幕間3 フリーダ様のワクワク遊戯日記
これはキッドが幼児の頃のお話。
エルマがキッドの寝室を通りかかると、中が賑やかなことに気づく。どうやらフリーダがキッドと遊んでいるらしい。
「フリーダ様〜私も混ぜ──」
その時エルマはフリーダの姿をみて愕然とした。
フリーダがキッドを背に乗せ四つん這いで歩いていたからだ。
「なにをやっておられるんですかああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
エルマの大声にフリーダが驚いてエルマを見る。
「なにってお馬さんごっこだが……」
「真祖とも!あろうお方が!地に手と肘をついて!あまつさえ背に人を乗せるとは何事ですかああああああああ!!!!!!!!!!!」
フリーダはエルマの憤慨っぷりに逆にうろたえる。
「いやいや!そんなにおかしいことか!?母が子と遊ぶのは当然のことであろうが!」
「神が人を背に乗せるようなことをしますか!?」
「私は神じゃないぞ!?」
その時フリーダはハッとなったあとエルマを睨んで言う。
「さてはエルマ……難癖をつけて馬の役を私から奪うつもりだな!」
「えっ!?」
今度はエルマが困惑の表情を浮かべる。
「そういえばお前は毒味と称して珍味を私より先に食べることがあったな。素直に言えば代わってやったものを、そう言う態度なら明け渡してやらん!」
「いやわたしはフリーダ様に真祖としての矜持を持ってもらいたくてですね。」
フリーダはエルマにそっぽをむくとキッドを乗せて四つん這いのまま走り出した。
「走るぞキッド!しっかり捕まっていろ!」
そして四つん這いとは思えない速さで寝室を出て、屋敷を走り回っていった。
「……お馬さんごっこなら眷属の鉄馬をつかえばいいのでは!?」
エルマの声が屋敷に響いた。
*
「フリーダ様、そろそろ食事の時では?私がキッドの面倒を見ておき……なにーーー!!!!!!!」
エルマが見たのは二人に増えたフリーダであった。
「おお、エルマ見ろ、ダミーで私を増やしたのだ」
「これで四六時中キッドを見ていられる」
「交互に喋らないでください混乱します!」
一通り突っ込んだあとエルマはホッとしていった。
「でも確かに二人ならいろいろ便利でいいですね。一人がキッドを見てる間、もう一人が食事に行けますし」
キッドを抱いている方のフリーダもうなづくと、もう一人の自分に向かって言った。
「ああそういうことだ、ではもう一人の私よ。キッドは私が見ておくから食事に行ってきていいぞ。」
だがもう一人のフリーダは不思議そうな顔をして言う。
「いや、私がキッドの面倒を見ておく。お前が行ってくるといい」
緊張感が流れる。キッドをベッドに乗せたのち、二人のフリーダは互いに取っ組み合いを始めた。
「「キッドの面倒を見るのはわたしだ!」」
「うわぁ……自分同士で争いを始めた」
屋敷が揺れるほどのプレッシャーが放たれる。その時、恐怖に当てられてキッドが泣き出してしまった。
「す、すまないキッド!泣かせるつまりは!」
「こ、こんなときどうすればいいのだ!」
フリーダは二人とも大慌てになっている。
そして互いに見合って意を決すると、互いに抱きしめあって一人に戻った。
「見るがいいキッド!私のいないいないばぁを!」
そしてキッドにむけて渾身のいないいないばぁを放つ。エルマは一度それをみて腹筋が物理的に破壊されたので目を背けている。
キッドはキャッキャと笑って笑顔を取り戻した。
「やはり自分は一人で十分だな。では食事に行ってくるから、キッドをちゃんとみておくように」
そしてフリーダは夜の闇に飛んで行った。エルマはキッドをあやしながら呟く。
「……なんだったんだ今の!」
*
キッドが積み木で遊んでいるのを、フリーダとエルマが静かに見ている。
「積み木って遊んでて楽しいんでしょうか。ただ木を積み上げてるだけじゃないですか」
エルマの素朴な疑問に、フリーダはニヤリと笑うと答えた。
「ならば私たちも遊んでみるか。『鉄血』流の積み木を」
*
月が辺りをぼんやりと照らす夜。塔は静かに積み上げられていた。
「100メートル突破ーーーー!!!」
フリーダが生み出した四角い鉄の塊を積み上げながらエルマは叫ぶ。そう、これが『鉄血』流の積み木、ならぬ積み鉄なのである。
「ふ、エルマもコツがつかめてきたようだな」
「いやあ案外楽しいものですねぇこれ!キッドが楽しむ気持ちもわかりますよ!」
フリーダは三角錐の屋根のような鉄塊を作り出す。
「そしてこれで完成……くちゅん!」
フリーダは投げるとき、大きくくしゃみをしてしまった。そのせいで鉄塊は方向を大きくそれ、鉄の塔にぶつかってしまった。
「……あっ!」
鉄の塔は大きく傾き始め、そしてゴトゴトと崩れてしまった。
「……これもまた積み木の醍醐味だな!」
そういってごまかすフリーダを、生暖かい目でエルマは見ていた。
後日、その場に残された鉄塔の残骸が、謎のモニュメントだとして一大観光地になったのは別のお話。
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