第23話 魔血石

 ある朝。俺たちは今冒険者ギルドの地下一階。ウィルフレッドさんの部屋にいる。


「君らにもをやってもらわなければならない」


 そう言って、ウィルフレッドさんは手のひらサイズの真っ赤な球体を机の上に置いた。


「……これは?」


魔血石ブラッディ―ストーンだ。これに血を垂らすことでどんな魔法が使えるのかが分かるようになっている。そして、魔法適性があれば、石が輝く。もし、適性が無ければ輝くことはない」


 ……まさかとは思うが、ゲームみたいにプレートとかが表示されて『あなたの魔法は○○です!』みたいな感じか?


「そして、魔法についての話だが、属性は新旧分けて9つある」


 9つ……?どういう属性何だろうか。4つだったら火、水、風、土だろう。……まあ、とりあえず話を聞こう。


「まず旧四属性からだな。旧四属性は火、水、風、土の4つだ」


 おお!旧四属性の方は当たってたぞ!鉄板ネタだよな。残りの5つは何だろう?気になるな。


「新四属性は……」


 あれ?また4つ?何故?後の1つは?


「雷、氷、光、闇の4つだ」


 氷は水属性に入らないんだな。それは意外だな。さてと、後の1つは何だろうか。


「そして、新旧どちらにも当てはまらない属性……無属性だ」


 お、おう……その手があったか……!無属性とかなら重力魔法とか転移魔法とかだろうか?


「魔法の属性の説明はこれ位だ。とりあえず、各々の適性を見てから細かい説明をしようと思う」


 俺たちは揃って首を縦に振った。


「……よし、じゃあ、誰からやるんだ?」


 ウィルフレッドさんは1つ大きな深呼吸をしてからそう言った。


「まず、俺がやるよ」


 そして、真っ先に名乗りを上げたのは洋介だ。


「よし、ならばこれを使って血を垂らしてくれ」


 そう言って、ウィルフレッドさんは細い針を洋介に手渡した。


「分かった」


 洋介は自分の人差し指へと針を近づけていく。その手は震えていた。それもそうだ。普段からこんなことをしているのなら躊躇なくさせるんだろうが、俺たちはそんなことをしたこともないのだ。そりゃあ、怖いに決まっている。


 そして、洋介はチクリと自分の人差し指を針で刺した。洋介は一瞬表情を歪めたが、さも、何ともないかのように机に近づいていき魔血石ブラッディ―ストーンに血を数滴だけ垂らした。


 その途端に石が輝き始めた。


 輝きが収まると、石の中に何やら文字が浮かんでいるのが見て取れる。ウィルフレッドさんはそれを見て、洋介にこう言った。


「洋介、お前の使える魔法は雷の精霊魔法だ」


「……雷の……精霊魔法……?」


 洋介は困惑している風な表情を浮かべていた。


「洋介、お前にも見えているはずだ。お前の右肩に精霊が乗っているのがな」


 洋介はハッとした様子で自分の右肩を見た。


「本当だ、さっきまではこんなやつは乗ってなかったのに!」


 洋介の右肩には小指ほどの大きさの人型のやつが乗っている。


「これが精霊……!」


「YO!これからYOろしくなァ!YOスケェ!」


 肩に乗っている精霊は洋介に挨拶をしているようだ。


「で、その魔法はだな。体のどこか一か所に集中させて使うか、一気にぶっ放すかの二通りの使い方ができるんだが……とりあえず全員の魔法の適性を見てからだ。洋介は端に寄って待っていてくれ」


「……分かった」


 そう言って洋介は崖下に繋がっている方のドアの横に座り込んだ。


「次は誰がやるんだ?」


「次は私がやります」


 今度は武淵先輩が名乗りを上げた。そして、洋介と同じ手順で石に血を数滴垂らした。すると、石は洋介の時と同じように輝いた。そして、輝きが収まるとやはり石の中に文字が浮かび上がった。


