後輩

親の実家に行った組も全員帰ってきて、全員で遊園地や、前に行った牧場に行ったりして夏休みを満喫していた。

そして今日は結菜さんの提案で動物園へ来ている。


「動物園だー!!」

「柚木さん嬉しそうですね」

「輝久も楽しみなよ! さぁ一緒に! 動物園だー!! ‥‥‥言ってよ!!」


その時、結菜さんが僕の腕に抱きついて、僕を引っ張った。


「輝久君♡ 今日は二人で行動しましょ♡」

「そうだね!」



***



「無視すんなー!! って、本当に行っちゃったよ。結菜から誘ったのに、動物園デートしたいだけかい」

「まぁ、俺達は俺達で楽しみましょうよ! 芽衣さんは見たい動物とかいますか?」

「んー、コアラかな!」


一樹は動物園の地図を確認した。


「コアラは結構奥の方ですね! いろいろ見ながら行きましょうか!」

「うん!」


みんなでそれなりに楽しく歩いていると、真菜は猿を見つけて食いついた。


「お姉ちゃん! 猿だよ! 餌あげられるみたいだよ!」

「本当だ! 皆んなも行こ!」


猿のコーナーへやってきて、沙里は猿に話しかけながら餌をあげ始めた。


「ほら美波、いっぱい食べていいよー」

「沙里? それツッコミ待ちだよね? わざとだよね」

「どうした猿」

「逆だよ!!」

「あ、M組の先輩達じゃん」


知らない女性の声がして全員振り向くと、そこには同じ学校の制服を着た女子生徒二人組が立っていた。

一人はいかにもヤンチャそうな金髪ロング、もう一人は金髪ロングの女子生徒の一歩後ろに立ち、ピンク髪で口にピアスが開いていたいた。


「私達一年なんだけど、夏休み前にM組行きにされちゃってさ、夏休み明けから同じ校舎だからよろしく」


なんだか生意気な態度に芽衣はイラっとして、一歩前に出た。


「先輩に対する言葉遣いじゃないよね」

「別よくね? 敬語使われたいなら先輩らしくしろっての」

「マ、マジそれな」


生意気な態度を続ける後輩に、沙里は眠そうに言った。


「猿がニ匹も逃げ出してるじゃん。この動物園は管理が甘い」

「は? 猿って私達のこと言ってんの? 調子乗りすぎ」

「うざくね?」

「調子乗ってんのはお前らの方だろ。頭殴りまくって、私と同じ身長にしてやろうか」


真菜は一樹の服を引っ張り、小さな声で言った。


「一樹君! 止めなきゃ!」


真菜に頼られた一樹は、焦りながらも沙里の前に出た。


「ま、まぁまぁ! 落ち着きましょ! 君達も先輩には礼儀正しくしないとダメだよ?」

「じゃあさ、お金ちょうだいよ。後輩が困ってるんだから、先輩なら後輩助けなきゃ」

「それはできないよ」

「使えねー、やっぱこいつら先輩でもなんでもないわ」

「マジそれな」


沙里はなるべく怒りを抑えていたが、遂にイライラが止まらなくなってしまった。


「おい、さっきからマジマジうるさいピンク髪」

「あ? 私?」

「そうお前、口に鼻くそ付いてるぞ」

「ピアスだっつうの!!」

「まぁ、そんなのどうでもいいんだけどさ、お前もなんか言ってみろよ。私達にイライラしてんだろ? 金髪に頼らないで、自分の言葉で文句言ってみろよ」


ピンク髪の生徒は一瞬戸惑ったように顔を逸らした。


「マジうざい」


沙里はピンク髪の生徒に近づいて、顔を見上げて目を見開き、ニヤッと笑った。


「それしか言えないの? お前怯えてるだろ、さっきの威勢はどうした」

「ち、近づくなよ」

瑠奈るな、そんなチビ早く潰しちゃいなよ」

「わ、分かってるって」

「お前、瑠奈って名前なのか。今のうち皆んなに謝っておいた方がいいよ? じゃないと、私はお前を許さない。お前に痛みを教えることになる」


瑠奈は、沙里の威圧感に腰を抜かしてしまった。


「どうだ瑠奈。チビに見下される気分は! これ以上調子乗ると食うぞ!」


瑠奈は慌てて立ち上がり、金髪ロングの女子生徒の手を引っ張った。


「菜々子! 行くよ! あいつヤバイ、目がマジだった!」


二人は情けなく、急いで逃げていった。


鈴以外の全員が思った。

