6-3
土曜日、伊織からの連絡で一緒にお昼を作ることになったのですが、家に来た伊織は何やら楽しそうにしていますね。
「じーーーー」
「どうしたの?」
「うーん、隈はなし」
徹夜でもしてテンションが上っているのかと思ったのですが、違ったようですね。
「徹夜だと途中で警告出るし、睡魔と戦いながら細かい作業なんて出来ないよ」
そうですよね。やるなら寝て起きてからですよね。
準備が終わる少し前に葵を呼びに行ってもらいましたが、果たしてすぐにもどってく――
「お待たせ」
「あれ? もうログアウトしてきたの?」
「葵にも連絡してたから、すぐだったよ」
まったく、ぬるま湯め。
「もっと時間かかると思ってたから、待たせといてね」
まぁ、最後にお茶を注ぐだけなのですが。
……………………
………………
…………
……
お昼の後、少しゆっくりすることになりました。
当然、話題の一つとして昨日のことも上がってきます。
「伊織達は昨日の内にテクザンまで行ったんだろ」
「そうだよ。確か、葵達は情報貰ってからすぐに挑戦してたよね」
「へー、もう行ってたんだ」
私達はそれぞれエンジョイ勢ではありますが、方向性には違いがあります。私は魔法系をメインにしていますし、伊織達は行きたいところ、葵達は新しいところでしょうか。まぁ、何にしろ街は行けるようにしないと不便だったりしますが。
「精錬だけど、通常精錬はどの街のNPCでも出来るらしいな」
「そなの?」
「ああ、あのアナウンスで開放されたらしい。もっとも、装備の素材に応じた職人のNPCに頼む必要があるけどな」
その辺りはプレイヤーの制限と同じなのでしょう。
「失敗時のペナルティも情報が少し出てるよね。+5からは失敗すると精錬値が下がることがあるんだってさ。試しにNPCに依頼したプレイヤーが+7の武器を精錬しようとして+0になったって嘆いてた」
もう少し詳しく聞くと、精錬値が下がるにしても、どこまで下がるかはランダムのようで、下がらない場合もあるそうです。
「壊れることはないの?」
「+9と+10にする時は壊れる可能性があるってさ。まぁ、+5にする時以降は、毎回警告出るから、すぐわかったらしいけど」
「なるほどね。つまり、私は+4まででやりくりすればいいわけだ」
まぁ、アイテムと相談して+8までなら狙ってもいいですが、あの杖を壊すようなことはしたくないので、それ以降はなしです。
「後は限定精錬の方だけど、あっちは開放したプレイヤーが増えないとわからないよね」
「そういえば、茜、マギストの方はどうなんだ?」
「ん? 魔法学院に入って、時計塔ダンジョンのクエやってる。まだ敵が弱いから楽だけど、数が多いから、時間かかってるよ」
「そうか。面白いもんあったら……、いや、勝手に自慢しにくるか」
そりゃそうですよ。面白いものは語って聞かせるものですから。
お昼の後のログインの時間です。昨日開放したテクザンは時雨に任せるので、私は日課を済ませてマギスト探索の続きです。
テロン!
――――フレンドメッセージが一通届きました。――――
おや、誰でしょう。えーと、あ、リコリスですね。前に苗木の育成を委託しましたが、その前段階として普通の木で練習していました。それが上手くいったので、例の苗木の育成を始めるそうです。いつでも見に来ていいと書いてあるので、そのうち訪ねるとしましょう。
昨日はログイン直後に捕まったので昨日の分と合わせて2日分の日課をこなしましょう。
もちろんその後はマギストへ向かいます。何度か行って、ヤタと信楽を召喚していても大丈夫だと判断したので、今日からは一緒に向かいます。
慣れた足取りで時計塔1階から上部へとジャンプし、2階へと入ります。のちのち好きな階にいけるようになればいいですね。
ちなみに、ヤタは飛べるからいいのですが、信楽が下部に取り残されたので、召喚しなおしました。
「信楽ー、置いてく気はなかったんだよー」
『TANUNU』
なんだかふてくされている気もしますが、そんな信楽も可愛いですね。
やってきました時計塔ダンジョン2階です。ここにはシェルファーとダストクラウドの2種類のMOBがいます。クエストの対象はダストクラウドで、残りは50体です。風属性なので、風と土属性以外で攻撃します。まぁ、ランス系はいくら使ってもスキルレベルが上がらないので、相性にだけ注意すれば何でもいいんですよ。
こうしてダンジョンで乱獲を始めたわけですが、平日にチョロチョロとやっていた時は片手で足りるくらいの人影がありました。けれど、2階を隅から隅まで行っても人っ子一人いませんね。これはもう、独占ですよ。まぁ、理由はいくつか考えられますが、気にする必要はありませんね。
休憩をはさみながらダストクラウドを倒していると、ようやくです。ようやく、討伐クエストのカウントが100/100になり、次へと進めることになりました。
それでは急いで事務局へと報告に行きましょう。
もちろん、1階の上部から下部へ行く時は扉のところにある手すりから飛び降りるわけですが、ちゃんと着地しても全身にしびれが生じ、HPが少し減ります。まぁ、これだけで済むのなら何の問題もありませんね。
そこからMOBに集られる前に事務局へ向かい、報告すると、ちょっと会話の後に――
ピコン!