「夏海の使える魔法は重力魔法だ」


「重力魔法……」


「まあ、対象を重くしたり、軽くしたりできる魔法だな。基本的な扱い方だけなら後で教えるから待っていてくれ」


「分かりました」


 武淵先輩は洋介の座っている横に座り込んで仲良さげに精霊と話をしていた。


「次は?」


「僕がやります!」


 寛之のやつは随分と乗り気だ。恐らく、ゲームみたいで楽しいんだろうな。


「寛之の魔法は……」


「魔法は……!」


 寛之は期待を乗せたような声で、瞳も輝かせている。


「……障壁魔法だ」


 それを聞いた途端寛之は膝からドサッと崩れ落ちた。


「そ、そんな……僕だけ攻撃系の魔法じゃないなんて……!」


 恐らく、『超強い魔法で俺TUEEEEEEEEEE!』がしたかったんだろうな。可愛そうに。


「先輩、障壁って事は皆を守れる魔法でしょ?いい魔法じゃないですか!」


「茉由ちゃん……!」


 寛之は女神に救われた罪人みたいな表情を浮かべている。ただ一つ、言いたいことがある。


「寛之、顔から出るもの全部出てて気持ち悪いからとっとと顔洗ってこい」


「……ああ、分かった」


 寛之はそう言って部屋を出て行った。茉由ちゃんに慰めてもらったとはいえ、ショックだったんだろうな。


「ウィルフレッドさん!次は私がやります!」


「おお、茉由か。では、三人がやったようにするんだ」


「はい!」


 茉由ちゃんも寛之たちがやったように石に血を垂らした。やはりというべきか石が輝きを放った。そして、石の中には文字が浮かび上がっていた。


「ウィルフレッドさん、私の魔法は……?」


「茉由ちゃんの魔法は氷属性の魔法剣だ」


「氷属性の魔法剣……!あっ……!」


 茉由ちゃんは突然何かを思い出したように声を上げた。


「茉由ちゃん、どうしたの?」


 すかさず紗希が茉由ちゃんに声をかける。


「私の魔法って攻撃系の魔法ですよね?ウィルフレッドさん」


「そうだが、それがどうかしたのか?」


 茉由ちゃんはそれを聞いて、がっくりと肩を落とした。


「茉由ちゃん……?」


 隣にいる紗希が心配そうに話しかけた。俺には何となくだが茉由ちゃんがが何か分かった。


「茉由ちゃんが気にしてるのってさ、『寛之を差し置いて私が攻撃系魔法になっちゃった……!』ってことか?もしかしてだけど」


 茉由ちゃんは俺の一言でバッと勢いよく顔を上げた。


「そうです!先輩が聞いたらまたショックを受けるんじゃないかって思って!」


「茉由ちゃん。そればっかりは茉由ちゃんが気にしても仕方がない。これは寛之あいつの問題だからな」


「確かにそうですね……」


「よし、それじゃあ、洋介と武淵先輩がいるところで待っててくれ」


 茉由ちゃんはそう言うと、目をキラキラと夜空に浮かぶ星のように輝かせながら洋介たちの方へと向かって行った。


「兄さん、すごいね」


「何がだ?」


「よく茉由ちゃんのこと分かったね!」


「いや、何となく言ってみただけなんだが……」


「それでもすごいよ!」


 何かここまでべた褒めされると照れるな。……おっと大事な事を忘れていた。


「紗希、どっちが先に石に血を垂らす?」


「うーん、それじゃあボクが行くよ!」


「分かった」


 そして、今度は紗希が石に血を垂らした。そして、石が輝いた後に浮かび上がった文字は……!


「敏捷強化魔法だ。紗希の魔法は」


「敏捷強化魔法ってことは素早く動けるようになる感じですか?」


「まあ、そんなところだな」


 紗希はそれを聞くやいなや嬉しそうに俺の元へ走って来た。


「兄さん!敏捷強化魔法だって!」


「良かったな。昔からもっと足が速くなりたいって言ってたもんな」


 そう、紗希はそれこそ小学生の頃からもっと足が速くなりたいと言っていたのだ。まさか異世界で夢が叶うとは思っていなかったが。


「直哉。後はお前だけだ」


「はい」


 俺は皆と同じように石に血を垂らした。しかし、石は光らなかった。皆もその現象に驚いたのか目を見開いていた。


「ウィルフレッドさん、光らないってことは俺には魔法の適性はないってことですか……」


「……そういう事になるな。お前だけ適性がないとはな。残念だったな」


 ……マジか。皆、当たり前のように魔法の適性があったからといって全員が使えるわけじゃないもんな。浮かれていたな。


 早速置いてけぼりをくらっちまったよ。このままじゃ役立たずになることは目に見えている。どうしたらいいんだ……!