沙里は武器を持たなくても怒ると怖いと。


「かっこいい‥‥‥沙里ちゃんかっこいいよ!」

「鈴?」

「あんな堂々としてられるの凄い!」

「ま、まぁね! 困ったことがあったら私に言いなさい!」

「うん!」


その頃、輝久と結菜は、そんなことがあったことも知らずに、久しぶりの二人っきりのデートを楽しんでいた。



***



「輝久君♡ なにか欲しい物はありますか?」

「もう夏だけど、動物のカレンダー買おうか悩んでるんだ」

「カレンダーですね! 店員さん!」

「はい! どうなされました?」

「この店にあるカレンダーを全て買い取ります!」

「え!?」

「ゆ、結菜さん!」


僕は思わず結菜さんを引っ張って店を出た。


「どうしたんですか? せっかく買ってあげようと思ったんですが」

「全部はやりすぎ! もう、動物見に行こ!」


このままだと、本当に大量のカレンダーを買われてしまう。

動物を見て気を逸らさなきゃ。


しばらく歩いて、大蛇を肩に乗せて写真を撮れるコーナーを見つけた。


「写真撮ってもらったらどうですか?」

「そうですね! せっかくですし、行ってみましょう!」


そして写真撮影コーナーにやってくると‥‥‥


「あれ沙里さんだよね」

「沙里さんですね」


沙里さんは、蛇に顔をグルグル巻きにされながらピースをしていた。


「一樹君」

「あ! 輝久君と結菜さん!」

「あれ、沙里さん大丈夫なの?」

「写真は撮り終わったんだけど、蛇がなかなか離れてくれないみたい。圧迫されて何も聞こえないのか、沙里さんはずっとピースしてるし」

「あ、離れたみたいだよ」


やっと解放された沙里さんは、顔を真っ赤にして戻ってきた。


「うあー!! 息できなくて死ぬかと思った!! あれ? 輝久と結菜じゃん、二人も写真撮るの?」

「僕はいいや、結菜さんが撮るみたいだけど」

「いえ‥‥‥今の見たら怖くて撮りたくなくなりました」


結局写真を撮らずに、僕達は全員で触れ合いコーナーにやってきた。


「芽衣! ウサギがいるよ!」

「本当だ! 鈴はウサギが好きだもんね!」

「大好き!」


二人はウサギを抱っこして幸せそうだ。


「お姉ちゃん! ヒヨコが沢山いる!」

「可愛い! ほら! 柚木も来て!」

「行く行く!」


三人も幸せそうにヒヨコと戯れている。

そしてヒヨコを見た結菜さんは、凄い羨ましそうに三人を見ていた。


「僕達も行きましょうか!」

「で、でも、ヒヨコって小さくて、怖がらせてしまわないか心配です」

「優しく触れば大丈夫だよ!」

「わ、分かりました」


結菜さんが恐る恐るヒヨコに手を近づけると、ヒヨコの方から手の上に乗ってきた。


「見てください! 乗りました!」

「ヒヨコも優しい人が分かるんですよ!」


幸せそうにしてる結菜さんを、こっそり写真に撮り、僕もヒヨコと触れ合うことにした。



***



その頃、一樹と沙里は二人でモルモットを撫でていた。


「沙里さん、どうやったら彼女ができると思いますか?」

「もきゅもきゅ」

「輝久君達を見てると、幸せそうで羨ましいです」

「もきゅもきゅ、もきゅもきゅ」

(ダメだ、まるで聞いてない)

「羨ましいって理由だけで恋人を求めても上手くいかないよ。本当に好きな人と結ばれなきゃ」

「(え、沙里さんカッコいい。てか、聞いてたんだ)沙里さん、俺と付き合ってください」


突然の告白に沙里は、笑顔で一樹を見た。

そして一樹がその笑顔に期待を膨らませた瞬間、沙里は真顔に戻った。


「きもい」

「ぐはっ!」

「私が好きなのは輝久と愛梨と結菜だから」

「結菜さんのことも好きなんですか。てか、三人も好きな人がいるって、沙里さんって意外とチャラいですね」

「でも、一樹みたいに誰にでもすぐ告白したりしないから、それに好きな人が沢山いるなんて人、ザラにいると思うよ? いい例がネットだよ。ネットで活動してる人にさ、◯◯君大好き! ◯◯君だけだよ! って言って、数分後に違う人に◯◯君だけ! って言ってる人とか結構見るもん」

