参加作品 講評

『機械仕掛けの慕情』武州の念者


 記念すべき一番槍がセクサロイドショタ風俗なの、あまりにも良すぎる。

 硬質かつ雅な文体で書かれたショタコン主人公の風俗体験記なんですけど、被造物の役割としてインモラルな欲求を満たすってのはかなり良い手触りなんですよね。

 ショタの描写も質感がサイコーだ……。蘭丸って名前から間違いなく衆道的なんですよ。そりゃ信長も骨抜きになるわ。ショタの魅力をありありと描いてて、めちゃくちゃ良かったです。

 重要な部分で引用される漢詩とか中国の故事は、作者さんの作風から見えるオリジナリティを感じてとても良かったです。



『オールド・ドール』修一


 百合じゃん!!!

 唾液による起動とかキスによる充電とか、設計者の業が深すぎませんか??(サイコー……)

 細部に漂う未来感と古びた商店街との質感とか、シルヴィアが買いに行くのが醤油だったりとか、細かい部分のパッチワーク感がこの作品特有の独特な味わいを加速させていてとても興味深かったです。

 ラストは少し唐突に終わったなーって感じがあったので、刑事がシルヴィアとの同居を止めた理由とかを掘り下げてもらえると嬉しいかな?



『ピノッキオの告解』狐


 自作なので除外。家族と役割とアンドロイドの話。



『妖精キット』灰崎千尋


 すげぇ……とにかくすげぇ……。

 クトゥルフに関しては無学で専門家の解説が欲しい……って感じなんですけど、この作品は世にもとか星新一っぽくてめちゃくちゃ好みです。タバコが対価の契約とかもハイセンスなんだよな……。

 とにかく主人公のフリーター描写の質感が良くて、無料エロ動画とかバイトとか細かいディティールの部分にリアリティが篭ってるんですよ。そこから叩き込まれる妖精への感情が、本当に最高……。

 欲を言うならもうちょっとこの世界を見ていたい。そんな作品でした。



『ホムンクルスはかもめの夢を見る』藤原埼玉


 情念の話だ……。

 被造物の性と自由と造物主の情念のお話。所々に漂う西洋ファンタジー感が堪らないですね……。

 エヴァンジェリンは自我を持っていたからこそ、街という檻から抜け出すことを選んだんだろうなぁ……。



『羽久乃魔法道具店』こむらさき


 少年マンガの連載第一話の質感だ……好き……。

 しっかりした世界観で出てくる妖精が魅力的で、めちゃくちゃワクワクします。山羊頭さんが推し。

 灼晶さんも良いですね。連載中盤で幼女の面倒を文句言いながらやる話とかあるやつでしょ……。

 エッセンスとしてあやかちゃん母子のメンヘラ的なリアリティがすごいんですよね。作者さんの過去作でもメンヘラ描写が凄まじいんですけど、命を脅しにして逆ギレしてくるとかホント……!



『彯婀』深恵 遊子


 青春だなぁ……いいなぁ……と思ってたら最後の最後でめちゃくちゃやるせない気分なんですけど!!

 彯婀ちゃんの名前の由来がわかった瞬間に意味合いが反転してくるの、怖すぎません?

 また青春の描写がめちゃくちゃ丁寧なのがさらにやるせなさがある……つれぇ……。



『僕が守りたかったもの』古代インドハリネズミ


 インド色が強い!!!

 キャラメイクのジョブ選択もかなりローカル色が強い、というかこのエネルギー会社インド資本でしょ……。

 聖牛崇拝とかから考えるなら、仕立て屋が過去にやらかしたこともなんとなく掴める気がするんですよね……。

 あと、アンバーの造形がめちゃくちゃ良いんですよ。強くて、凛々しくて、愛に溢れてる。

 この作品では、NPCという被造物が人間に与える影響がすごいポジティブに描かれてて良いですね。ゲームの中の小さな出来事が、大きな現実を変えるきっかけとなる。王道で最高!!!



『彼の眼鏡』灰崎千尋


 鯖江の眼鏡は品質がいいって言いますよね。

 灰崎さんの二作目は、眼鏡視点の作品。お洒落な作風で、眼鏡メーカーの販促CMにしても違和感なく効果発揮すると思います。現にちょっと欲しくなってるもん。

 眼鏡が持ち主を愛してるのもいいよなぁ。願わくばずっと大切に使い続けててほしいです。



『身から出るミームは機械に巡る応報』@dekai3


 サイバーパンク大好き侍、義によって助太刀いたす。

 アンドロイド風俗と貧富の格差のある街と違法薬物、どれも大好物なんですよね。欲張りオードブルか??

 地下街にスカベンジャーいるんですね!? アンドロイドの生体部品が取引されてる闇市とかあります!?(テンションバカ上がり)

 マスター回りの展開も、いい意味で予想を裏切る感じだ……!! なるほどなぁ……。



『偽』千石京二


 寿命で死なないペットロボットの話。世話のリアリティを追求しすぎた結果余計な手間を生んでしまったの、めちゃくちゃありそうで良いな……。偽猫は動物アレルギーの人も飼いやすくて良さそう。

 偽動物ばっかり見て相手してくれないクミに複雑な感情を抱くワタルの気持ちもわかる。わかる……って納得してたら思わぬところに着地してなるほどなー!ってなりました。偽アロワナの件が伏線だったのね……!!



