第140話 王族を狙うモノ
「フッ!」
ルイザの
また、彼女は拳を守るためにナックル・ガードを装備しているため、多少攻撃が剣を握る手を掠めようとも傷つくことが無い。
そんなルイザはどこまでも真っ直ぐな太刀筋をもって、ディーンとエレナを相手にもならないといった様子で易々と退け、ラウラへと向かっていく。
ラウラはミレーヌに近づけまいとルイザ目がけて立て続けに矢を放つが、すべて剣で払い落されていた。
「その首、頂戴します!」
渾身の薙ぎ払いがラウラの首筋へと放たれるが、それは一振りの短剣によって阻止される。
「ラウラは絶対に殺させないわ!」
「残念ですが、それは叶いません!」
ルイザはより力を籠め、ブロードソードを右方向へ薙ぎ払う。力で押し切られたミレーヌは無様に転倒する……かに見えたが、すぐさま受け身を取って体勢を整える。そこはさすが
「やはり、ミレーヌ様がこの中で一番の手練れとお見受けしました」
ルイザは感心するような表情と共に一礼した。しかし、直後にはラウラから頭部に向けて放たれた矢が飛んでくる。
さすがにラウラの弓の腕は相当なモノだ、とルイザは気を引き締めた。一瞬の隙すらも逃さずに射撃してくるのだ。気を緩めたが最後、急所を射抜かれて死ぬ。
そう解釈し、ルイザは全力で戦おうと決めた。その前に半端な強さしかないディーンとエレナの二人を殺して、ミレーヌ・ラウラコンビに備えなければ、とも考えていた。
そして、肝心の二人に狙いを定めるべく、キョロキョロと辺りを見回す。そんな時、唐突な魔力の膨張を感じ、その方向を振り向く。
「「“聖砂ノ太刀”ッ!」」
二人の息の合った声と共に放たれるのは光と砂が混じりあった斬撃。これはルイザと同じく七魔将のクロヴィスにもダメージを与えた魔力融合での一撃だ。
その一撃には、ルイザ打倒の願いと共に二人の全魔力が込められている。
不意打ちと言うこともあり、ルイザは“聖砂ノ太刀”をかわすことが出来ず、直撃を受けた。技の命中直後、大爆発が起きてその場にいる者の肉体を衝撃波が手荒く撫でていく。
ミレーヌもラウラも「やったか……!?」と言わんばかりの期待を帯びた眼差しで爆発源を見つめていたが、その期待は見事に裏切られる形になった。
「そこのお二方、今までの無礼は詫びさせていただきます。これほどの一撃を放てる貴殿らはまさしく戦士。自分は……」
額から少々血を流すルイザの話の最中に割って入ったのは、ラウラの矢。隙アリとばかりに放ったつもりだったが、ルイザには剣で弾かれていた。
「自分はこれほどの戦士を4人同時に相手できるとは光栄の極みです……!」
突然、感動し始めた様子のルイザに対峙する4人は戸惑った。しかし、ルイザが地面を蹴ってすぐに意識を戦闘へと戻した。
ルイザが向かったのはディーンとエレナであった。二人が魔力を使い果たしたのを見越しての動きであったが、今からではミレーヌが走っても、ラウラが矢を放っても間に合わない。
ディーンがエレナを庇うように前に出るが、エレナは恐怖に震えながら、助けを願うかのようであった。無慈悲にルイザの刃がディーンを仕留めようかという絶妙なタイミングで、
「“
と、一本の氷の矢が撃ち込まれた。
死角からの攻撃に驚いたルイザに、好きを逃がさずディーンから斬撃が見舞われる。その一太刀は惜しいことに、ルイザの肩を掠めただけにとどまった。焦るあまり、間合いを見誤ったのが原因であった。
しかし、ルイザはそんなディーンを仕留めるわけではなく、迅速にその場を飛び退いた。
「“
そんなルイザに側面から拳が打ち出される。ルイザはとっさに黒い盾を作り出して拳を受けた。
デレクはその事実に驚きつつも、怒涛の拳打を叩き込む。ルイザは華麗な身のこなしで、それを回避。その中で放ったブロードソードでの突きは、デレクに寸でのところで首を捻って避けられた。
「デレク!」
そんなマリーの呼び声に、デレクはバックステップでルイザから間合いを取った。その刹那、デレクを始末しようと動いたルイザへと氷の矢と普通の矢が同時に射かけられた。
「“
ルイザは反射的に再度影から黒い盾を作り出して飛来する矢から身を守った。これがルイザの魔法であり、“聖砂ノ太刀”が放たれた際にもこれで防御していた。ゆえに、軽傷で済んでいたのだ。
ルイザが魔法を解除すると、デレクが青色の髪を風になびかせながら、柿色の髪の青年を抱きかかえて走っている姿が瞳に映った。
向かう先はラウラだ。デレクとマリーはピーターの治療のためにラウラを捜していた。そうしている内に騒ぎを聞きつけ、駆けつけてみれば探し人がいたというわけだった。
ゆえに二人は、最優先の目的であるピーターの治療のために全力を尽くしていた。マリーはデレクと並走しながら、氷の槌を召喚し、ルイザへと叩きつけた。だが、ルイザはその氷の槌を剣を寝かせて軽々と受け止めていた。
しかし、その攻撃は足止めとしては十分であった。
ピーターを抱えたデレクとマリーは無事にラウラの元に辿り着くことができた。そして、その一瞬を逃がさずに動いたミレーヌが弱っているディーンとエレナの二人を両腕に抱えてラウラの元まで運んできた。
一か所に固まった7人。うち、3名は戦闘の継続は不可能。ピーターの手当てを行なうためにラウラも戦線を離脱。残ったミレーヌ、デレク、マリーの3人で、ラウラと手当て中のピーターと魔力切れのディーンとエレナを守らなければならないという不利な状況である。
相手は七魔将ルイザ。今までの戦闘能力からして、
そこから、ミレーヌは自ら率先してルイザへと斬りかかり、デレクもそれに続いた。マリーはラウラの側に残り、魔法で援護射撃に徹した。
――ガキィンッ!
