13.種類あっても中身同じならどれも一緒ってことだよね

「ゴブリンしかない……」


 俺とリセはクエストボードの前に立ち、表示されている依頼を眺めていた。数ある依頼を眺めているのだが、内容はどれもゴブリン退治ばかり。

 ゴブリンってあれだよな。雌ゴブリンの水浴びを覗いちゃう的なことをする頭の残念な奴だよな。俺があの時の出来事を思い出していると、腰あたりから変な笑い声が聞こえて来た。


『っぷ、むっつり諸刃っ! そんなに雌ゴブリンが良かったのかっ。ぷぎゃあああ、人間じゃなくてゴブリンに発情するとか、すごく笑えるのじゃぁ』


「てめぇ、いつの間に戻ってきやがった。まあそれはどうでもいいが……」


『なんじゃなんじゃ、儂が戻って来てうれしいのかのう。のじゃのじゃ、もっと儂を甘やかすのじゃ』


「もう一度生ごみに突っ込んでやろうか」


『全力で謝るのでそれだけはマジ勘弁してほしいのじゃ』


 ったく、そういうなら最初っからやるなって感じだよな。うざったいが切れ味のいい包丁……じゃなくて刀に対して「はぁ」と大きなため息をはいた後、再びクエストボードを見た。


 そこに張り出されているクエストの内容は……。


 コノ村に出現するゴブリンの討伐。

 ウワキ村に出現するゴブリンの討伐。

 モノ村に出現するゴブリンの討伐。

 ゼッタ村に出現するゴブリンの討伐

 イニ村に出現する露出狂の犯罪予告。

 コンヤ村に出現するニートの労働教育。

 クハキ村に出現するソラマメっておいしいよね。

 シテヤルンダカラ村に出現するゴブリンの討伐。


 依頼の一部を確認してもゴブリン退治しかない。ちょっとツッコミたいクエストが三つほどあるんだけど。一番気になるのは露出狂の犯罪予告かな。これが一番意味わかんねぇ。え、露出狂に犯罪予告出すの、見ず知らずの冒険者が? いったいどういった内容なのだろうか。ちょっとだけ覗いてみた。


 そしてあまりの内容に戦慄する。

 まさか、露出狂が犯罪予告を出したいけど、文章を書けないから代わりに書いてくれって依頼だとは……。依頼主露出狂だし、冒険者にたいしてなんちゅう依頼を出してるんだよ。

 えっと何々、犯罪予告の内容は女性がキュンと来る内容でお願いします? 完全にラブレターじゃねぇか! 代わりの人に書かせるなっ!


「わぁ、今週の村の名前は、この浮気者、絶対に婚約破棄してやるんだから、なんだね」


「は? 何を言って……」


 もう一度村の名前を見直すと……本当にそうなっていた。


「え、何このふざけた名前」


「あれ、諸刃知らないの。村の名前はね、一週間に一度変わるの。ユニークさを求めてね、村の名前を繋げると何かしらの文章になるんだよ。一種の頭の体操になるね!」


「まて、一週間に一度村の名前変わったらいろいろと大変だろ」


「大丈夫大丈夫、皆それで困ったことないから。困ったら新しい決まりができるだけだよ」


 そんなんでいいのか、この世界……。


『諸刃っ、一つ気になるクエストがあるのじゃが』


「あ、なんだのじゃロリ。てめぇに喋る権利はない」


『なんか儂にだけ冷たくないかっ。もっと優しくしてほしいのじゃ』


「んで、なんか面白いクエストあったのかよ」


『おお聞いてくれるのか。うれしいのじゃ、うれしいのじゃ。儂はアレがオススメじゃ。ニートの労働教育』


 どれどれ。俺はのじゃロリが言ったクエストを見る。内容は最近ゴブリンが増えてきているので戦える戦力が欲しい。村には働いたら負けというニートがたくさんいるので、鍛え上げてほしい。ふむふむ、なるほど。

