Bパート2 ED Cパート 次回予告

 夜の帳の中にうずくまる摩天楼。


 乾いた風が吹きすさぶ、西部開拓時代の街並み。


 自分たちで作り上げる遊園地。


 灼熱の太陽が照らす果てのない砂漠。


 突如現れる、大海原。


 そして、それぞれの区画を移動するための時間は事実上ゼロだと言い切ってしまっても良い。


 それが科学の果てに引き起こされた現象?


 いやいや。


 魔法使いが、そのわざで世界を編み出したのだ、と言われた方が納得しやすくはないか?

 科学は二世紀以上前に仮想現実という仮初めの世界を作り出すことを可能としている。


 それは確かに“世界を作り出す”という表現するには色々と不十分なものであった。

 だが、そこに魔法という科学とは違うことわりの技術が紛れ込んだとして――


 ――人類はそれを見分けることが出来たか?


 ましてやそれから二百年が経過しているのだ。


 人類はすでに魔法と科学の区別が付かなくなっている……?


 だがそれでも――


「……この世界を誰かが一から作り上げた? それはいくら何でも……」


 GTがかぶりを振る。


「複数の魔術師が協力した、とか」


 どこか愉快そうに、フォロンが応じる。

 だがGTはそれに対しての反論を紡ぎ出す。


「これは元は連合が作ったんだろ? それはさすがに記録に残る……それに、ここじゃ、かなりの人間がずるチートをやりたがってるんだ。それは足がつくんじゃないか?」

「実はそれについても推測がある」


「推測ばかりだな。だが、やっと本題に届きそうだ」

「勘が良い。僕はこの世界は、元々あったものだと考えている。この山や、あの海は謂わば後付だな」

「後付か……そこは科学か?」

「いや、それはどうだろう」


 フォロンは意味ありげに、微動だにしないアーディを見る。

 そういえば、創造神とか言っていたか。


「そこは、推測できていない……と。じゃあ、何を考えて俺が危険だなんて結論になったんだ?」

「GT。クーンから聞いたよ。君の現実世界での名を聞いて家の者も驚いていたよ」

「家の者……?」


 GT――ジョージ・譚は確かに名を売った。

 だが、表の世界にまで名が知れ渡ったわけではない。


 それなのに、名を聞いただけで驚くというのは……


「モノクルは本当に何も教えないのだな。僕も裏社会に身を置く人間だ。だが存在を認知されてはいないだろうな。身体が弱くてね。現実では家から一歩も出たことがない」

「おい――」


 そこまで明け透けに情報を開示してくる様が不気味ですらある。


「これを話しておかないと、話が先に続かない。僕は天国への階段EX-Tensionでは力を授かった。君はどうだ? RAは? アガンは少しイレギュラーなんだが……」

「俺達に共通点があって、それでこっちではおかしな事が起こっている……ってことか? だけど俺は寝込んだりはしてないぞ」


 まさかロブスターの食べ過ぎが身体に障った、ということはないはずだ。


 ――いや、絶対にない。


「現象としてはバラバラでも、結果として同じ状態だと天国への階段EX-Tensionのシステムが判断すれば良い、と僕は考えている」

「……同じ状態?」


 GTには予感があった。


 この自分の疑問に対するフォロン答えこそが、今日の対談の核心になると。

 あるいはそれを聞いてしまえば、引き返せなくなるかも知れない。


 だが、ここまで来てそれを聞かずに終わるという選択肢は、GTにとってあり得なかった。

 フォロンの眼鏡の奥の黒い瞳が、昏く沈む。


「――“死”に近いこと。もしくは“死”に近づいたことがあること」


 それはGTの予感通りだったのか。

 それとも予想を裏切っていたのか。


 だが、どちらにしてもそれGTには容易には受け入れ難いものだった。


「俺は……死んでねぇぞ」


「君の経歴は聞いた。復讐の始まりがすでに限りなく“おわり”に近いではないか。その後の君の活動については、言及を避けるが一般にそれは“地獄”といわれる生活だった――と推測されるがどうだ?」

「勝手に想像してろ」


「そうさせて貰おう。そして僕は現在進行形でいつ死ぬのかわからんような身体の状態だ。僕はここに類似例が揃ったと判断した」

「二つしかねぇじゃねぇか」


「僕は、勝手に想像しているだけだ」

「じゃあ、この世界はなんだって――」


 この――セ、カ、イ、は、


 瞬間。


 GTの全身の毛が逆立った。

 どんな危機的状況でも、これほどの恐怖を感じたことはない。


天国への階段EX-Tension……天国への――階段……だと?」

「性行為に及んだ場合、その快楽は現実の比ではない。そのまま性的絶頂エクスタシーへ容易にたどり着ける。だからこその異称だ――と一般には言われているな。だが、それは誰も保証してくれないのだ」