鋭い金属音が鳴り響き、火花が激しく散る。ミレーヌの短剣とルイザの
その間に追いついたデレクが跳び膝蹴りをルイザの横っ面に叩き込む。それによって、口から血を流しながらルイザが体勢を崩す。すかさず、ミレーヌの反対の手が持つ短剣が強襲。
その斬撃はルイザの胸元を
「“
ルイザは空いている左手に影の剣を召喚し、横薙ぎに一閃。デレクはしゃがんで薙ぎ払いを回避し、回し蹴りをルイザの左腕に叩き込んだ。
これにはさしものルイザも痛みがあったのか、表情が少し歪んだ。だが、次の動作ではデレク目がけてブロードソードで素早く突きを繰り出していた。
これに対して、デレクは剣を側面から両手で挟み込み、受け止めた。そして、左へと受け流して、その場を飛び退いた。
「ハッ!」
デレクが離れた次はミレーヌからの斬撃。それを受け止め、弾くルイザ。ミレーヌは続けてもう片方の短剣での斬り上げを放つ。
……かのように見せ、右わき腹へ左足での回し蹴りを叩き込んだ。攻撃を受け、体勢を低くしたところに右足での回し蹴りを首筋へ。
純粋に力で上回っているルイザだったが、近接格闘術においてミレーヌには敵わなかった。加えて、両手に握る短剣も厄介であった。
しばらくもつれ合う二人。しかし、優勢であったミレーヌの方から間合いを取った。ルイザはこれを追わずに援護射撃をしようとしているマリーへと狙いを定める。
「“
ルイザが呼び出したのは影の矢。その数、数十本。それが一斉にラウラへと襲い掛かる。
「させないわ!“
マリーはラウラの真正面に氷の盾を召喚して矢の攻撃を防いだ。
「しまった!」
マリーが気づいた時にはすでに遅い。ルイザは同じ魔法の使い手として弱点を熟知していた。それは一度に一種類の装備しか召喚できないという事。現在、マリーはラウラを守るために召喚している。
そして、目の前にはブロードソードを振りかざすルイザ。マリーの手元には長杖があるが、これでは近接戦において勝負にならない。
マリーが打開策を必死で探すものの、何も見つからない。そうこうしている間に刃は迫りくる。
「終わりです!お覚悟を!」
そんなルイザの言葉が届いた時、一振りの短剣がルイザの首筋に突き立った。ルイザが血走った眼を左に向けると、何かを投擲したような体勢のミレーヌの姿があった。
ミレーヌが投擲した短剣かと理解した刹那、
「俺っちのマリーから離れろってよ!」
凄まじい速度で撃ちだされた酸の拳がルイザの頬へと喰らいつく。
「うぐっ!」
ルイザはうめき声を上げながら、殴り飛ばされ、石畳を豪快に吹き飛ばしながら仰向けに倒れ込んだ。
「大丈夫かってよ、マリー?」
デレクがマリーの方へと向き直ると、マリーは顔を真っ赤に染めて俯いていた。デレクはどうしてマリーがそんな様子になっているのか、皆目見当もつかなかった。
「おい、どうしたんだってよ!?」
「あ、アンタが『俺っちのマリー』なんて言うから……ッ!」
デレクは「何言ってんだこいつ」みたいな表情であったが、自分がルイザを殴り飛ばした時の言動を思い出し、頬が熱くなった。
「いや、あの時は俺っちもよ……」
デレクが再び口を開いたタイミングで、一本の斧が投擲された。その斧は影で出来ており、デレクとマリーを通り過ぎて建物へと突き立ち、消えた。
その斧を投げたのは無論、ルイザであった。右の頬は酸でドロドロに溶け、首筋には短剣が刺さったままである。
デレクとマリーはその不気味さに慌ててラウラの近くに駆け寄った。ミレーヌがラウラのところに戻って来たのもほぼ同時であった。
「みんな、お疲れ様。3人とも傷は治ったわ。ピーターも命に別状はないわ」
ラウラの言葉に3人は静かに頷き、ルイザへと視線を戻した。ルイザは首に突き立った短剣を引き抜き、石畳の上に放った。
その時の短剣が刺さっていた部分の傷は修復が始まっており、デレクの酸を受けた頬も溶けては修復、溶けては修復を繰り返し行っていた。さらに、ミレーヌが与えた胸元の傷も大方治癒していた。
ルイザの化け物っぷりに全員が恐怖の感情を抱いた。いや、抱かずにはいられない。彼らにとっては、傷が癒える敵を目の当たりにするのは初めてだからだ。
悪魔は光属性以外の傷は自らの再生能力で傷が治癒するという話は聞いたことがあったが、あくまでおとぎ話か何かだと思っていたからこそ、その衝撃は大きかった。
「そろそろ時間なので、今回は引き上げさせてもらいます。でも、次に会った時は……」
ルイザは最後まで言葉を言い切ることなく、影に潜って姿を消した。
「アタシたち助かったってことで良いのよね?」
マリーが両脇のデレクとミレーヌを交互に見ながら、そんな言葉を発した。二人とも何も言わないが、少し張りつめた雰囲気は抜けていた。
「とりあえず、宿屋まで戻りましょう」
ラウラの一言に全員が同意したのであった。
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