第21話 意外な事実

「それじゃあ、下に降りるか」


 日の出を眺めた後、俺たちは下へと降りることにした。


「あら、六人とも揃ってたのね」


 ドアを開けて外に出てみると廊下にはミレーヌさんとラウラさんが横に並んで立っていた。


「はい、これから皆で下に降りようと思っていたところです」


 ミレーヌさんに聞かれたことを一番前にいた俺が答えた。


「そうだったのね。それじゃあ、私たちは先に行ってるわね」


 そう言って、ミレーヌさんとラウラさんが階段を下りて行った。俺たち六人はその後ろに続くように下へと降りた。


「……これは!」


 そう言って寛之は走って階段を降りて行った。


「おい!そんなに走ってこけても知らないからな!」


 俺は階段の上から寛之に大声で注意した。


「……大丈夫だって!階段でこけるなんて年じゃないからな」


 そういった傍から寛之はあと数段という所で階段で足を滑らせて空中で一回転して床にしりもちをついた。


「先輩!」


 俺のすぐ後ろにいた茉由ちゃんが慌てて階段を降りて行った。しかし、茉由ちゃんはさすがにこけることはなく、無事寛之の所へと辿たどり着いた。


 残った俺たち四人は走ることもなく階段を降りた。そして、俺は無事だった寛之に声をかけることにした。


「良かったな、寛之。Anotherなら死んでただろうな。まあ、これに懲りたら階段は走るなよ」


「……あ、ああ。今後は階段を走らないように気を付けるよ」


 こうして一階に下りた俺たちはそれぞれの席についた。それからしばらくするとミレーヌさんがやって来た。


「もう少ししたらラウラが朝食持ってくるから、ここで待っててね」


 ミレーヌさんの一言に俺たち六人は皆一様に頷いた。


「それと朝食を食べ終わったらしてほしいことがあるんだけどいいかな?」


 ミレーヌさんは俺たちに何かやって欲しい事があるらしい。一体何だろうか?


「えっと、何をすれば良いんですか?」


 そう言って紗希が食後に何をするのかを尋ねた。


「……確か、あなた達はこれから友達を探すって言ってたわよね?」


「「「「「「はい」」」」」」


 俺たちの声が重なった。もし、音楽の合唱だったとしてもここまで揃えるのは難しいだろう。


「その子を救うには最低限の武器は所持した方が良いわ」


 それを聞いた俺はゴクリと唾を飲みこんだ。……武器を所持する。ということは戦いになる可能性が少なからずあるという事ではないのか。考えただけで手が震えてくる。


「わざわざ人をさらうような人が武器を持っていないとは考えにくいわ。それにもしかすると、魔法とかも使って来るかもしれないわね」


 俺たちは何も言えず、ただ話をじっと聞いていることしか出来なかった。


 ちなみに、その後のミレーヌさんの話をまとめるとこうだ。


 今までの話を含めて、俺たちも最低限の戦う訓練が必要だという事。武器を所持するには王国軍に入隊するか、冒険者ギルドに入って冒険者になるかの二択だそうだ。


 そして、前者ならば正式な戦闘訓練も受けられるが、その分自由に動く事ができない。すなわち、呉宮さんの消息が掴めたとしても自由に動く事が出来ず、勝手に動けば軍法に則り、何らかの処罰を受けることになる。(ちなみに命令無視ならば、死刑になる可能性もあるらしい。)


 しかし、後者ならば戦闘経験を積みながら、自由に動ける。それを聞いた俺たちは迷うことなく冒険者になることを決めた。


「分かったわ。まあ、これはすでに想定していたから。その上で"食べ終わったらしてほしいこと"があるのよ」


「それは一体?」


 ミレーヌさんは少しだけ間を開けてから言った。


「冒険者登録をしてほしいの。冒険者になるのなら絶対やっておかないといけないことだから」


「えっ!?」


 俺と寛之は計ったかのように驚くタイミングが被った。


 それじゃあ、ここって……!


「『えっ!?』ってここ、冒険者ギルドなんだけど……言ってなかったかしら?」


 ……いや、今初めて聞いたんだけど!


