第一話 招かれた8人

まえがき

気がついたらそこは異国の王の間。

半獣半人に囲まれ、召喚は成功との言葉を聞き混乱する幸次。

はたして還暦を過ぎた者に、異世界召喚は理解してもらえるのか……!?







 硬く冷てぇ床に横たわっている感覚。


 視界に入る天井は高く、広く、そして明るい。


 どうやら転んじまったようだ。


「目を覚まされました。儀式は成功です」


 突如頭の上から降ってくる声に続き、周りから聞こえる


「おぉ……」

「成功だ…」


 といった感嘆とざわめきに、何事かと思い体を起こした俺は目を見開いて驚いた。


「な……」


 どこだよここは?


 異国の王さんがいそうな部屋。


 周囲に集まる人……いや、人と言っていいのか?


 化け物…いや、妖怪か?


 どいつもこいつも服を着て二本の足で立っちゃあいるが、顔は人間と動物が入り交じったようなツラしてやがるじゃねぇか! 人間モドキだ!


 回りには俺の他にひぃふぅみぃ……七匹? 七人の人間モドキが転がっていた。


 少し離れた所に玉座があり、そこには見るからに年老いた犬の人間モドキが座っている。


「なんだ…これは…」


 俺の呟きに、一人の人物が近づいてくる。


 最初に儀式は成功とか言ってたやつだ。


「突然のお呼び立て、何卒なにとぞお許し下さい…」


「お呼び立て、だぁ? このおかしな状況は一体なんなんだ!!」


 俺はキリスト教だかなんだかの神父さんが着てそうな服に身を包んだ男の胸ぐらを掴んでかかる。


 こいつは人間みたいだ。


 いや…良く見ると人間にしてはやたら耳が横に長げぇな。


 って……俺……こいつに掴みかかった?


 両手で…掴みかかれた。


 右手……が…ある。


 俺に…右手がある。


「な……」


 そして右手に視線を落とした俺は目を見開いた。


 俺の右手はやたら毛深くそして……鋭い爪が生えていた。


「なっ…本当になんなんだよこれはよぉ!!」


 驚きのあまり耳長男から手を離して頭を抱える。


 頭の左右にある突起…これは…耳……か…?


「救世主様、申し訳ありませんが、そのご説明は―――」


 落ち着いた声で耳長男が口を開く。


「もう間もなく他の方々もお目覚めになられるかと思います。その時に詳しくお話させて頂きます……」


 俺は一体、どうなっちまったんだろう。



 ――――――――



「この度の召喚の件、誠に申し訳ありませんでした…。異世界から皆様をお呼びした事に対し戸惑いや悲しみ、怒り等の感情を抱いておられるのは重々承知の上申し上げますが……」


 あれから間もなくして他の七人も次々と目を覚ました。


 猫人ねこやら狐人きつねやら虎人とらやら…最初は皆、目を覚ましては俺みてぇに取り乱していたが、同じ境遇のやつらが増えてくにつれて落ち着きを取り戻すのも早くなっていった。


 狼人おおかみだけは取り乱すこともなく目が覚めてからずっと落ち着き払っていたようだが。


「皆様には何卒…この国をお救い頂きたく…どうか力をお貸し願えませんでしょうか……」


 耳長男の懇願こんがんに、押し黙る一同。


 訳もねぇ。


 意味が分からねぇんだから。


「返答の前に確認をしてもいいだろうか?」


 片手を上げて、青色の髪の狼人が口を開いた。


「仮にここが貴方の言う「異世界」としよう。我々の体は今まで生きてきたそれとは全く違うようだが?」


 そうだ。


 この世界の俺には無いはずの右手がある。


 それも獣みてぇな腕だ。


 見える範囲で自分を見てみたが、犬っぽい何かと人間を混ぜたらこんな体になりそうだ。


「貴方がたの肉体は……こちらの世界にはなく、元の世界に存在しています」


「えぇ…」

「そんな事…」


 隣にいる緑髪の兎人うさぎと黒髪の猫人が口元を押さえて動揺している。


 無理もねぇや。


 俺だってそんな事、はいそうですかって信じられねえが…


 こうして右手がある犬人として動いている以上、疑うに疑えねぇ。


「我々は元の世界に戻れるのですか?」


 続けて狼人が質問する。


「おい、ちょっと待ってくれよ」


 たまらず俺が狼人に向かって声を飛ばす。


「………」


 チラリと狼人間が視線だけを俺に配る。


「おめぇさん、さっきから随分と落ちつき払って話しを進めてるじゃねえか。お前さんはこんな奇天烈きてれつな状況がどんな状況なのか分かってるのかよ?」


 俺の問いかけに狼人がはぁ…とため息をつく。


「分からんから質問をしているのだ。黙っててくれないか?」


「なっ……てめぇ!!」


 頭に血がのぼり狼人にとっかかろうとした俺だったが、近くにいた髭もじゃの小せえオッサンと虎人に両腕を掴まれる。


「落ちつけ! 今はそんな場合じゃねえ!」

「そうだよ! アンタも分からないなら大人しくしておきなよ!」


 大人しくしておけ。そう言った赤髪の虎人の声は甲高かった。

 俺を押さえつける力は強ぇがどうやらメスだったようだ。


「ちっ……」


 周囲の視線が集まり、決まりが悪くなった俺は舌打ちをして二人の腕を振りほどいた。


 俺が大人しくなったのを確認すると、狼人は再び質問を続けた。


 耳長男……後で聞いたんだがえりふ? えるふ? って言う種族なんだとよ。


 そいつから聞いた話によると俺たちの肉体は衰え、健康状態も良好でない者もいた。


 その為肉体は元の世界に置き去りにし、魂だけをこちらの世界に召喚したって話しだ。


 今俺達の魂が入っている肉体は、この召喚の儀式の為に肉体を捧げた生贄で、肉体も転生に成功していた場合は丁重に葬られる予定だったらしい。


 じゃあそれならば健全な肉体を持つ人を呼べば生け贄も必要ないし、合理的ではないかって質問も狼野郎はしてたんだが、


 何でも召喚には特定の条件が必要で、その条件を満たしている人が呼ばれるとの事だ。


 条件が何なのか分からねえらしい。


 そして俺達は……元の世界に帰る事は出来ない。


 一度この世界の肉体に定着した魂は死後、この世界のことわり輪廻りんねに組み込まれるからだと聞いた。


 元の世界では極楽浄土てんごくだの地獄だのと言われていたが実在するのかわかんねえし、こっちでも本当に輪廻やらが存在するかも疑わしい話だが。


 そして肝心な、なぜ俺達がここに召喚されたのかだが


「この国は今、国家滅亡の危機に瀕しております」


 どうやら俺達はこの国の救世主として召喚されたらしい。




あとがき

召喚で肉体が老いてないじゃんっていうツッコミはなしで★

さすがに衰えた肉体で重労働や国の立て直しはキツかとです…。

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