第94話
マレクさんに連れられてたどり着いたのは前日に様々な美味しいものを食べさせてもらった里の中にある食堂だ。先程言っていたように姉さんやユリアさんから俺が調理が出来るという事を聞いていたために真っ先にここに連れてきたのだろう
「ユリアやレイア君から聞いているんだが、カイル君は調理が得意なんだろ?」(マレク)
「いえ、得意と言えるほどでは。まあ、男料理になりますがある程度は……」
「いやいや、それでも十分すぎるほどだよ。ここはいつも忙しいからね。一人でも経験者が手伝ってくれれば今日や明日はここで働いてくれている者たちも楽が出来るよ」(マレク)
「そうですね。そうなってくれれば嬉しいですけど」
「そうなるさ。では、往こうか」(マレク)
マレクさんに先導されて食堂の中に入っていくと、まだ時間帯的に朝食には遅く、昼食には早い時間帯にも関わらず戦場のように鬼気迫った雰囲気で食材の準備をしている狐人族の料理人の方々がいた。そんな中でもマレクさんは気にせずに食堂の受付カウンターに座っている女性に近づいていく。受付カウンターに座っていた女性もマレクさんに気付いて一礼する
「マレクさん、とそちらは?」(受付の女性)
「ああ、マリベルさん。この子はユリアの友達のカイル君ですよ。この里に来るのは初めての子で、お祭りにユリアが誘った子ですよ」(マレク)
「初めまして、カイルといいます。ユリアさんのお誘いを受けてお邪魔させてもらってます」
「ハハハ、そんなに硬く喋らなくてもいいよ。マレクさんと違って私はただの食堂のオバちゃんだよ。それで、用は挨拶だけかい?」(マリベル)
「いえ、去年同様にユリアやレイア君たちもお手伝いをしてくれるそうなんだ。それで、カイル君も同様に手伝いをしてくれるという事でね。恥ずかしい話だけど、ユリアもレイア君たちも料理が出来ない事は知ってるでしょう?」(マレク)
「…………そうだね。去年は凄かったね。普通の手順や分量で調理したのに全く別のものが出来上がるっていう現象が目の前で起きてたからね。あれには皆して首傾げたよ。まあ、いい思い出だね」(マリベル)
「ですので、今回はユリアたちを調理の手伝いから外しました。代わりにユリアたちの毎日の食事を作っている経験者のカイル君を手伝いとして連れてきましたよ」(マレク)
マレクさんがそう言って、俺をマリベルさんに紹介する。すると、マリベルさんの両目がキラリと光る。そして、いつの間にか音が止んでおり他の料理人たちが受付カウンターの方を興味深そうに見ている。何より、その料理人さんたちの俺を見る目が同じ被害者を見る同情と、仲間を得た嬉しさの混じった視線を向けてくる。そっちに気をとられていると、いつの間にかマリベルさんが俺の両肩をガッシリと掴んでおり、マレクさんは申し訳なさそうに俺を見ていた。まあ、調理場のあの熱量から大変忙しいのは見て分かっていたし、手伝いたい気持ちは変わらないので構わない
「マリベルさん、俺は逃げないので肩を掴んでいる手を離してください。本格的な調理よりも、下拵えや皿洗いなんかの雑用を中心にお手伝いしたいんですけど、いいですか?」
「逆に聞くけど、カイル君はそれでいいのかい?下拵えや皿洗いなんかは全体の仕事になるからね。一品目か二品目の料理を専門に作るよりもそっちの方が忙しいよ?」(マリベル)
「はい、大丈夫です。体力には自信がありますし、基礎に関しては故郷の里の先輩たちにしっかりと仕込まれてますから」
「そうかい?そこまで言うならカイル君にはそっちを頑張ってもらおうかね。じゃあ、早速始めてもらおうかね。ついておいで」(マリベル)
「じゃあ、あとは任せましたよマリベルさん。カイル君はお客さんですから、無理だけはさせないでくださいね」(マレク)
「分かってるよ。その辺はしっかりと考えながら手伝ってもらうよ」(マリベル)