「この世界は……」


「僕やRAはいい。アガンも良いだろう。クーンも結局は自分の欲望だ。だが君は仕事としてここにいる。僕の推測では、死と隣り合わせのこの場所に」

「接続時間……これもそのためか」


「かもしれない。だが、現状の様な膠着状態で、何度も何度も接続ライズを繰り返すことに、接続時間を守っていても本当に危険がないのか――少なくともモノクルはこの天国への階段EX-Tensionの仕組みを知ってるはずだ。だからこそピンポイントで君をスカウトした。違うか?」

「……違わないだろうな」


「僕はそれを誠意ある態度だと思わないがな」

「俺はあいつに誠意を求めたりはしてねぇよ」


「だとしても、君が無理に首を突っ込む必要はないはずだ。天国への階段EX-Tensionの事は我々半死人に任せておく、という選択肢も君にはあるのではないか――つまるところ、今日の僕の話はこれだけのことだ――時間をとらせたな」

「……RAはどう説明するんだ?」

「彼はそうだな……最近になって自分の“死”をより強く認識した――彼の本体は君の関係者だと思うんだが、どうかな?」


 恐らくはそうだろうと、という感覚がGTにもあった。

 そして、RAの力が増していったのは自分と会ってからだ。


 そして自分が得意なことは、人殺し。


 ――符号が合う。


「さて、僕は接続時間が一杯だ。そろそろ失礼させて貰う」


 フォロンは、立ち上がると結局微動だにしなかったアーディに一礼して、その場から速やかに切断しきえた。

 アーディはその声に反応して、僅かに視線をGTに向ける。


<――今のフォロンの話。われが保証してやっても良いが>


 GTはその声に、ゆっくりと反応した。


「……爺さんは何なんだよ」


<さてな。何もかもを、ここで明かす義務は我にはない。お前は好きなように行動すればいい。その判断が出来ぬほど、子供ではあるまい>


 そう言い残すと、アーディもその場から消えた。


 ――一人残されたGTは、ブラックパンサーを抜き……


                ~・~


 リュミスのステージはなかなか好評のようだった。

 帰る客、というものが構造上確認できないが、リピーターがかなり多いことで自ずから出来はわかる。


 GTはリュミスの要望で、舞台に入ることはないがその付近にいた。

 この舞台の性質上、客が一人でも我が儘を言い出すと成立しない。


 その抑止力としてGTが睨みをきかせる必要があり、それをすることを組み込んだ上でGTはこの舞台を提案している。

 そのせいか、今のところ客達は大人しくしているが、油断はしない。


「どうした、浮かない顔だな?」


 そんなGTにパラキアが声を掛けてきた。

 この無茶な舞台の設営も、パラキアのチームが手がけている。


 GTは口の端を吊り上げて見せた。


「ここで見張りするのに飽きたんだよ。自分から言い出した舞台だから逃げられねぇし」

「あっはっは。色々と現実では不可能な舞台だしな。作っている分には面白かったが。やはり天国への階段EX-Tensionでは、天国への階段EX-Tensionでしかやれないようなことをしてこそ面白い」

「このセカイにしか……」


 GTはボルサリーノを目深に被りなおす。


「……ここは何処なんだろうな」


◇◇◇ ◇  ◇   ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆


「リュミス」


 ライブ前、集中力を高めていたリュミスにGTが話しかけた。

 リュミスは煩わしそうに、GTへと振り向く。

 そのGTが、心なしか斜めに傾いているようにリュミスには見えた。


「……何?」


「“死”を意識をしたことはあるか?」


 その問いかけにリュミスは、とっさに答えることが出来ず――だが、その表情はみるみるうちに歪んでいく。


「あるわ」


 そして、短くそれだけを返すと、GTもそれ以上は何も尋ねたりはせず、小さくうなずいた。


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次回予告。


ジョージが訪れることを願った惑星ほし、翠椿。

この惑星ほしは、譚一家の墓標。そしてジョージの復讐の始まりの惑星ほし


リュミスは譚一家の生き残りである、譚香藍にジョージの過去を案内される。


それはジョージによってもたらされた天国への階段EX-Tensionの真実と混ざり合い、リュミスにも過去を想起させた。


次回、「殺されし日々」に、接続ライズ

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