22.イリーナが嫁になりたそうにこちらを見つめているぞ?
「魔法が効かない……そんなことがあるなんて、さすが主様ですっ!」
なぜかキラキラした目でイリーナが俺のことを見つめて来た。というか、なんで俺、そんなチート性能持ってんだろう。魔法が効かないってある意味で最強だよな。だけどそれが悪影響を及ぼしているわけなんだけど。
「というかのじゃロリ、俺が魔法無効な体質だったのを知ってたんならさっさと教えてくれればいいのに」
『じゃって……聞かれなかったし…………』
こいつ後でぼこぼこにしてやろうか。
まあ今は置いておいてやろう、タイミングに感謝するんだな。
『おお、なんか寒気がするのじゃ、諸刃ー、温めてなのじゃー』
ロリ声でそんなこと言われると、なぜか犯罪臭しかしない俺は、ちょっと頭がどうかしているらしい。
俺は無言でのじゃロリを捨てた。気が付くと俺の手元に戻ってくる。ちょっとした呪いの刀みたいだ。
『のじゃああああああ、捨てるとは何ことかーーーー』
うるさいのじゃロリは放っておくとして、現状をもう一度見直そう。現状は、イリーナ率いるゴブリンが俺の配下に加わりたそうにしている。ゴブリンをこんなに面倒を見切れない。イリーナには亜空間魔法という便利な魔法を使え、それは他者に継承することが出来る。けど、俺は魔法無効化体質っぽいから継承することは出来ないと。ふむ、なるほど。
適当なことを考えながら俺はイリーナのことをじろじろと見つめた。見つめられていることに気が付いたイリーナは、なんだか恥ずかしそうに俯く。こうやって見ると、なんだか人間らしいところがあるな。
というか、イリーナだけ、見た目人間と差異がない。肌の色も同じだ。でも一応ゴブリン。ゴブリンって小鬼だよな。もしかして……。
イリーナに近づいて頭を撫でる。イリーナは「ひゃうい」というよく分からない声を出した。
『変態がいるのじゃ。女の子を突然べたべた触ってくる真正の変態さんがここにいるのじゃ……』
のじゃロリが何か言ってくるが、俺は全てを無視した。こいつ、ただのかまってちゃんだだろう? どう見たら俺が変態さんに……。
自分の行動を思い返してみると、確かに変態さんっぽかった。
この際変態扱いされるのは我慢しよう。
イリーナの頭を触って確かめると、頭に二つの突起があった。それに触れるとイリーナから、ちょっと卑猥に聞こえてしまう声が漏れた気がした。
恐る恐るイリーナの顔を見ると、息が荒く、顔を赤らめていて、そんでもってなんだか目がとろんとしていた。俺、何かやっちまっただろうか。
「イリーナ、大丈夫か?」
「い、いえ、主様なら大丈夫です。ですがゴブリンの角には触らないでください。ゴブリンはロイヤルナイツクラスになると、見た目が人と同じになり、小さな角が生えます」
何そのかっこいいクラス。ロイヤルナイツ、きっと飛鳥の中二心をくすぐってくれるに違いない。というか、ゴブリンのクラスっていったい何だろう。ゲームで言う色の違うモンスター的な立ち位置だろうか?
「角はとても敏感なところで、将来を誓った相手以外には触らせないのが普通なのですが、あ、主様が望むのなら、私は全然いいですよ?」
「いや待て、ゴメン、知らなかったんだ。ただ、俺には亜空間魔法? を継承できなかっただろう。だからほかのゴブリンはゴブリン帝国に待機してもらい、亜空間魔法を使えるイリーナが俺のそばにいてくれれば解決かなって思って。でも下手に人と違うところがあったら……」
「わ、私をそばに…………っぽ」
何か変な方向に勘違いしている気がする。
気が付けば周りのゴブリンたちが拍手を送っていた。結婚おめでとうとかいうのやめような。俺はまだ独り身でいたい。俺は料理人になるんだ。その夢をかなえるまで所帯を持つ気はない。それに…………リセのこともあるしな!
