魔法
クリスマスパーティー四日前の放課後、僕と沙里さんと結菜さんで、ファミレスに向かう途中、なぜか沙里さんは大きな赤色の靴下を持ち歩いていた。
「なんで靴下持ち歩いてるの?」
「輝久知らないの!? 嘘でしょ!?」
「な、なにがですか?」
「サンタさんは靴下にプレゼントを入れてくれるんだよ!」
「サンタさんとかいませんよ」
「いるよ? 毎年、アパートのドアノブに靴下ぶら下げて、朝になると、必ずプレゼント入ってるもん」
きっと愛梨さんだな。
それを言うか言わないか悩んでいると、結菜さんが笑顔で聞いた。
「去年はどんな物を貰ったんですか?」
「去年はね、靴下から溢れるぐらいのお菓子が入ってた!」
「サンタさん、今年も来るといいですね」
「うん!」
沙里さんはサンタさんを信じていて、よっぽどクリスマスが好きみたいだ。
***
十二月二十四日、クリスマスイブの朝。
沙里は寝起き早々、大きな靴下を持って飛び跳ねていた。
「結菜! 靴下に一つだけ飴が入ってた!」
「良かったですね」
「イブなのにサンタさんが来てくれた!」
「明日はどんなプレゼントが入ってるでしょうね! サンタさんにお手紙とか書いたんですか?」
「手紙?」
「欲しいものを書いて送るんですよ」
「い、今すぐ書かなきゃ!!」
沙里は急いで手紙を書き始めた。
「できた! えっと‥‥‥どこに送ればいいの?」
「私が送ってきますよ。沙里さんはいい子にお留守番です。お留守番できない子にはサンタさん来ませんからね」
「ちゃんと待ってる! 手紙見ちゃダメよ? 絶対ね!」
「はい、分かりましたよ」
結菜は手紙を持って外に出た。
(飴玉一つであんなに喜ぶなんて、三日前から毎朝靴下の中を見に行ってたから、こっそり入れてみたらあの反応。本当純粋ですね)
結菜は家を離れて手紙を開き、沙里が欲しいものを確認した。
『サンタさんへ、毎年プレゼントをくれてありがとう! 今年は物じゃなくて、結菜が幸せになれる魔法をかけてください! 結菜は私を救ってくれた。凄い良い子だから! あと、できればチョコレートが欲しいです! できればでいいです! 一つでもいいです!』
「まったく‥‥‥沙里さんったら」
結菜は大事に手紙をポケットにしまい、宮川に電話をかけた。
「もしもし宮川です」
「内緒の話なんですが、近くに沙里さんがいたら離れてください」
「沙里さんなら、いい子にしなきゃとか言って食器洗いしてますよ? 二十八枚割られてますけど」
「割ったのは大目に見てあげてくださいね」
「分かりました。それで、内緒の話というのは」
「沙里さんにクリスマスプレゼントをあげたいんです。私からではなく、サンタさんからということで」
「なるほど! それで、私は何をすればいいですか?」
「今日の夜中、玄関にぶら下げられた靴下に、溢れるほどのチョコレートを入れてください。そしてサンタさんから手紙の返事をあげたいので、英語で手紙を入れておいてほしいです」
「なんと書けばいいですか?」
「そうですね‥‥‥『とっておきの魔法をかけておいたよ。メリークリスマス』これでお願いします」
「分かりました!」
その時、電話越しに食器が割れる音が聞こえてきた。
「ま、また割ったんですね‥‥‥」
「はい‥‥‥」
続いて、電話越しに沙里の声が聞こえてきた。
「こんなに割ったら、サンタさん来てくれなくなっちゃうー!!!!」
「き、切りますね」
「は、はい」
結菜が時間を置いて自宅に帰ると、沙里は掃除機をかけていた。
「お掃除してるんですか?」
「うん! 手紙出してくれた?」
「はい! 大丈夫ですよ! バッチリです!」
「良かった! 次はどこをお掃除しよう!」
「庭の雪掃きとかしたらどうですか?」
「それだ!」
沙里は張り切って、素直に雪掃きを始めた。
「よいしょ、よいしょ。(庭広いなー)おっ、おお! おー! あー!!」
「沙里さん!!」
大きな水の音が聞こえて結菜が庭に駆けつけると、沙里が池がびしょ濡れで這い上がっている最中だった。
「さ‥‥‥むい」
「なにやってるんですか! 風邪ひいちゃいます! お風呂入りましょう」
「うん‥‥‥」
二人は一緒にお風呂に入り、結菜が沙里の頭を洗い始めた。
「痒いとこありませんか?」
「大丈夫‥‥‥」
「どうしました? 元気ないですよ?」
「なにやっても上手くいかなくて、迷惑ばっかりかけちゃう‥‥‥サンタさん来てくれないかも‥‥‥」
「気持ちが大切なんですよ。絶対に来てくれます!」
「そうかな‥‥‥そういえばさ‥‥‥」
「なんですか?」
「今日学校だよね」
「‥‥‥今何時ですか!?」
「十一時ぐらいじゃない?」
「急ぎますよ!!」
結菜は沙里のことを考えて、学校のことを完全に忘れていた。
そして慌ててお風呂から出て、素早く準備して学校まで全力で走った。
※
「二人とも? 遅刻よ? 結菜さんが遅刻なんて珍しいわね」
「すみません‥‥‥」
「早く席に座りなさい」
「はい‥‥‥」
***
結菜さんが遅刻なんて珍しくて、席に座った結菜さんにすぐ声をかけた。
「なんで遅刻したんですか?」
「完全にクリスマス気分で‥‥‥」
「なにそれ、なんか可愛いね」
「可愛くないです。完全にボケてました」
「冬休みは明日からだからね。とは言っても、明日はクリスマスパーティーで学校に来なきゃだけど」
「輝久君は何時に来ますか?」
「十七時には体育館にいようと思ってるけど、結菜さんは?」
「私もそうします」
「そういえば、結婚式は十八時からなんだって」
「楽しみですね」
「こら! お喋りしない!」
「結菜さん、今日は注意されっぱなしだね」
「はい‥‥‥」
***
落ち込む結菜を見て、沙里は心の中でお願いしていた。
(早く明日になれー! 結菜が幸せになる魔法! 結菜が幸せになる魔法!!)
***
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます