第113話
俺は回収した左腕を右腕から無数の細かい魔糸を生成し、時を止めている切断面に斬り落とされた左腕を一ミリの誤差なく正確に血管から神経までを魔糸で縫い合わせて手術していく。全てを元通りにしたが完全にくっつくには時間も何回にも分けての高速再生による再生力と治癒魔術の重ね掛けが必要になる。だから縫い付けた無数の魔糸はそのまま縫い付けた状態にしておかなければならない
「ほほう、見事なまでの手際の良さではないか。しかし、その糸が腕に残っている所を見るに、完全に元通りになったようではないな?それならば、今度は癒すことも出来ぬほどの速さと威力で仕留めてやろう」(テオバルト)
テオバルトはそう言うと、無造作にしかし正確に俺の首を狙ってロングソードをその場で振るう。俺は上空に魔力で形作った足場を使って上空に跳ぶ。そのすぐ後に、俺のいた場所の後方に位置している直線上の木々が一斉に綺麗な切断面をもって次々に倒れていく
テオバルトは上空にいる俺に向けて、ロングソードを目にも止まらぬ高速の刃で振るう。俺は縦・横・斜めと至る所に魔力による足場を作り出し、それを高速の速さで飛び跳ねてロングソードから放たれる飛翔する血の刃を避けていく。避けた先の雲が縦や横、斜めに切り裂かれていく
〈射程範囲は非常に長いな。だが、距離に伴う威力減衰はあるようだ。あの血の刃はテオバルトの魔力から生み出した血ではなく、あの魔剣に至りかけているロングソードが持っているのか溜め込んでいるのか分からない魔力を使って刃を生成しているな〉
先程の斬られた左腕の分の血も魔力も吸われている。それに、俺と出会う以前の膨大なまでの戦いの歴史の中で蓄えてきた魔力を隠しているはずだ。長期戦を考えても、少なくともテオバルトの魔力が切れるのは望みが薄いだろうな
足場を飛び跳ねながら、空中からテオバルトに向かって距離を詰める。九人の戦乙女たちも俺の周囲で陣形を構築しながら追随する。この戦乙女たちには血の刃の切断力を考慮して、硬化の魔術を最大限に重ね掛けして防御力を上げている
「
テオバルトがテンション高く愛剣に語り掛けると、それに応えるようにロングソードの赤黒さがさらに増し、剣身から血の蒸気が立ち昇り吹き荒れる。血の蒸気の嵐が吹き止むと、ロングソードの剣身は通常の時でさえも長かったのにも関わらず、そこに血と魔力によって作られた魔刃が伸びている
魔刃はロングソードの剣身が横になっていると確かに目に見えて存在しているのが分かるが、剣身を縦に変えるとその薄さから魔刃の存在が消えてしまう。これらの仕掛けを施すとことで、ロングソードの剣身の距離感を惑わせる事で相手の好きな距離での戦闘をさせにくくすることが出来るだろう
「…………フッ‼」(テオバルト)
テオバルトは再びその場から動くことなく、今度はその薄さから分かりずらい縦の剣身の状態で突きを放ってくる。先頭の位置にいる戦乙女が盾を構える。先程までの戦乙女なら簡単に盾ごと貫かれていたのかもしれないが、今は違う。最高レベルまで硬化された状態の戦乙女は盾で受けきる
「ほほう、先程までとは段違いの硬さだな‼お前の刃が止められているぞ‼」(テオバルト)
テオバルトがロングソードに挑発じみた事を言うと、魔刃の出力が上る。受け止めきれていた戦乙女の盾にピシリと小さい罅が入る。戦乙女に刃を受け流すように念話で指示を出し、綺麗に受け流して方向を変える。すると、タイミングを呼んだかのように、そこにテオバルト自身の魔力で生成された血の槍が襲い掛かる。その血の槍を残りの戦乙女たちが連携して防ごうとするが、血の槍は巧みに戦乙女の隙間を抜けて俺の元にたどり着く
