第129話 愛のループ
すっかり晴れた午前11時ちょい。俺はフレデリックさんを助手席に乗せ、病院近くのホテルへ向かった。普通 犯罪者をどこかへ移動させるには、厳重な監視下の元、専用の車にぶち込み逃げられなくする。しかし俺は一応 偉い立場にいる。なんでもって訳では無いが、ある程度の行為は許される。
てなわけで、若干ゆるゆるな警備な気もするが、そこは目を瞑っていただいて安全運転を再開。
「Jeepなんですね、車」
「あっ、はい。そうなんですよ」
「うーん……ふふ♪フォルムがかっこいいって言うか、涼野さんらしいです」
「俺らしいですか?」
「はい。全体的にカクカクしててそれが真面目というイメージに捉えられて。あと、大型ときたら涼野さんかなって」
ニコニコ微笑み、前の景色を見ながらそんな事を言うフレデリックさん。多分会話が行われないのに耐えられなかったんだろうな。
(まぁ男の俺がリードしろよって感じだけど)
「なるほど。大型ってのは?態度がデカいって意味ですか?笑」
「ちっ、ちがいますよ!!そんな酷いこと言ってませんよ!」
「あははは!すみません。ついつい、からかいたくなって」
「もう……。態度じゃなくて人柄ですよ。人望が厚いって言うのが正しいかな?色んな人に好かれてるから大型です。好かれてなきゃ偉い立場に居てないでしょう?」
「ああ……そういうこと。人望ねぇ。まぁ床駒たちには少しドヤってますけどね笑。あんな態度して、ウザがられてないか心配です」
「うふふ、そうでないと良いですね」
嫌味含まれてんなぁ。嫌われてんのか俺。まぁ
好かれても困るけど。
走行しているうちに病院隣のホテルに着いた。
フロントの人に話は通してあるので、すんなり部屋へと案内出来た。
「もうすぐお昼ですけど、何か頼みます?」
流石にすぐホテルを出るのは申し訳ないと思い、食事だけは一緒にしようと一言付けた。
「そうですね。うーん、あまりゴテゴテした物は食べたくないので、さっぱり系で!」
「でしたらパスタはいかがでしょう?キノコの和風パスタ。電話すれば頼んでくれますよ」
「それでお願いします!」
……頼むのは俺ね。今の言葉通じたはずなんだけどな。
仕方なく部屋に設置されている受話器に手をかけ、
フロントに要件を伝える。20分程でやってくるということなので、それまでフレデリックさんと部屋に籠ることに。
「なんだか普通のホテルですね。シンプルでそれはそれでいいんですけれど……」
「何かを期待しているのであれば、無理ですよ。俺はひとを愛したくないので」
「あれ?意外ですね。結構経験豊富そうに見えるのに」
「……それ、褒め言葉ですか?」
「いいえ♡」
「まあ、大人しくパスタ食ってさっさと俺は帰りますよ」
「つれないなぁ」
ブーっと唇を尖らせ、ジト目で見つめてくる。
「俺に可愛いは通じませんからね」
「ほんとに興味無いんですね……」
あざといポーズをしようが何だろうが全然グッと来ない。健を抜いてやった時もあったが、あれは俺の悪い癖なだけで、年がら年中ヤッてる訳じゃない。
「とにかく!こんな状況で欲情なんてみっともないですからね!大人しく本でも読んでください!」
「はぁーぃ」
程なくしてパスタが部屋に届けられ、黙々と食べ始めるフレデリックさんは、なんだかしおらしかった。
言いすぎたか?それかパスタがお気に召さなかった?
「不味かったです?」
「ふぇ!?えっ、いや、美味しいですよ!これ有名な所ですよね?味が似てるからそうかなって」
「あぁ……確かに有名っちゃそうですね。高級店ですから」
「やっぱり」
「食べたことあるんですか?」
「ええ。しんとの初めてのお出掛けで、食べた記憶があります」
「そう、ですか」
やはりフレデリックさんは、健のことなんか好いちゃいないのか。ウィリシアさんはお父さんって感じだし。
「今でも、好きですか?小糠雨しん君のこと」
「はい。好きですよ。もう会えませんが」
「健のことは?」
「人として好きです」
「なるほど」
「今の質問、なんか意味あるんですか?」
「いえ。少し気になったもので。俺の個人的興味です」
「そうですか。てっきりしんに会えるのかと思っちゃった」
「……。」
愛が重いな、この子。健から聞いちゃいたけど、
いちいち小糠雨しんの話題を出しやがる。
(めんどくせぇ子)
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