そんな俺の気持ちを知らずか、周りのゴブリンたちは盛り上がっていく。特にイリーナが完全に暴走状態の危ない女に見えた。どうしよう、とても怖い。
得体のしれない恐怖におびえていると、のじゃロリが馬鹿にしてきた。むかついたが反論ができないのでちょっと悔しい。こいついつか懲らしめる。
イリーナは亜空間の入り口を開いてゴブリンたちに命令する。
「私は主様のおそばにいます。あなたたちは帝国に戻り、支持があるまで待機していなさい。私、頑張ります、主様のおそばに、絶対に善き嫁になって見せます」
ゴブリンたちから「その意気ですぞー」とか「姫様はかわいいので大丈夫ですよっ」なんて声が聞こえて来た。
…………あれ、俺、なんでゴブリンの声が聞こえるようになってんだ?
のじゃロリが隣で『儂のおかげなのじゃ』とか言っているが、何か関係があるのだろうか……。まあいい。
それよりも、周りのゴブリンの言葉を聞くたびに俺の何かがこう、がりがりと削られているような気がする。
亜空間の中に入るゴブリンたち。開いた入り口にすべてのゴブリンたちが入ると、その入り口はゆっくりと閉じられた。
イリーナは魔法のような何かを使うと、俺と似たような服装に変わる。その姿はどっからどう見ても人間だった。
「これ、人里に仕入れに行くときに使う衣装なんです。その、変でしょうか?」
「べ、別に変という訳ではないんだが……」
生地が小さい。なんというか、イリーナのサイズに服が合ってないのか、ちょっときつそうだった。そのせいでなんというか、直視しにくい。俺はゆっくりと視線を逸らす。
「よかったです。これで主様のおそばにいれますね」
戻ったらイリーナに服を買ってやろう。なんでかな、俺はそう思って手持ちのお金を確認した。
◇
俺はイリーナを連れてリセのところに向かった。今頃さっぱりした後で、食事を堪能しているに違いない。あいつ、一人でも人生楽しめそうだな。羨ましい。
「諸刃、お帰り…………誰、その女」
笑顔で食事をしていたリセの表情が一転、一気に真顔になった。正直言ってとても怖い。なんか修羅場に足を踏み入れたような、そんな気がする。
俺の服をクイッと引っ張られたので後ろを向くと、イリーナからはハイライトのないような、死んだ魚のような目でじっとこちらを見つめていた。怖い、怖すぎる。
「主様……あの女は誰ですか」
修羅場の予感がする。
二人の女に詰め寄られて、男だったらうれしいシチュエーションだと思うのだが……。修羅場は遠慮したいところだ。マジで。
イリーナとリセが近づき、互いににらみ合う。二人とも威嚇しているようだ。
二人の背後に龍とハムスターが見える……気がする。なぜにハムスターなのかは分からないが。
「あなたは主様の何ですか。私は将来の嫁、イリーナです」
「お前こそ諸刃の何なのよ。将来の嫁? っぷ、笑わせないでしょ。私は女神よ! 諸刃の女神!」
「自称女神……っふ。そっちこそ笑わせないでくださいよ」
「何よ、そっちだって自称嫁の癖に生意気な!」
争いがヒートアップしていく。俺はそっと他人のふりをしようとした。
「諸刃は私が養うんだから! 私の諸刃なんだから取らないでよっ!」
「私の主様よ。私が全ての生活を支えるわ! だから邪魔しないで。私の主様を取らないで!」
二人は何をトチ狂ったのか、俺のそばから離れようとしない。ちらちらこちらの反応を伺っているように見える。怖い。
この無駄な争いが続いたせいで俺たちの周りから人が離れてい行く。それどころか変な噂が広がっているような気がした。
ほんと、一体どうしてこうなった……。
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