第40話 伝える思い

 俺は悩んでいた。本当にウィルフレッドさんたちを呉宮さんを助けるのに協力させて良かったのかと。


 ウィルフレッドさんたち冒険者ギルドのメンバーには迷惑をかけてばかりで何も返せていない。


 でも、協力するように強制したわけではないので、俺に非はない。


 そうは言っても厄介ごとに巻き込んでしまったという罪悪感は無くなるわけではない。


「……まあ、くよくよしても仕方ないか。今の俺にできるのは亡くなってしまったミロシュさんたち冒険者の死を無駄にしないためにも、呉宮さんを助け出すことだけだ」


 八人の英雄の話を聞いた昨日。ウィルフレッドさんから連絡があった。


“今から七日後、王都に出発する。各自、準備を怠らないように”


 ……とのことだった。しかし、ギルド全員で向かうわけにもいかないので、王都に向かうのは俺たち六人を含めて21人だけで向かうそうだ。


 とにかく俺たちは準備を着々と進めつつあった。


 今日から6日後、王都へ出発する。しかし、王都までは馬車で10日ほどかかるらしい。(馬車が一日で進めるのは50㎞前後なので、ローカラトの町から王都までは大体500㎞あるということになる)


 また、昨日に俺たち6人は揃ってアイアンランクに昇格した。


 なので、鉄の武器と防具を装備できるようになったのだ。


 そういうわけで今日は新調した俺の装備に色々な付加エンチャントをする予定だ。


 ――――――――――

 今日付加を施す装備

 鉄のサーベル2本

 鉄の丸盾ラウンドシールド

 鉄のブレストプレート(胸部だけの鎧)

 皮の手袋グローブ

 皮のブーツ1足

 鉄の脛当てグリーブ

 ―――――――――――


 まずは鉄のサーベル。これには2本共に鋼の強度を付加エンチャントした。これで鋼の武器を敵が持っていても問題なく切り結ぶことが出来る。


 次に鉄の丸盾ラウンドシールド。これには雷の魔法を付加エンチャントした。相手の攻撃を受けた瞬間に雷が流れるようにしておく。雷はどんな金属をも伝導するから防ぎようがないからだ。


 そして、鉄のブレストプレート。これには治癒魔法を付加エンチャントした。もし、胸元を斬られても治癒魔法で治せるように。即死さえしなければ問題ない。


 皮の手袋には氷の魔法を付加エンチャントした。触れた相手を少しだけであるが凍らせることが出来る。これには初見殺しも良いところだろうな。下手に触れたら凍らされるとか俺だったら絶対嫌だな。