――――クエスト【魔導の深淵・入門編】をクリアしました――――
ラーニングスクロール【操作】を手に入れました
―――――――――――――――――――――――――――
と表示され、事務員さんから魔法陣が描かれたスクロールを手渡されました。識別しても【ラーニングスクロール】としか表示されないので、使う以外の使い道はないようです。
ピコン!
――――System Message・アビリティを習得しました――――――
【操作】を習得しました。
基本スキルの魔法を発動時に補正がかかります。
※詳しくは【魔術】を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――
とまぁ、こんな感じです。えーと、どうやら称号系スキルの【魔術】に追加されるもので、基本スキルにしか影響しないようです。効果としては、軌道を変えられたり、形をある程度変更出来るようです。元から向きくらいは調節出来ましたが、ボルト系の軌道を大きく迂回させたり、ウォール系の形を細長くしたり出来るようです。いろいろと便利そうではありますが、慣れるまでは大変ですね。
「これで、貴女は正式にこの学院の一員として認められました。ここで何を成すかは貴女次第です」
いいっぽいことを言ってNPCが沈黙してしまいました。残念ながら次のクエストは自分で探さないといけないようです。それに時計塔ダンジョンの立ち入り許可も2階までなので、これはもう、総当たりですね。
そんなわけで食堂へとやってきました。情報収集に酒場へ来るのは基本ですが、学院という設定上、酒場があるはずがないので、現実的に考えて食堂で代用するはずです。
さて、魔法使い風のNPCが大量にいるので、どうしましょう。いきなりグループに突撃しても話に加われるわけがないので、端や影に一人でいるNPCに話しかけましょう。
ちなみに、食堂ではヤタと信楽が自動的に送還されてしまいました。
「ちょっといいですか?」
「……な、何ですか?」
ふむ、私の目を見ようとして断念した後に、ネクタイに付けた魔法学院の校章を見ましたね。これはNPC一人一人に細かい設定がありそうですよ。
「いやー、事務局の人に正式にこの学院の一員として認められたって言われたんですけど、これからどうすればいいのかわからないんですよ。他の人達はこれからどうするんですか?」
女子生徒のNPCですが、後ろから見た時は黒い長い髪だと思っていたのですが、内側は白いんですね。
「えっと、私達は魔導の深淵へと挑むのですが、個人個人でその過程は違います。なので……この学院で何を目指すかによるのですが……」
うーむ、目的を言えということですね。
「全部です」
プレイスタイル魔女ですから、魔法に関わることは何でもやらなければいけません。ええ、なので、全部です。
「えっと、全部……ですか。では、その……優先順位を決めてもらえると、答えやすいのですが」
ふむ、優先順位ですか。まぁ、見えやすい目的としては、あれですね。
「時計塔の3階にはどうやって入るんですか?」
「あそこは修練場でもあるので、戦技科で登録してください。そうすれば示した実力に応じて上の階への立ち入り許可がもらえます」
「なるほど。ちなみに、この街全体で見ておいた方がいい場所ってあります? 南の塔とか怪しいですし」
ついでに街についても聞いてみることにしました。あの塔はあからさまですが、他にも何かあるかもしれませんし。
「あー、天文台ですね。あそこは魔法図書館が管理しているので、一度行った方がいいですね。後は……、全部と言っていたので、東にある魔力屋の本部や、西の研究所もですね。学院と協力体制にはありますが、それぞれの得意分野もありますから」
ほうほう、魔力屋ですか。魔力付与を教えてくれたNPCがそんなお店をやっていると言っていましたね。あそこの本部ということなので、魔石を作るスキルを手に入れられるかもしれません。
「ありがとうございます。それでは、戦技科へ行ってみますね」
「どういたしまして。それと、戦技科で説明を受けると思いますが、ここを含めた4ヵ所は独自の修練場を持っているので、そこに行く時には私達を傭兵として雇うことが出来ます。リストからも選べますが、指名も出来るので、これを持っていってください。……あらためて、グラウと申します」