『つま菊』狐


 自作なので除外。自称世界初つま菊小説。



『少女終末論』修一


 終わりの美学だ……。

 猫の形をした「ボックス」と旅をするダリア。おそらく彼女の他に人間はいなくて、既に不要となった文明の残滓が残り続けている世界。それがカラフルに、少し寂しげに描かれててめちゃくちゃグッときました。スピッツの『青い車』が脳内に流れてた。

 旅の果てに彼女が得た答えもまた良いんですよ……。爽やかな読後感。



『公会議堂』kn


 亡くなった人が現世に人生の証を残す。要するに“形見”の話なんだな、これ……。

 主人公における父親の形見がこの公会堂で、取り壊される『形ある物』とキャッチボールの記憶という『形ない物』の片方が失われてしまう、そういう物悲しさが描かれていました。記憶も徐々に薄れていく物ですからね……。

 主人公と妙子さんの関係性、オトナの匂いがするな……!!



『新兵器』武州の念者


 軍事ミステリーかモンスターパニックの冒頭かな?って感じのお話。

 新兵器、本当に革新的なものだったんですかね? 土着の神とか呼ぶためのやつじゃない?  ここからゴジラと戦うパターンとかにならない?



『手首』千石京二


 めちゃくちゃ不気味なんですけど、健気についてくる手首はちょっと可愛くないですか? ルンバに愛着を感じるみたいな心境になってしまった……。

 すわ『猿の手』かと思って身構えたら……不思議で、ほっこりして、でも不穏な話でした。



『致命的な一生』雪風


 さくらちゃん…………。

 魂を復帰させるトリガー、おもちゃの起動スイッチみたいですよね。頭蓋骨に穴があるのはボルトの傷か? 似首は一体何をしたんだ……?

 さくらちゃんの笑みが人を惹きつけるのは生前も今も変わらないんですよね。新興宗教のカリスマになる素養はあって、ただそのトリガーが『再臨』だったっていう解釈をしました。

 星夜の悲壮な覚悟も、彼の死も、ただ幼少期に嘘を吐いて彼女を死なせた因果だと思うとやるせないですね……。



『弱き者よ、汝の名は女』偽教授


 ミントとミンツのやりとりが好きなやつ!!!ってなりました。

 地球に向かってくる未知の小惑星を破壊するミッションに選ばれた人工知性体の選択のお話。丁寧に積み重ねられた違和感が瓦解していく感じめちゃくちゃいいよね……。

 ミントが悪かは読者の判断に委ねられると思うんですよ。僕は悪と言い切れないんだよな……。

 この作品の作者である偽教授さんの自主企画、「第(+)一回偽物川小説大賞」の〆切は12月25日! お題は『邪悪なるもの』『世界の終わり』『人外女性』から一つ以上! この作品は全部盛りですね!!



『とてもすごくよく健康体』王星遥、或いは濃茶


 ミストレスさんのオムニバスが読みたい。他に作った玩具とかゲーム、絶対ロクなやつじゃないじゃん……!!

 医療で治せないものをゲームで救う。エグゼイドみたいな切り口で好き……。人体を神の被造物として玩具職人としての造物主要素とリンクさせたのもめちゃくちゃ好きです。

 オチも爽やかでいいんだよなー!! この上ないハッピーエンド、二人に今後も幸せがあらんことを。



『人型として』五三六P・二四三・渡


 任侠モノとSFとBLラブストーリーを同時に吸うとこんな満足感になるんですね……。一見トンチキに見える要素ががっつりハマってめちゃくちゃな感情になってます。

 舞台の過去と現在の見せ方も好き。六十年前は夢幻だった人型ロボットが、作中現在では市民権運動にまで発展してるの良いよね……。

 死体を運ぶロボットのヤクザにプログラムされた愛は本物か、偽物か。煙草を消した火傷跡の痛みだけが、愛されたヒトを殺した夜の証明になるんだなぁ……。



『終わりの国のアリス』千石京二


 アリスちゃんも博士も愛らしいな……。

 五十二回目が博士にとっての大きなターニングポイントで、その後のトゥルーエンドの話なんですね。

 終わっていく世界が地獄なのか、終わらなかった世界が地獄なのか。一人で過ごす絶望の時間を変えたのは何か? それこそが、外で行われている性愛と区別されることなのかなぁ……。



『贋物のゴルゴネイオン』御調草子


 ジルバールとフラウベルの会話、知的で洒落てて良いな……。人外と人間のコンビ、好きです。ジルバールも自力で十分なんとかできるくらい頭回るのも最高。

 魔除けの像である人外の異能が石化能力なの、同族を増やしてる感じで面白いですね。

 フラウベルの夫を造れって願いはフランケンシュタインモチーフかなぁって思いました。

 果たして夫は造られるのか、なし崩し的に二人がこのまま付き合っていくのか……。短編とは言わず、シリーズで読みたい作品でした。



『額縁の中の現世』宮古遠


 幻想譚だ……。

 江戸川乱歩とか夢野久作とかの空気感を彷彿とさせる文体で描かれた造物主の狂気。それが徐々に伝播していき、冒頭の語り手の『恋』になっていく。そんな印象を受けました。

 人形師たちの狂気も、曲がり鼻の主人の不可思議な体験も、少女たちの材料も。或いは、全て夢幻の中の出来事なのかもしれない。

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