 皮のブーツには敏捷強化魔法を付加エンチャントした。これで少しは身のこなしも楽にできるだろう。


 そして、最後。鉄の脛当てグリーブには風の魔法を付加エンチャントした。これで風を纏った蹴りを叩き込むことが出来る。


 やはり付加術は便利だ。どんな相手にも対応することが出来る。もし、不測の事態が起これば付加エンチャントをやり直すだけだからな。


 こうして俺の準備は済んだ。


 後は、剣の稽古とかでもして体を動かしておこう。


 俺はサーベルを持って外へ出た。


 そこで紗希に言われた通りの素振りの練習をした。そして、街中へランニングをしに向かった。


 こんな感じで残りの六日をひたすらに準備に費やした。


 そして、ついにその日はやって来た。


 朝日がまだ昇る前で周囲もひっそりとしていて、暗い。


「よし、準備は出来ているな?」


「はい!」


「よし、荷物を馬車に積み込め!」


 ウィルフレッドさんの指示で屋根付きの馬車に荷物を積み込んだ。


 馬車は四台。ジョシュアさんたち運送ギルドが王都まで送ってくれることになった。


「一台目の馬車は僕が御者をやるから」


 そう言ってジョシュアさんは御者の席から顔を覗かせた。


 俺、紗希、茉由ちゃん、寛之、洋介、武淵先輩の六人がジョシュアさんの操縦する一台目になった。


 二台目にはウィルフレッドさん、ミレーヌさん、ラウラさん、ロベルトさん、シャロンさんの五人。


 三台目にはバーナードさん、シルビアさん、デレクさん、ローレンスさん、ミゲルさん、マリーさんの六人。


 そして、最後尾の四台目にはディーン、エレナちゃん、スコットさん、ピーターさんの四人が乗った。


 そして、いよいよ出発!という時に一人の人物がやって来た。


 その人物はドレスアーマーを装備し、レイピアを腰に差している。スプリンググリーンの髪を風に靡かせながら、こちらへとゆっくりと歩いてくる。


 その人物をよく見てみれば何でも屋の店主、セーラさんだった。


「マスター・ウィルフレッド。遅れてしまいまして申し訳ございません」


 そう言って俺たちの後ろ、ウィルフレッドさんの乗っている二台目の馬車の横で頭を深く下げた。


「セーラか。本当に来てくれるとは思わなかったぞ」


「ウフフ。ワタクシは従業員を殺されたので、部外者とは言えないでしょう?」


「そうだな。なら、一番後ろの四台目に乗ってくれ。ジョシュアには話は予め通してある」


「分かりましたわ」


 セーラさんは颯爽と四台目の馬車に乗り込んだ。


 こうして、ついに呉宮さんを助けるために俺たちは王都へと出発した。


 王都到着は十日後。


 それまではゆっくり出来る。


 俺はみんなと旅の途中の風景を見ながら旅行気分を楽しんだ。それが七日間続いた。その日は街道沿いの野原で野宿だった。


 月明りに照らされてキラキラと輝く小川。


 夜風に揺れる草花。風に運ばれてくる草や土の香り。


 俺は満点の星空を眺めようとゴロンと仰向けに寝転がった。


「何か、家から見た星空みたいだな……」


 確か、まだ幼稚園の時だったか。呉宮さんと二人で星空を眺めてたこともあったなぁ。


 懐かしい。また、あの頃みたいに……。


「直哉さん、星に何か思い出とかあるんスか?」


「……ディーンか。それにエレナちゃんも」


 いつの間にかディーンとエレナちゃんが近くに来ていた。


 二人は今夜空に光る星のようにキラキラとした綺麗な瞳をしていた。


 ディーンとエレナちゃんは俺の隣に同じように寝転がった。


「直哉さんって、友達を探しに来たんスよね?」


「そうだ。まさかこんな大事になるとは思わなかったけどな」


 今思えば、ディーンとこうしてゆっくり話すのは初めてかもしれないな。


「その友達って女の人なんですか?」


 ディーンとは反対の方から質問が来た。エレナちゃんだ。


「ああ、小さいころに知り合ったんだ」


「へぇ~、いいですね!そういうの!」


 エレナちゃんは何だかとても楽しそうだ。そして、そんなエレナちゃんの様子を見ているディーンも何だか嬉しそうに表情を緩ませている。


「えっと、直哉さんってその女の人のこと好きなんですよね?」


「好き」の部分だけ妙に生き生きとした声でエレナちゃんが訊ねてくる。


「……!そうだな。好き……だと思う」


 楽しそうな笑みを浮かべるエレナちゃんからの質問には俺も驚いた。


 ……全く、急にそんな質問されたらビックリするじゃないか……!これは少しお返ししないとな。


「そういうエレナちゃんは、ディーンのこと、好きなんだよね?」


「え、何でそのこと知ってるんですか!?」


 そう言って顔を耳まで赤く染め上げながら、小動物のような可愛らしさを持って慌てている。紗希が小動物みたいで可愛いというのは納得だ。ホントに小っちゃいし。


 それよりも……だ。


 ……いや、マジに当たってたのかよ。こっちもビックリだ。何となく二人でいつも一緒にいるから、そうなのかな~?みたいな感じで聞いただけだったのに。


「エレナ……お前……」


 お、ディーンも照れてるな。これは恋のキューピッドである俺の出番だな。


 このまま逃がすと「俺、この戦いが終わったら告白するんだ」とか盛大な死亡フラグ立てそうだし、何とかここで二人を……!


「ディーン、エレナ。俺には今後悔していることがある。当ててみてくれ」


 俺がそう言うと、二人は静かに考え始めた。


「直哉さん、分からないッス!」


「私も分からないよ!」


 ……二人は予想以上に早くあきらめてしまった。


「それはだな。『ちゃんと思いを伝えてれば少しは苦しくならずに済んだのかな』……だ」


 二人は俺の言葉を聞くと俯いてしまった。


「だから、言いたいことがあるんだったら、相手がいるうちに伝えとけよ」


 俺はそれだけ言ってその場を立ち去った。


 それもそうだ。俺にはあんな恥ずかしい、クサいセリフを吐いて素知らぬフリは出来ないからな。


「兄さん、お疲れ様」


「ああ、紗希か。俺、結構頑張ったぞ」


「うん、見てたよ」


 俺は紗希と共にディーンとエレナちゃんの様子を離れたところから見守った。


 ――その頃、ディーンとエレナの二人はと言えば。


「あ、あのね!私、ディーンのこと……!」


「いや、ここは俺の方から言わせてもらうッスよ」


 エレナの言葉をディーンが遮った。星空を一つの星が流れていく。


「俺もエレナのこと……!」


 ディーンもエレナも緊張した面持ちで向かい合っている。


 そんな二人の様子を固唾を飲んで見守る直哉と紗希。


「……俺、エレナのことが……ずっと昔から好きだったッス!」


「ディーン……私も!私もディーンのこと大好きだよ!」


 心の奥に溜めていた自分の思いを吐き出してスッキリとしたのか。二人の顔は星のように輝いて美しかった。


 そんな二人を見ていたのか、周囲から拍手喝采が。


 結局、みんな聞き耳を立てていたということだった。


 その後は、みんなで火を囲んで食事をした。その時のみんなは生き生きしていた。


 ……俺はこの火を共に囲んで騒いだあの夜のことを忘れることは一生無いだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る