名刺のようなものをもらいましたが、すぐにどこかへ格納されてしまいました。恐らく戦技科で何かをすれば確認出来るようになるはずなので、忘れずに行く必要がありますね。
「これはご丁寧に。リーゼロッテです」
軽くお辞儀をしあってから食堂を後にしました。
……戦技科ってどこでしょう。
しまりませんが、すぐに戻ってグラウさんに場所を聞いて再出発です。
魔法学院の戦技科へやってきました。
えーと、受付にいるNPCに話を聞いてみましょう。
「すみません、ここで時計塔の3階に入るための許可がもらえると聞いたのですが?」
「はい、では登録をしますね」
例の校章が光り、何かをし始めました。
ピコン!
――――System Message・傭兵システムが開放されました―――――
傭兵システムが開放されました。
※詳しくはヘルプを確認してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
とまぁ、こういうわけですが、グラウさん曰く、この街限定だと言っていたので、ソロ向けのシステムなのでしょう。
「登録完了しました。これより先は、教授に師事するなり、依頼をこなすなりして許可を得てください」
「わかりました。ありがとうございます」
とりあえず傭兵システムを見てみましょう。
えーと、何々、その街の中にある、もしくは指定されたダンジョンに戦えるNPCを同行させることが出来るシステムで、大金が必要らしいです。連れて行ったNPCが瀕死の重傷を負った時に緊急転送システムを使って緊急治療室へと転送させるため、そのシステムの使用料という名目もあるそうです。まぁ、NPCのHPが全損してからリポップさせるための設定なのでしょう。ちなみに、指名可能NPC一覧というものがあり、グラウさんの名前もありました。使えるスキルも載っているのですが、光系統と闇系統、そして空間魔法も使えるようです。そういえば髪の色が黒と白でしたが、偶然ですかね。全属性を使えるとなると髪の色が大変なことになるので、偶然ですよね。
次に、戦技科にある依頼を確認しましょう。冒険者ギルトと同様にクエスト斡旋機能がありますから。
まぁ、今は一つしか受けられないので、これが前提クエストなのでしょう。
――――クエスト【魔導の深淵・表層編】――――
時計塔3Fに出現する特定のモンスター討伐 【0/200】
―――――――――――――――――――――
こんなクエスト、あからさますぎますよね。恐らくですが、これで実力を示せばクエストが増えるのでしょう。もしくは、NPCに師事するといったところでしょう。
クエストを受けましたが、そろそろ時間なので一度ログアウトです。
夜のログインの時間です。日課をこなそうとログインすると、時雨が難しい顔をしていました。
「こんー」
「あ、リーゼロッテ、ちょうどいいところに」
「どしたの?」
「ちょっと話を聞こうと思ってね。そっちは何か面白いもの見付かった?」
「いやー、まだダンジョンの3階に入れるようになっただけだから。傭兵システムなんてのあっても、連れてけるのが魔法使いだから、使えそうにないし」
魔法使いが魔法使いを傭兵に雇ったとしても肉壁にしかなりませんよ。それも相当脆いです。そんなものに大金をつぎ込む気にはなれません。
「あー、マギストにもあるんだ。私はまだ開放してないけど、テクザンにもあるらしいよ。雇えるのが鍛冶職人とか炭鉱夫だから、正直微妙だってさ」
「へー、逆ならまだいいのかな?」
「野良でもいいからパーティー組んだ方がいいと思うよ」
まぁ、そうですよね。マギストの場合はソロで一緒に行ってくれるプレイヤーがいないとか、こだわりから属性の問題があるとか、そういった状況でしか使わないシステムでしょう。
日課をこなしてからマギストのポータルへと移動しました。グラウさんが言うには南にあるあの塔が天文台らしいのですが、一番上がドームになっており、そこから望遠鏡を出すための割れ目があります。ええ、ちょっと卑猥ですね。東には魔力屋の本部が、西には研究所があるそうですが、高い建物はないので、近くまでいかないとわからない場所にあるのでしょう。
