金2

 その男はかなり羽振りがいい。家が金持ちだとか仕事がかなりできるわけではない。だが、男にはまるで吸い込まれるように金が入ってくるのだ。その幸運ぶりが気になった男の同僚達は飲み会で彼を酔わせてどうしてそこまで金が入る、すごい幸運グッズかパトロンを持っているのかと質問責めした。普通に喋れる程度に酔っ払った男はこう言った。


「生贄を捧げたんだよ」


 予想外すぎる答えに、その場は一気に凍り付いた。言い出しっぺの同僚さえ、言葉を失っているのに男はぺらぺらと話しはじめた。


 大学時代、合同コンパで酔っ払った勢いで肝試しに行った。少し地元から離れた、無人の寂れた神社だ。合計八人で出かけたが、帰ってきたのは男を含めて四人だった。


「まさか置き去りにしたのか」


 酔いがすっかり覚めた顔で同僚の一人が食いついた。男は首を横に振った。怖気づいたり眠ってしまって起きないのは車の中に待機させた。好奇心が勝った男達は肝試しに洒落こんだが、野犬に追いかけられてすぐに戻って来た。車を出てから十分も経っていなかったと思うが、その時には待機組は影も形もなかった。一応周りを見廻ったのだが、野犬が怖くてすぐに撤収した。

 それ以降その同級生は見ていないが、金がどんどん入るようになった、あそこの神様はよほど女に飢えていたのだろうと男は笑って酒を煽った。すっかり出来上がった男は、周りの異物を見るような視線に気づかない。それから男から人心は離れていったが、相変わらず金と紫陽花には困っていないようだと元同僚は締め括った。

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