「兄さん……」


 俺が頭を抱えてうずくまっているのを見て紗希はなんと声をかければ良いのか分からないと言った様子だ。……ダメだな。妹に心配かけるなんて兄失格だ。それに魔法が使えないというのなら、その分を努力して埋めればいい。そうだ、こんなくよくよしてる暇があるのなら何か出来ることがあるはずだ。それに俺は昨日誓ったばかりじゃないか。


『どんなことがあっても呉宮さんを救い出す』ってな!


 俺が心の中でそう思った瞬間、魔血石が虹色に輝き始めたのだ!


「何だ、これは……!何が起こっているのだ……!」


 ウィルフレッドさんの様子を見るにこの現象は見たことがないと言った様子だ。今までは白っぽい光だったのに虹色に光っている、明らかにこれは異常だ。


 そして、光が静まると、そこには皆の時と同じように文字が浮かび上がっていた。


「直哉の魔法は……いや、これは魔術だ!」


 魔術……?魔法とは何か違うのだろうか?


 ウィルフレッドさんは無言でスタスタと近づいてくる。そして、俺の肩をキツくつかんだ。痛い。


「いいか、直哉。よく聞け、お前の魔術は付加術だ」


「付加術……」


「ウィルフレッドさん、魔法と魔術って何が違うんですか?」


「ああ、魔法と魔術は創り出したモノが違うのだ。魔法は洋介の所にいるような精霊の王である精霊王が創り出したのだ。そして、魔術はそのさらに上、神によって作られたものの事を指す。基本的には常人の想像をはるかに超えるものだと言われている。私が知っている限りでは死者を操る死霊術や時を司る時魔術だな。そして、お前の魔法、付加術だ」


 ウィルフレッドさんが息を継ぐこともなく一息に説明してくれた。そのせいか、ウィルフレッドさんは運動した後の犬のように呼吸を荒げている。


「付加術はどんな魔法なんですか?」


 疲れているところに申し訳ないとは思いながらも俺は質問を重ねた。


「それは、後で、話す。とりあえず、ロベルトの所に行って、使う武器とか、防具を、選んで、来てくれ。私も準備が出来たら呼びに行く」


「わ、分かりました」


 何だか、『訳が分からないよ!』と言いたい気分だが、ここは黙ってロベルトさんの所に行こう。


「そういえば、寛之はまだか?」


「そういえば遅いな。あいつ何やってんだ?」


 俺は洋介に寛之が帰って来たかどうかを尋ねてみたが、どうやら洋介も知らないらしい。


「それより直哉、何かすごいことになってたな!」


「お前すげえYO!」


 何か洋介だけじゃなく精霊にもすごいと言われてしまった。


「洋介の精霊、何か小さくて可愛いな」


「だろ?何か急にペットが出来たみたいな気持ちなんだよな」


 そう言って洋介は肩に乗っている精霊の頭を猫を撫でるように優しく撫でていた。


「武淵先輩、そんな羨ましそうな顔で弥城先輩を見て、どうかしたんですか?」


 紗希が武淵先輩を気遣うように声をかけていた。


「ううん、別に何でもないわよ」


「てっきり、『精霊のくせに洋介に撫でてもらってるなんて許せない……!この泥棒猫め!』とか思ってるのかなと思ったんですけど」


「そ、そそそそんな事思ってないわよ!?」


 武淵先輩は頬を梅干しのように赤くしていた。さては図星だったのだろう。


 ……洋介のやつは幸せ者だな。ホント。

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