 もう少しよく見ると、隅っこの方に小さく『殺しは10人までOK。それぐらい厳しくやっちゃって』と書いてあった。


「てめぇ、なんてものやらせようとしてやがる」


『別にいいじゃろう。ニートの教育じゃっ。な、リセもそうおもうじゃろっ』


「ニートは嫌っ! ニートって変態ばっかで体じろじろ見てくるから気持ち悪いっ! じろじろ見るのは画面の中だけにしてっ」


 それはニートに偏見持ちすぎだろうと思ったけど、絶対にいないとも言えないので反論できない。まあニートじゃなくてもリセクラスの美人だとじろじろ見てくるゲスって多そうだよな。見た目に反して中身は残念だけど。


「じゃあリセはどのクエストがいい?」


「私はこれがいいと思うの。最高のクエストだわ」


 そう言って俺に持ってきたクエスト用紙に書かれていたのは、『クハキ村に出現するソラマメっておいしいよね』というクエストだった。いや、まともなの持って来いよって感じになる。


 えっと、なになに、クハキ村の名産ソラマメを使った新しい特産品を作成しています。その試食会を実施する予定なのでぜひって……これ冒険者に依頼する内容じゃないよな。

 村の中で試食会を行えばいいんじゃねぇ。


「いやー、この村の人は良く考えているよ」


「え、何が」


「冒険者の舌を満足させられる料理は売れるからね。村だけでやる試食会より最高よ」


「え、だから何で?」


「だって、冒険者は魔物討伐の為にいろんな村や町に行くでしょう? んで、泊りで村に行ったときは大抵おいしいものを食べるのよ。そうやって冒険者の舌は肥えていくの」


「いや、それじゃあ野宿で干し肉とか食えなくなるだろう……」


「んじゃあ、はいこれ。そこで売っている非常食用の干し肉」


 リセに渡された干し肉。こいつなんでこんなもの持ってんだろうとも思ったが、それはとりあえず置いておく。受け取った干し肉は、食欲のそそるいい匂いがした。自然と口の中で涎があふれ出てくる。かぶりつくと、口の中いっぱいにジューシーな味わいが広がった。


「う、うめぇ」


「でしょ。基本的に冒険者はおいしいものに食べなれているのよ。そしてなかったら勝手に作るわ」


 冒険者ってすげぇなって今初めて思った。

 要はバイトかフリーターのような奴が、こんな商品が欲しいと商品開発して売り出してなんてこともしているってことだろう。

 それが上手くいけばギルドで売り出して……。ギルドがっぽがぽじゃん。俺、外に冒険するんじゃなくてそっちで儲けようかな。


『なんか馬鹿なことを考えている気がするのう』


「いやなに、お前を包丁の代わりに使って商売で生きていこうかと」


『のじゃあああっ! 儂は鬼を狩るための刀じゃっ、断じて包丁じゃないのじゃ。謝るのじゃ』


 いや、お前を刀として使うより、包丁として使ったほうが多いぞ。


「そんなくだらないことは置いておくとして」


『おいておくなっ! なのじゃ』


「とりあえずクエスト受けようぜ。生活費がやばいんだ。すぐにでも金が欲しい」


「え、私が養うよ。ゆっくり働こうよ」


 またリセのやつは、俺を堕落させようとしてきやがる。此畜生……。

 まあいいと、リセの言葉を聞かなかったことにして、俺は一枚のクエスト用紙を掴んだ。


「とりあえず、コノ村のゴブリン退治に行こうぜ。地図を見る限り、この村が一番近い。試しに行くにはちょうどいい距離なんじゃないか?」


『はぁ、別にそれでいいのじゃ』


「私はなんだっていいよ。別にクエストに行かなくてもいいんだからね」


 なんかめんどくさくなって適当に返答されたような気がするのだが……まあ気のせいだろう。

 リセはまだクエストに行くな的なことを口走っているが、いちいち気にしていても仕方ない。


「じゃあこのクエストを受けるってことで」


 そう言うと、なぜかのじゃロリが不貞腐れた。なんでかと思って聞いてみたら、『小鬼程度に儂を使うなんて……』という意味の分からないプライドだったのでゴミ箱に突っ込んでおいた。大丈夫、今回は燃えるゴミだ。

 のじゃロリのたわごとはどうでもよくて……。とりあえず、初クエストがんばろ。

 これ達成できないと……宿代がやべぇからなっ!

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