「伝えるのが遅くなってごめんなさい。それで、とりあえず、食事が終わったら冒険者登録をしてほしいんだけど……」


「分かりました」


 俺がみんなを代表して了解した。そして、俺たちとミレーヌさんが待ち望んでいたものがやって来た。


「みんな、朝食の用意ができたわよ」


 ラウラさんが奥から気で編んだ籠を2つ持って来た。何かを焼いたような匂いがする。その香りは空腹の俺たちの胃をくすぐってくるようないい香りだ。


 ラウラさんが俺たちの前のテーブルに籠を置いた。籠の上には布がかぶせてあり、中が見えないようになっている。


「それじゃあ、開けるわよ」


 そう言ってラウラさんが布を取るとそこにはたくさんの手と同じ大きさのパンがあった。


「全部で26個あるから、一人二個ずつ取ってね」


 一人二個ずつ……?ここにいるのは俺と紗希、茉由ちゃん、寛之、洋介、武淵先輩、ミレーヌさん、そしてラウラさんの八人だ。一人二個ずつなら8×2=16になる。ラウラさんは全部で26個と言っていた。それなら10個も余る。その10個はどうするのだろう?


 ラウラさんもミレーヌさんもパンを食している。とりあえず、考えるのは後だ。俺も食べよう。


「……ミレーヌさん、朝ってこれだけなんですか?」


 すでにパン二つを食べ終えた寛之がミレーヌさんに尋ねた。寛之は結構食べる方だからな……あれだけで腹が満たされたとは到底思えない。


「豆のスープならあると思うけど……」


 寛之の魂が抜けたような顔を見て、ミレーヌさんは少し困った様子だ。ミレーヌさんやラウラさんの様子を見るに本当に豆のスープとパンだけのようだ。


「……肉とか、魚は……?」


「そんな贅沢品、私たち庶民が食べられるものじゃないわよ。それこそ貴族とかじゃないと食べられないわよ」


 寛之はそれ以上何も言わなかった。いや、言う気力すら失せたといったところか。そして、静かにスープをすすっていた。


 ちなみにパンは食べられないわけではないが、じゃりじゃりしている上に少々堅かった。今まで俺たちが食っていたパンがどれだけ贅沢な物なのかを異世界に来て思い知らされた。


 そして、豆のスープは温かくておいしかった。これなら正直何杯でも飲むことが出来そうだ。


 その後朝食を食べ終えた俺たちはミレーヌさんの指示のもと、冒険者登録をした。具体的に何をしたのかと言えば、羊皮紙に名前、性別、年齢などといったものを記入した。


「後は、冒険者のランクの説明なんだけど……」


 おおー、冒険者にランクがあるのか。ほんとラノベチックだな。


 ミレーヌさんから冒険者ランクについての説明を受けた。話をまとめるとこうだ。


 ――――――――――


・白金(プラチナ):数多の偉業を成し遂げたものにのみ与えられる称号で現在は二人のみ。


・金(ゴールド):白金には劣るが、かなりの腕利き冒険者に与えられる称号。


・銀(シルバー):金に次ぐ実力者に与えられる称号。銀以上の称号を持つのは全冒険者の上位10%。


・魔鉄(ミスリル):銀に次ぐ冒険者に与えられる称号。ここまでくるとベテラン扱いを受ける。


・鋼(スチール):王国の騎士たちと互角に渡り合える実力。


・鉄(アイロン):王国の兵士よりも強い。辺境だったらこれ位でも十分に強い部類に入る。


・青銅(ブロンズ):一通りの訓練を受けた王国軍の兵士と同じくらいの強さ。


・銅(カッパー):登録したての駆け出しの冒険者に与えられる称号。


 ――――――――――


 俺たちはもちろん「銅」カッパーだ。そして、ミレーヌさんとラウラさんのランクは「鋼」スチールなんだそうだ。正直、二人がそんなに強いとは思わなかった。


「ちなみにお父さんのランクは『白金』プラチナだから」


 そのミレーヌさんの一言を聞いて、俺たち六人の動きが時間が止まったのかと思うほどに固まった。その時のミレーヌさんは何だか誇らしげだった。


 さっきの説明で「白金」のランクは世界に二人しかいないとミレーヌさんは確かにそう言っていた。何とも意外な話だが、ウィルフレッドさんが冒険者の最上位らしい。


 その後、俺たちはミレーヌさんを質問攻めにした。……一番熱心だったのは、洋介と寛之だった。


 洋介と寛之の熱が冷めた後、ミレーヌさんの提案で家を探しに行くことになった。


 何でも現在、紗希たち女性陣三名が使っているあの部屋は本来、訓練場なんだそうだ。(なのでかなり頑丈に作られている)


 なので、ずっとあそこに寝泊まりさせてはおけないのだという。


 まず、二階の部屋は二つが空いているので、そこに誰が入るかという話になった。


「兄さん、ここはじゃんけんで決めようよ」


「俺はいいけど皆はそれでいいか?」


 俺がそう言うと、皆も特に異論は無いようだった。


「よし、それじゃあ、いくぞ。じゃんけん、ほい!」


 ……あいこだ。やっぱり六人同時はきつい。


「二人ずつ分かれてやろう!」


 ……と、洋介の提案で二人ずつに分かれて行った。残ったのは俺と洋介と武淵先輩の三人だ。紗希は俺とじゃんけんをして負けた。やっぱり、言い出しっぺは負けるものなのだろうか。