俺はマリベルさんの後に続いて調理場に入る。その際に、故郷の里にいる時から使用している殺菌や消毒に特化するように改良した光属性の魔術である浄化魔術を発動して自身についていた菌などを消し去っていく。いつもの慣れで使用したので自分では大した事ではないと思っていたのだが、マリベルさんはその術式と効果に大いに興味を示した。料理人の人たちも俺の身体が綺麗な状態になった事を見抜いており、マリベルさん同様に非常に興味深そうに見ている
この術式に関しては次の休憩か昼食と夕食の間の時間を使って、まずはマリベルさんに教えるという事になった。俺が使用した術式が今までマリベルさんたち料理人の人たちの使用していた術式よりも効果が高いという事を一目で見抜いたようだ。やはり、料理人であっても、この世界でもトップクラスの魔術の腕前を持つ狐人族であるという事だろう
「じゃあ、まずは下拵えの方からお願いできるかい?これが……………」(マリベル)
「はい……………これは千切りで………………」
マリベルさんに一通りの説明を受けながら、簡単に俺の包丁捌きなどを見てもらう。いつも通りの感覚で、気負わずに丁寧な仕事を心掛けて下拵えをしていく。一品分の下拵えを終えると、マリベルさんが色々と俺の仕事を細かく見ていく。厳しく真剣な表情で見ていたマリベルさんが俺の方を向いてグッと親指を立ててくれる。料理人たちの間にもホッした安堵の雰囲気が広がっていく
そのまま俺は、下拵えをしていきながらも溜まってしまっている洗い物を同時並行しながらも手際よく効率的に終わらせていく。暫くすると、お客さんが入ってきたのが騒がしさで分かる。集中していたので時間の流れが分かっていなかったが、いつの間にか昼食の時間になっていたようだ。さらに、忙しさが増していく。しかし、歴戦の料理人であるこの厨房の主たちは手際よく一品、また一品ともの凄い早さで仕上げていく。見た目も綺麗、味も一級品の料理たちが次々とお客さんの元に届けられていく
「カイル君、もうちょっとペース上げられる⁉」(マリベル)
「大丈夫です」
「助かるわ、お願いね‼」(マリベル)
一旦、洗い物の方の比重を落として下拵えの方に集中していく。注文が入って、料理人の先輩たちが迅速でいながらも丁寧に仕事をしていくの合わせるように、こちらもピッタリの時間に合わせて幾つもの品数の分を同時に下拵えしていく。この厨房にも慣れて来たのでサポートする作業を増やしていく。終わった洗い物を浄化魔術で強制的に乾燥させて倒れないような高さで積み上げていき、お皿をきらさない様にする
注文を聞きながら使い終わった包丁やまな板、フライパンなどに浄化魔術を個別にボール状にして放って綺麗にしていく。注文が入ったら食材を担当する料理人の作業場にサッと必要なものを纏めて置いていく。料理人の人たちは驚きに一瞬だけ動きが止まるが、マリベルさんの大きな声を聴いてハッと我に返って次の料理に取り掛かっていく。マリベルさんがチラリと作業しながらも見てくる。俺としては余計な事をしたかと冷や汗がでかけるが、マリベルさんが何も言わなかったので内心でホッとする
〈確かにこれは想像以上の忙しさだな。それでも、姉さんたちの絶え間なく続く追加地獄に一人で対応する事に比べれば、ここは天国みたいな環境だな。一人一人の料理人としての腕も俺とは比べ物にならないほどに高い。俺のサポートで少しでも彼らが楽になってくれればいいだがな〉
俺が様々な事をこなしながら、俺がこの里を離れた後でも同質や同量のサポートをするためにはどうするのかを頭の片隅で考えながら、ひたすらに昼食のために訪れたお客さんたちを捌き続けた
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