まずは受けているクエストを最優先にするので、魔法学院の時計塔ダンジョンへと向かいます。今のイベントは全てのMOBのドロップにランダム仮装袋が追加されているので、討伐クエストはイベントとクエストを同時に進められるのでとても楽です。
いつもの様に時計塔へ入ろうとすると、ウィンドウが現れ1階と3階が選べるようになっていました。細かいことですが、こういう機能があるととても助かりますね。移動は面倒ですし。
3階へ移動すると、そこは小部屋でした。1階や2階で最初にある小部屋と同じくらいの大きさですね。となると、あの扉を開けると大広間が……ありませんでした。真っ暗なので光源を使って明かりを確保していますが、小部屋の先に広がっているのは分かれ道の多い広い通路です。てっきり最初と同じだと思っていたので油断していましたが、気をつけなければいけませんね。
今回のターゲットも特定のMOBなのでここから出現するようになるMOBでしょう。さてはて、何が出るやら。
今まで同様にシェルファーとダストクラウドも出るので気をつけなければいけませんが、慣れた雑魚MOBなんて敵じゃありませんね。周りを見る余裕もありますし。
おっと、何かが動いていますね。魔法陣を5つ描きながら識別すると【動く魔本】というMOBでした。ここに来て初めて漢字が使われているMOBに遭遇しましたね。属性はないのでなんでもいいですが、移動速度がダストクラウド以上です。この階で出現するMOBの移動速度が3種類ともバラバラとは、厄介です。特に足の早いMOBなんて面倒でしかありませんよ。
「【マジックランス】」
無色に光る槍を5本放ち、動く魔本を倒しました。果たして4本で倒せるのかはわかりませんが、だんだんと強くなっているはずなので、足も早いことですし減らすのは危険です。なので、このままで行きましょう。
ちなみに、動く魔本ですが、分厚い辞書くらいの本が開いた状態で漂っています。口を開いているという扱いなのか牙も見えたのでオブジェクトとして落ちている本と間違えることはないでしょう。
移動速度の違いに気をつけながら歩き回った結果、大まかにですが3階の構造がわかりました。ここは広い通路から枝分かれした道があり、そこから数多くの小部屋へと繋がっています。大きく動き回れるような広さはないのでMOBを見かけたらその場で対処して進まないと大変なことになりますね。シェルファーを放置して進んだ結果、動く魔本に追いかけられ、逃げた先に放置したシェルファーがいて挟み撃ちなんてことにもなりましたから。
ええ、そういった経験を踏まえて見敵必殺を心情に進んでいるので、経験を生かした結果ですね。
ちなみに、動く魔本の出現率の問題もあってまだカウントが30くらいしか進んでいません。今回は200体なので時間がかかりそうですね。
ドロップの魔石(小)と破れたページですが、シェルファーはページの欠片を落とすので、何かに使いそうですね。
さて、そろそろ一度休憩を挟みたいのですが、安全地帯が存在していないいようなので、どうしましょうかね。一度部屋を綺麗にしてから座っていたら目の前に動く魔本が出現したので慌てましたし。やはり、最初の部屋でしょうね。幸い、碁盤の目とはいいませんが、細い道どうしも繋がっているので、来た道を戻る以外にも最初の部屋へ行く道はあります。
無事に最初の部屋へ戻ってきたのでヤタと信楽を呼んで休憩しましょう。
『KAA』
『TANU』
やはり、ヤタと信楽がいると癒やされます。満腹度の回復も串焼き系なら移動しながら食べられますが、やはり腰は落ち着けたいものです。
ちなみに、散らばっている本を手にとって見ると、何やら魔法がどうとか魔力がこうとか書いてありますが、かすれていたり破れていたりと読めないようになっていました。インベントリにも入れられないので、アイテムとして意味のあるものではないのでしょう。
あ。
取得して満足した結果、頭の片隅に追いやられたものを思い出しました。基本スキルにしか関係ないものなのでしかたありませんが、下級スキルに対応したものを覚えた時に練習するよりも、時間のある時に練習しておくべきでしょう。
そんなわけで散らばっている本を集めて重ね、それを等間隔に並べます。準備はこれで完了なので、後は練習あるのみです。
『KAA?』
「あー、ヤター、本の上に乗ると危ないよー」
これから練習するので、間違ってヤタに命中してしまう可能性もあるので、本の上からどいてもらいましょう。
えーと、このアビリティの使い方は……、事前に登録するか、詠唱中に設定するかだそうです。事前に登録する場合はいくつかのパターンを登録出来ますが、詠唱中に設定した方が臨機応変な対応や細かい調整も出来るので、後者にしましょう。
本の山は5個、それをカラーコーンに見立てる。つまり、スラロームですよ。
魔法を使う前にスラローム走行の軌道を想像します。そして――。
「【ファイアボルト】」
放たれた火の玉が本の山の間を縫うように進み、1個、2個、3……あ、本にぶつかってしまいました。ちょっと設定というか想像が甘かったようですね。いきなり難易度が高かった可能性もあるので障害物を3個にして間隔を広げましょう。
『TANUNU』
「あ、信楽、それはそっち置いといて」
信楽は力持ちなので本の山を軽々運んでいます。維持コストで私のSTRも少し削るだけのことはありますね。
それでは次の挑戦です。大まかに軌道を想像するだけでなく、必ず通る場所もしっかりと確認しなければいけません。
とりあえず、こう本から本の間までを半径とした円周を想像して、あそことあそこと……とりあえず、何ヵ所かはしっかりと確認します。
ふむ、いきなりスラロームも難しいので、まずは本の周りを回ってもらいましょう。
「【ウォーターボルト】」
放たれた水の玉が本を中心とした円の円周上を回りました。軌道に多少のブレはありますが、これは成功ですね。
その後も何度か放ち、魔法の軌道が綺麗な円を描くことに成功したはずです。ええ、軌道が波打たなければ成功ですよ。
次は本の山を3個つかってスラローム走行です。
「【ロックボルト】」
放たれた土の玉が想像通りに本を中心とした円周上を進みます。1個、2個、3個。成功です。3個目以降は設定していないので勢いのままどこかへ飛んでいきましたが、問題はありません。
まずはこの時点での完成度を高めるために何度も繰り返しましょう。
………………
…………
……
ふむ、完璧ですね。そのまま勢いで本のギリギリを進むようにしたり、本の山を5個にしたりとこれは完璧と言っても過言ではありませんよ。
次は、速度の調節です。魔法それぞれに設定された速度があるようですが、それもいじれるはずですから。
「【ダークボルト】」
その結果は期待はずれでした。ええ、思いっきり早くしようと思ったのですが、普段と変わらぬ速度でした。まぁ、他の魔法も雷属性の魔法くらい早くなったら大変ですよね。
ちなみに、遅くすることは出来たので、こう、速度を下げた一発目を囮に、普通の速度の二発目を叩き込むということが……出来たらいいですねぇ。
それでは次の練習です。
ええ、魔法陣を縦に並べ、同じ軌道を描きます。まぁ、これは簡単でしたね。問題は次です。ええ、複数の魔法で別の軌道を描くわけですよ。まぁ、スラローム走行を左右から同時に行えばいいわけなので、言うだけなら簡単です。
「【ウィンドボルト】」
放たれた風の玉が左右それぞれから回り込むように5個の本の山を避けるように通り抜けました。まさかまさかの一発成功です。これはマルチロックを練習していた成果なのでしょうか。流石に5個は無理でしたが、3個ならなんとかなりました。
ちなみに、同じ軌道、速度なら5個でも出来るので、ゆっくり進む火の玉が5個連なって進むということも出来ました。
次はウォール系の変形ですかね。
「よーし、次の階もすぐに突破するぜー」
おや、3階では初めての遭遇ですね。他の人がいる状態でウォール系を変形させると邪魔になるので、小さくする練習だけしましょう。
「【ロックウォール】」
もともと角度や方向の調整は出来ましたから、大きさも特に難しいことはなく、信楽の身長くらいの岩の壁を出すことが出来ました。
『TAANUNU』
信楽が壁を殴って遊んでいます。せっかくなので、壁から止まり木代わりに細長いロックウォールを出したらヤタが喜んで止まりにいきました。
「おうあんた、面白いことやってんな。それってあれだろ、操作だろ」
