限に発揮して起き上がろうとする。身体のあちこちからギチギチ、ブチブチと関節や筋肉が痛む音が聞こえるが、高速再生の恩恵を持ってゴリ押しして立ち上がる


〈なら、もう一段階上げる〉


俺は能力による力の開放の段階を一段階上げて対応すると、流石に対応できないのかテオバルトの身体が反動でさらに深く地面に沈み込んでいく。テオバルトは再び無理やり起き上がろうとするが、今度は完全に封殺している。そのまま抑え続けていれば、と思っていた。だが、そこまでは甘くなくテオバルトの魔力が急速に高まり一気にテオバルトの心臓に向かって圧縮される


俺が発動させていた能力の効果をものともせずに、なにも感じていないような様子でスッと立ち上がる


「ふう、厄介な力を持っているようだな。ここまでいいようにやられるとは流石に予想外だった。だが、俺には通じん‼」(テオバルト)


テオバルトのキラキラ輝いていた銀髪が真紅に染まっている。目の色もより鮮やかな赤に変わっている。そして、何よりも変わっているのはロングソードだ。柄や剣身の長さが異常なまでの長さをしていたが外見的には普通のロングソードだったが、ヒルト(柄)は真っ黒に染まり、ガード(鍔)は姿を変える。ガードは吸血鬼を示すような蝙蝠の翼の姿に変わり、それが翼を広げた状態で固定される。剣身は中心が真っ黒になり、そこから外側、刃の部分に行くにしたがって赤黒い色から真紅にグラデーションになっていっている


最後に、血で構成された不死の兜が消えてなくなる。そして、テオバルトの真紅に染まった短髪が急速に伸びていき、腰のあたりまで伸びると止まる。そして、纏っている血の武装に漆黒の闇の魔力が混ざっていく。今までは血の魔力が存在感を示していたが闇の魔力が混ざる事でより一層、強烈な存在感を放っている


「さあ、往くぞ‼」(テオバルト)


超加速による接近からの一振り。薄っすらとした傷しかつかなかった装甲に少しだけ深い傷が出来る。様々なタイプの動物型の自動人形の中でもトップクラスの防御装甲を持つマウンテンゴリラ型の装甲にここまで傷を残すのは驚異的だ


〈これが完全に文字通りの本気になった状態の吸血鬼か‼〉


闇と血の魔力が混じり合い、滑らかに闇に潜むように動く。無意識の領域を熟知しているのだろう、一瞬でも視界から逃すと前後左右のどこにでも現れてロングソードが振るわれる。ロングソードも飛翔してくる血の刃と闇と血の魔力の混じった魔刃、刃そのものを纏って強化してくる状態を巧みに使い分けてくる


恐らくは、前後左右にどこでも現れるのは竜人族の里で見たクソ山羊と同じように影に潜っての移動か、影と影の間のみに限定し特化した瞬間移動テレポートだ。これが出来る使い手は長とヘクトル爺とルイス姉さん以外で初めて見た


〈広範囲での能力使用は恐らくは通用しないな。なら………今度はこっちでいく〉


俺は自らの全身を対象にして能力を使用する。俺は一歩踏み込んで一気に空に跳び上がる。テオバルトはそれを見て急速に魔力をロングソードの剣身に圧縮していく。赤熱したかのようにより真っ赤になっていく刃。ロングソードの全体からユラユラと具現化するほどの濃い魔力が漏れ出ている


俺は遥か高い上空で自身を対象にした能力の効果をさせる。能力の効果と魔力の爆発を推進力の代わりにして、急降下する。俺は右拳に能力と魔力を重ね掛けしていく。俺はテオバルトに拳を振り下ろし、テオバルトは俺の右拳目掛けてロングソードを振るう


魔力同士が反発し合い、火花を散らす。互角だ。拳と刃が拮抗している。そこにテオバルトはさらに踏み込む。踏み込んだ部分が蜘蛛の巣状に罅が入る。その踏み込みで形勢が僅かにテオバルトに傾く


〈んにゃろう‼そんなら、こっちもやったるわ‼≪二倍≫‼〉

「まだまだ‼フゥンンン‼」(テオバルト)


テオバルトも負けじと両腕の筋力を限界まで強化し、魔力も追加していく。再び拮抗状態に戻されるどころか、今度はこっちが押し込まれる。かつての試運転を兼ねた故郷の森での知性のない強力な魔獣や魔物たちでさえもここまで拮抗することも、逆に押し込まれることもなかった。やはり、永きを闘争に費やしてきた戦士は一筋縄ではいかない


「ウオオオオオララララララララ‼」

〈こいつでどうだ、≪四倍≫‼〉

「フゥウウウウウウウンンンンン‼」(テオバルト)


ついには魔力の反発が限界にきて、破裂して俺とテオバルトは互いに吹き飛んだ

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