〈下手に防いだり、触れるとまずいかもな。だったら…………〉
迫る血の槍の群れをこちらも無属性の魔力で生成した槍の群れで迎え撃つ。血の槍と無属性の槍がぶつかり合う。こちらの無属性の槍は魔力が霧散して消えていく。しかし、血の槍の方は血と魔力が弾け飛んだにも関わらず、血だけが集まって再び槍の形になる
「甘いぞ‼その程度の事で吸血鬼の
〈魔力がなくなっても、吸血鬼としての血を操る力での二段構えって訳か‼〉
気づいた時には既に飛び散っていた血を置き去りにテオバルトに近づいてしまっていた。後方から魔力を感じる事もなく、そして音もなく血が再び集まり、今度はロングソードの刃となって急接近してくる
俺の後ろに構えていた戦乙女の三体に魔糸を通して、練り上げて強化した火属性の魔力を流し込む。戦乙女の持つ剣が火属性の魔力によって強化され赤熱していく。戦乙女たちは迫りくる血の刃たちに向けて剣を振るっていく。流石に魔力が混じっていない純粋な血のみで出来ている刃の群れは振るわれた赤熱した剣によって蒸発して一瞬で消えていく
「いいぞ、いいぞ‼もっとだ、もっと楽しんで殺し合おう‼」(テオバルト)
テオバルトのテンションが上がっていくごとに、ロングソードの方も共鳴するかのように魔力の質が上がっていく
「
テオバルトの顔面以外の部分が全て鮮血に染まっていく。そして、握っているロングソードの柄から魔力が流れ込み、柄を持つ右腕から綺麗な鮮血が徐々に赤黒くなっていく。完全に染まりきると、血の鎧の背中側から血と魔力で構成された真っ赤なマントが翻る。テンションが最高潮になっているのか、右手で軽々と規格外のロングソードを扱い、肩に担ぐ
俺は戦乙女たちを俺を守る陣形から攻めの陣形に変える。九人の戦乙女それぞれに一つの属性に特化した魔力を練り上げて魔糸を通して流し込む。そこから悠然と立っているテオバルトに九人の戦乙女たちが連携して上や左右から時間差の攻撃を仕掛けていく
「素晴らしい連携だな‼自動人形とは思えんほどの滑らかな動きだな‼」(テオバルト)
〈さっきまでと動きも硬さも段違いだな。ロングソードを振るう腕の動きも尋常ではないぞ、あれは〉
極限までマナに近づけた魔糸は今も張り巡らせている。テオバルトの動きはその魔糸によって分かるのだが、分かるのとそれに対応して自分の身体が動くのかは別問題だ。戦乙女たちの隙のない攻撃の間に俺は自身の両手を
テオバルトが目視できないほどの薄さを誇る血の刃なら、こっちは目視できないほどの薄さと細さを誇る魔糸で勝負する。俺は魔糸を鞭の様にしならせて超極細の刃に変えて腕を振るう。テオバルトは戦乙女たちが仕掛けている間に俺が手を合わせて何かをしたのは分かっているようだが、手を離した俺がいきなり腕を自らに振るってきたことに一瞬訝しむ
「な、何⁉」(テオバルト)
俺の放った超極細の魔糸は音もなく視認されることもなくテオバルトに迫る。この段階で何かを俺がしたと認識したようだが、一瞬訝しんだことで動きが遅れ、俺の放った超極細の魔糸を避けることが出来なかった。放った魔糸は正確にテオバルトの左腕を五つに分割する。そのまま残りの右腕も切断しにかかるが、歴戦の戦士の超人的な直感で何かを感じ取ったのか、正確に迫りくる超極細の魔糸をロングソードを振って対応する
「…………チイッ‼」(テオバルト)
ロングソードは俺の超極細の魔糸が触れた部分から綺麗に切断され、超極細の魔糸はそのまま勢いを失うことなくテオバルトの右肩を切断した
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