てっきり先へ進むと思っていた一団が私の練習を見物していたようです。それにしても、魔法使いが二人ですか。後は普通の前衛やら弓持ちやらで、固定パーティーのようですが、4人ですか。
可能性の一つとして、誰かがクエストを受けていれば同行出来るということですね。
「そうですよ。練習しないと使えませんから」
「つっても基本スキルだけだろ。下級に対応してなきゃ意味ねースキルだよ」
「そですか」
さて、今度はどういう壁にしましょうかね。ウォール系の基準が面積なのか体積なのかはわかりませんが、減らす分には問題ないので、小さいアーチ状の壁にしましょう。
「なぁ、あんたもクエスト受けてんだろ。討伐系は一定範囲内ならパーティーメンバーが倒してもカウントが進む。組まねーか?」
「お断りします」
さて、アーチ状も出来たので、その薄さを調節しましょう。普通の薄さと半分と倍もです。
3個同時に発動したところ、見事に設定した薄さのアーチ状の壁が出来ました。確定ではありませんが、やはり体積が基準のようですね。
「おい、せっかく人が誘ってん――」
「はいストップ。お前の誘い方で成功したことないだろ。本気で誘うなら俺を通せって言ってるだろ」
何やら寸劇が始まりましたね。
さて、次です。
「【ステアー】」
壁際に極薄の階段を作りました。これも出来るのなら、螺旋階段はどうでしょう。
「あー、ちょっとよろしいでしょうか?」
四人組の一人が妙な感じで話しかけてきました。先程の前衛風の人は他の魔法使い二人に取り押さえられていますね。
「よくない」
ミニチュアサイズの螺旋階段しか作れる場所はありませんが、しっかりと想像していましょう。
「……あー、あの、俺達は【JUSTICE BRAVER’S】というクランで、ワールドメッセージはまだだけど、一応最前線のクランって認識されてるんだ。別に勧誘とかじゃなくて、ちょっと一緒に狩りをしながら些細な情報交換が出来ればと思ってるんだ」
うーむ、聞いたことがあるようなないような……ないクランですね。
「【ステアー】」
ほう、いい感じに出来ましたよ。実用に耐えうるかはわかりませんが、見た目は完璧にミニチュアの螺旋階段です。
「もがもがむきー」
何やら言い合いをしてますが、聞こえる声が減ったのでパーティー会話にしたのでしょう。静かにしてくれるのであれば、私は練習に集中できます。
螺旋階段の次は螺旋滑り台が出来るかどうかですね。階段の定義からは外れますが、どうでしょう。
「【ステアー】」
……段がないのは駄目なようです。
「螺旋階段ですか。ちなみに、支柱などの支えがないのは出来ますか?」
「へ?」
「大昔に奇跡の階段って言われていたものがあるんですよ。俺も詳しくは知らないけど、建築学上のありえないって言われてたとか」
「ほうほう」
うーむ、流石に天井まで伸ばすと邪魔になるので、1メートルくらいのところに天井代わりの壁を出してから試してみましょう。
「【ロックウォール】……【ステアー】」
「凄いな。成功だよ」
「まぁ、このゲーム、物理現象よりも仕様を優先する面がありますからね」
「ああ、俺はカドモンって言うんだ」
「あーどうも、リーゼロッテです」
「リ……」
さて、次はどうしましょうかね。ボール系はボルト系と変わらなそうですし、ヒールとエンチャントも操作出来るようなものではありません。なら、後はウェイブ系ですね。
「えっと、それで、俺達と一時的にパーティーを組まないか?」
「そちらは4人ですよね。こっちは3人なので、お断りします」
ヤタと信楽を召喚したまま倒せるMOBのようなので、そこは譲れません。
「そうですか。わかりました」
そういうと大人しく引き下がり、狩りをしているパーティーの元へと去っていきました。進む方向を確認してかぶらない様にしないと掃除された場所を進むことになってしまうので、見送ってから私も行動開始です。ウェイブ系の操作はここでは出来ないので狩りを再開しましょう。
この後、いい時間になるまで狩りをしましたが、動く魔本の討伐数は64体でした。まぁ、討伐数以上に得るものがあったので、よしとしましょう。
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