第23話 大事なのはいつだって準備
――約1時間半前-職員室――
「・・・それは本当か?芦田」
「はい、本当です」
「にわかには信じられんが・・・」
確かに信じられないのも無理はない。これだけの情報に対してすぐ理解しろと言うのも酷だろう。
「今信じて欲しいとは言いません。ただ、実際に見て、判断してもらいたいです」
「見る、だと?」
「はい。一緒に来て頂けたら分かると思います」
「・・・うーんそうだな、確かに芦田の言う通り何か起きた後では遅いからな。では行くとしようかっ」
なんで若干嬉しそうなんですかね。
彼女の名前は
那須先生は基本、誰とでも仲良くすることができる。あの男勝りの性格の、ぐいぐい来る感じで生徒達と会話するのが毎日見受けられる。だがそんな先生にでも許せないことはあるらしく、俺は一度だけ、那須先生が本気で怒っていたのを見たことがある。あれは正直かなりビビった。あの先生でも怒ることがあるのかと、生徒達は皆一様に驚いていたのを今でも覚えている。日頃温厚な人が怒ると怖いもんだね。
俺があの光景を見たのはいつだったか。いじめの中心核の男子生徒に顔を近づけ、掴みがからん勢いで怒鳴り散らす光景は、俺の瞳に未だ焼き付いている。
――人を傷つけていいのは、自分が傷つけられる勇気がある者だけだ。他人に言われてはじめて気付くじゃダメなんだよ。自分で気付け、自分で自分を傷つけろ、他人を傷つけるな。最後に後悔するのはいつだって、自分だ・・・――と、先生は最後に、優しく畳みかけるようにその男子生徒へと説教をした。
那須先生は日頃ちゃらんぽらんで自由奔放な印象を受ける(実際そうだが)。だが、こと人間関係において彼女は煩い。特に、
「那須先生。先生はまず、図書準備室に待機しておいてください」
図書室方面へ向かい、歩きながら先生と話す。
「?それはどういうことだ」
「図書室で何が起きるのかを見て、聞いてください。出来ればその様子をカメラで抑えといて貰えると助かります。そうすればそれが、確実な証拠になります」
「・・・つまり、
「はい。
「・・・どういう事だ?」
「何でもないです・・・・」
こ、こわい・・顔は笑ってるのに目が笑ってない・・なんで俺以外の生徒達と話してるときは冗談言い合ってるのに、俺は冗談通じないんですかね。あ、差別ですか。
「芦田の言いたい事は分かった。だが私はあくまで中立な立場である事を忘れるな。カメラで生徒を撮るなど出来ん、ましてや私は公務員だ」
まぁ、それはいくら那須先生相手だとしても、無理なお願いだとは分かっていた。先生からしたら、俺がその男を嵌めている、とも受け取れるしね。
「はい。分かってます。先生は図書準備室で動向を見守っていてください」
「ああ、分かってはいるが・・芦田、お前は一体何をする気なんだ?」
「・・・俺はイケメン君にこのカメラの存在を打ち明けます。そして多分、イケメン君は俺がこの小型カメラを持っていることに気がづいてないでしょう。精々、そこら辺に居るモブ、と考えてるでしょう。」
「そうだな」
納得された。
「・・・で、そこでイケメン君は明らかに動揺すると思います。あるいは、白を切るか。なので俺は、そこでもっと言及します。イケメン君のボロがでるまで」
「そうか・・・だがもし、それでもそいつが否定したらどうするんだ?」
万が一にもないと思うが、その時は
「その時は諦めますよ」
「・・随分とあっさりしてるな」
「まぁ、その場合は俺のやり方が悪かっただけ、ってことですね」
「・・そうか」
「はい」
イケメン君は必ずボロを出す。俺はそう確信してる。大抵、追い詰められた奴ほど自暴自棄になるもんだ。追い込められた状況で、もっと追い打ちをかけてやればその内折れて自白するか、あるいは・・・・・
イケメン君はあの
「なあ芦田、最初に思ったんだが、なんで相談したのが私なんだ?」
「あぁ、それは那須先生が適任だと思ったからです」
今回の件、俺の
「私が適任?」
「はい。なんとなく、ですかね」
「・・そうか」
先生ほどの適任はいませんよ。
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「では、ここで待っていてください。図書室に
「分かった。だが、くれぐれも妙な気は起こすなよ」
「はい。分かりました」
図書準備室に着いた俺と那須先生はそこで別れた。
図書室と図書準備室は、カウンターの正面奥にある一つの扉で繋がっている。要するに、双方の部屋を行き来できる扉があるのだ。先生には、そこから覗くように見てください、と伝えておいた。
「はぁ」
深いため息と共に緊張感を紛らわせる。俺はこういう役目じゃない気がするが、乗り掛かった舟だ、最後まで乗り続けよう。古瀬さんの為だと思って頑張ろう・・・・
「すみません。少し遅れました・・」
~あとがき~
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そして、今後とも『青春=ぼっちの男』を楽しんで頂ければ幸いです。
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