諦める者→公爵令嬢編① ありきたりな前世だった。
私は、公爵令嬢。
悪役令嬢ではなかったが、“そうなって”しまった。
王太子と婚約を結んでいたが、学園に転入してきた男爵令嬢と親交を深めるうちに、私には悪い噂が出始めたのだ。
婚約破棄は、学園の卒業パーティで起こった。
王太子とそれに付随している側近達の前で、身に覚えのない男爵令嬢への度を超えた嫌がらせと身に覚えのない買収、他国への内通などの冤罪を押しつけられ、拘束された上に、国家転覆の重罪につき、一族郎党全員火刑の罰を受けたのだ。
そうやって死んだはずの私だったが、なぜか意識だけはそこに留まり、国のその後を見せられた。
一言で言えば、ひどい事になっていた。
冤罪だと分かっても、処刑はもちろんのこと、王族の言葉は絶対であり、間違いを正すこともない。
名誉回復などあり得ないのだ。
しかし、民衆は違う。
このことが、王家や貴族への不満として蓄積していく。
嫌がらせを主張した男爵令嬢は、悪役令嬢として断罪されるように、水面下で根回しをしていた。
しかし、断罪後の発覚は簡単だった。
王族が前言撤回をしないのを知っていたが、自分でそのことを、寄りによって婚約式でばらしてしまった。
そんな事を自ら最も重要な場で自爆するとは、男爵令嬢はバカだったらしい。
私が他国に内通していたという部分を男爵令嬢がやったと言う発言で、王家を蔑ろにしたとして、王太子自ら、その場でバッサリ切られて、ある意味幸せの絶頂で死んでいった。
そんな事があり、実際に貴族の一部が他国に内通していたこともあり、国は荒れていった。
貴族を抑える立場にいた公爵家を潰したのだから、そうなる事はすぐに分かりそうなものだが、王家も全員バカ…だったという事だろう。
他国が国に侵略した。
正確には、民衆がその侵略を支持して、王城を無血開城し、王族と内通した貴族を処刑した。
きっと、一度裏切った貴族は、また裏切る可能性があるから、それを先読みしたからだろう。
それを、ふわふわしながら白い空間のモニターみたいな窓から覗いていた全てだった。
私は知っていたのだ。
この世界が乙女ゲームと喚ばれるところということを。
悪役令嬢になることも、断罪後のことも。
そうなってしまうことだと、シナリオの強制力で何をやってもダメだと思っていた。
しかし、強制力など気にしないで、その知識をもっと生きている時にしていれば良かった。
乙女ゲームをしていたのは、前世。
高校生だった私は、いわゆるぼっちで、友だちもいなかった。
唯一の遊びと言えば、乙女ゲームをすること。
幸い、家族関係は良好だったし、金銭に困ることもなかった。
ゲームはコンプリートした。
3部作全て、オマケにスピンオフなシナリオもやった。
文庫もコミックも読んだし、アニメも見た。
自宅には、その乙女ゲームの関係商品が山のようにあった。
家族には、マニアやオタクと言うよりもクレジだと言われた。
クレジって何だって?
多分、クレイジーの略だと思う。
ちょっと病気入っていたかも。
そして、モニターも消えて、周囲が真っ白になった。
転生するのかな?
次は、どんな事があっても、思い通りの生き方をしよう…と思っていたのに、転生先は前と同じ。
乙女ゲームの世界だった。
しかも、今回も前回と同じの公爵家に生まれた。
前世と同じようにしたくないと思ったし、前世もその前の事も全部、記憶から消えることなく残っていた。
いわば、攻略本を手にしているような状態。
ただし、そのシナリオに乗らないように生きていくから、攻略本でなくなってしまうのは決定だけど。
公爵家で生まれた時に、その近くにローブを深く被った、正体不明な人に気がついたのは、おかしな気配を感じたからだった。
しかも、その人物は他の人には分からないらしく、誰も気にしない。
とりあえず、意識の外側に出すことにして、生まれてすぐにしたのは、魔力を使い切って、魔力値を上げること。
『よくある行動です。転生者に多い。まぁ、止めませんけれど。少しお手伝いを』
その謎人は、そう言うと私に触れた。
その瞬間、気が遠くなって、意識が消えた。
気がついたら、魔力値が以前よりも多くなっていた。
その値は…
『ちょうどよい献体がありましたので、強制的に魔力を引き抜き、その後に強制的に魔力を押し込んでみました』
献体、違う。
でも、魔力を使い切ってからの回復で魔力は上がる。
それを強制的にすることで、魔力を急激に上げるというチートを使ったのだろうと思った。
これも、乙女ゲームではスピンオフに載っていた方法。
ただし、この謎人はいなかった。
こいつは、誰だ?
そして、私の人生は、この謎人と共に歩むことになる。
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