「それって、推しとかそういうことじゃないんですか?」

「あー、そういうことか、沢山推しがいるのはいいね、毎日が充実しそうだし、きっと楽しい。でもこの前ね、◯◯君ガチ恋って言ってた人が数時間後には違う人にガチ恋アピールしてた」

「楽しみ方は人それぞれですからね」

「わかるよ? でもねー、そいつリアルで彼氏いた」

「なんかゾッとしました。てか、俺達なに話してるんですか」

「なんだっけ、一樹がキモくて、何故か鼻毛が一本出てる話だっけ」

「ちょっ! 本当ですか!?」

「嘘」

「ビックリさせないでくださいよ!」

「きも」

「いや、なんで!?」



***



その後、触れ合いコーナーを満喫した僕達は、全員でいろんな動物を見て周り、動物園を満喫しまくっていると、あっという間に帰る時間になってしまった。


地元のバス停でバスを降りて、皆んなが帰って行くのを見送り、僕も帰ることにした。


「結菜さん! 今日は楽しかったです!」

「はい! 私もです! それで、よかったらなんですけど、今日泊まっていきませんか? 久しぶりに二人の時間を過ごせて、離れるのが寂しくなってしまいました‥‥‥」

「全然いいよ!」

「本当ですか!? 嬉しいです! 今日沙里さんは一人で寝てくださいね!」

「結菜のボイン枕が〜」


結菜さんのボイン!?枕!?

沙里さんはいつもどんな寝方してるの!?


「輝久君の前では言っちゃダメです!」

「なんで?」

「輝久君が羨ましがっちゃいます!」


よくご存知で。


「どうせ今日してあげるんでしょ?」

「し、しません!」


なんだ‥‥‥してくれないんだ。


「輝久がショック受けてる」

「え!? て、輝久君がしたいならしていいです!」

「したいです!!」

「や、や、やっぱりダメです!!」


しまった‥‥‥結菜さんは僕からグイグイいくとダメだったんだ。





結菜さんの家に行き、寝る前の時間になると、沙里さんがイライラしながらお風呂から戻ってきた。


「聞いて!! 今日ね!! 動物園でね!! あのね!! それでね!! そういうわけ!! ムカつくー!!」

「結菜さん、今の分かりました?」

「いいえ、落ち着いて話てください。それと沙里さん、輝久君の前に下着姿で現れないでください。そして何故、輝久君はなんの反応もしないんですか? まさか見慣れているんですか?」

「反応したら負けだと思いました」

「なるほど、目の消毒は後ほどします」

「僕はまだ光を見たいです」

「私のことだけ見えていれば充分です」

「はい、そうですね」


沙里さんが顔を引きつらせて言った。


「なんで二人とも心を失った人みたいな喋り方なの?」

「いいからパジャマを着てください。輝久君に与えるダメージが増えます」


僕は感情を取り戻したように言った。


「沙里さん! 早く! 僕はまだ死にたくないんだ!! したいことも沢山ある!! 行きたい場所だって!!」

「わ、分かったから」


沙里さんは、ちゃんとパジャマを着て、今日動物園であった全てを話してくれた。


「ってことがあったの!」

「そんなことが‥‥‥瑠奈さんと菜々子さん、輝久君は知ってますか?」

「初めて聞く名前」

「まぁ、とにかく! 夏休み明けたら同じ校舎だから注意して!」

「分かりました」

「それじゃ、二人の邪魔にならないように違う部屋に行くね」

「ありがとうございます。明日は一緒に寝ましょうね」

「約束ね」


沙里さんが部屋を出て行った瞬間、結菜さんが放つオーラが変わった気がした。

そして結菜さんは、ベッドの下からリード付きの首輪を取り出して僕を見下ろした。


「お散歩の時間です」

「‥‥‥は、はい」

「はい?」

「ワン」


そのまま部屋で首輪を付けられ、僕は四足歩行で部屋を出た。


「ゆ、結菜さん? どこ行くんですか? 公園じゃないんですか? ‥‥‥そっちは‥‥‥」

「輝久君専用のお部屋です♡」


オワタ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る