 そして、俺達三人で最後のじゃんけんをおこなった。結果は洋介と武淵先輩の勝ちだった。


「……直哉、二人の愛の前では無力なんだよ」


「……お、おう」


 寛之が何を言い出すのかと思えば、そんな大したことじゃないな。


「それじゃあ、洋介と夏海は二階の部屋を使ってね。どっちの部屋を使うのか決めながらここで待ってて」


「分かりました!」


 二人は声を揃えて返事をした。


「それじゃあ、後はラウラに任せるから、おとなしくここで待っててね」


 そう言って、ミレーヌさんは何やら羊皮紙を持って地下へと降りて行った。


 それから少しして、グレーのティアードワンピースを着たラウラさんがやって来た。


「ミレーヌはこれから用事があるみたいだから、代わりに私が同行するわ」


「えっと、これからどこに行くんですか?」


 茉由ちゃんが不安そうな面持ちで尋ねた。


「何でも屋よ」


 何でも屋……?一体何だろう?冒険者と何が違うんだ?情報屋的なものであってるのだろうかだろうか?


 そう言った疑問がふつふつと湧いてくる。


「よし、それじゃあ行きましょうか」


 頭の片隅に疑問を残しながら、ワンピースの裾をひらひらとなびかせながらギルドを出ていくラウラさんに続いて俺たちはギルドの外に出た。


「おおー!」


 俺達は外に出た途端に感嘆の声をあげた。


 外は石造りの建物が並び、石畳が敷かれている。そして、町を囲む石造りの巨大な城壁に目を奪われた。外は町ゆく人で雑踏していた。


 俺たちはそんな町行く人々で賑わっている通りを抜けていった。


「ここよ」


 ラウラさんが立ち止まった場所、それが何でも屋だった。見た所、普通の石造りの建物で看板すら出ていないので全く気付かなかった。


「それじゃあ、入るわよ」


 そう言ってラウラさんが木製のドアを開けて店の中に入って行った。慌てて俺たちも後に続いた。


「いらっしゃいませー……って姉さん!?」


「久しぶりね、ミロシュ」


 何だ何だ!?知り合いなのか!?姉さんってことは姉弟なのだろうか?


 俺は紗希たちの方をチラッと見てみたが、みんなも状況が読み込めていないようだった。


「ミロシュは私の弟なのよ」


「どうも」


 そう言って、ミロシュさんはラウラさんの横でペコリと頭を下げた。


 詳しく話を聞いてみると、ミロシュさんもラウラさんと同じように冒険者をしていたんだそうだ。けど、が原因で冒険者をやめたんだそうだ。


 しかし、についてはミロシュさんも何も言わなかった。ラウラさんも同じように口を一文字に結んで話そうとしなかった。


 少なからず、今は触れるべきではないだろうことは明らかだった。


「何だかごめんなさいね。住むところを探さないといけないのよね」


 ラウラさんは重く沈んだ空気を換えようと本題に戻した。


「ミロシュ、何か宿の部屋とか空いてたりするのかしら?」


 ラウラさんがミロシュさんに質問をすると、ミロシュさんは間髪入れずに答えてくれた。


「えっと、この近くの宿に空きが出たって。まあ、今朝聞いたばかりなんだけど……」


「ああー、あの宿ならいいかもしれないわね」


 どうやらラウラさんにはどこの宿なのか分かったようだが、俺たちには全く分からない。二人でどんどん会話のキャッチボールは進んでいく。


「で、空いてる部屋の数は?」


「一部屋だけだってさ。でも、四人いるんだろ?」


「そうね……それじゃあ、残りの三人の住む場所の候補としてよさげなところ選んでおいてくれるかしら。私はその間にみんなを連れてあの宿に行ってくるから、それまでにお願いするわね」


 ラウラさんはミロシュさんにそう告げるや否や紗希と茉由ちゃんの腕を引っ張って行ってしまった。


「ホント、姉さんは強引なんだよなあ……こっちの都合なんて全く考えてないし。こっちは他にも仕事があるのに……!」


 ミロシュさんはブツブツとラウラさんへの不満を呟いていた。


 俺と寛之も気まずい空気から逃げるようにそっと店の外に出た。そして、雑踏の中をグイグイ進んでいくラウラさんの姿を見つけて後を追った。

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