稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました
日向 葵
稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった
1.稼業が嫌で逃げたら異世界転移に巻き込まれました
「諸刃っ! いい加減諦めて、家業を継げっ!」
いかにも頑固そうな俺のじっちゃんが声を荒げて「家業を継げ」と口うるさく言ってきた。俺はイヤイヤじっちゃんの方を向き、舌打ちをした後反論する。
「うるせぇ爺っ! 俺は家業を継がないって言ってんだろう。もう俺はあんなことやめるんだ。俺は、料理人になるっ!」
「アホ抜かせっ。お前は自分の才能を分かっておらん。なぜ、なぜそれが分からないんだ。ついこの前までは……」
じっちゃんがこの前のことを口に出しそうになった瞬間、俺はその言葉にかぶせるように言った。
「ごめん、その話はやめてくれ」
「ぬぅ、すまん」
「別にじっちゃんを責めているわけじゃないよ。あの時に区切りがついたんだ。だから俺は、鬼狩りをやめる」
俺の家は代々鬼狩りをしている。平和な世界で鬼のような空想の生物がいるかと、馬鹿にされそうだが、鬼は実在する。闇に紛れ、虎視眈々と人の世を狙っているのだ。
そんな危険生物を狩る専門職、それが鬼狩りだ。俺も一時期、じっちゃんの教えを受けて鬼を狩っていた時期がある。
でもこの前、俺は鬼狩りとしての目的を達成してしまった。別に人々の平和を守るなんてたいそうな目的を掲げていない。ただ、私的な目的でとある鬼を追って、ようやく狩ることが出来た。ただ、それだけだ。俺はもう鬼狩りとして生きる理由はない。だから、昔から叶えたかった料理人になるという夢を目指すだけ。
「だが、お前には埋もれさせるにはもったいない才能があるんだ。このままやめさせるわけには」
「じゃあ少し考える時間をくれ、じゃ、そういうことでっ」
俺はとっさに逃げ出した。じっちゃんも、無理やり押さえつければ俺のことなんて簡単に捕まえられるだろうに。きっと内情をある程度分かっているからだろう。
「待たんかっ! 諸刃ぁぁぁぁぁぁっ!」
まあそれでも、俺を鬼狩りにしたいらしく、じっちゃんは叫んだ。
俺はそんなじっちゃんの叫び声を無視して逃げ出した。
家を出ると、幼馴染の飛鳥の姿が見えた。 俺の家は、鬼狩りとは別に、剣術道場の経営もしている。飛鳥は門下生だ。道場から出て来たということは稽古が終わってこれから帰るということなんだろう。
俺は小走りして飛鳥の元に駆け寄り、「よっ」と声をかける。
「あれ、諸刃?」
「おう、今帰り?」
「今帰り? じゃないわよ、馬鹿っ。今日も練習サボったでしょう。なんで最近来ないのよ」
俺は鬼狩りということを隠し、実家の剣術道場の門下生の一人ということになっている。鬼狩りなんて中二病っぽいこと、誰も信じてくれないしな。飛鳥とは幼い時から一緒にこの道場で訓練してきたのだが、最近俺はサボり気味。言われてしまうのは仕方のないことだと受け入れた。だけど、受け入れたのと反論するのは別だから。
「いいだろ別に。俺にはやりたいことがあるんだよ」
「なによ。私との剣術の訓練以外に何がやりたいっていうのよ」
「俺、料理人になりたいんだっ! という訳で、これからお前の家に行っていいか?」
「あんたが何になりたいかなんてどうだっていいんだけどさ、おじいさんと話した方がいいんじゃないの。今日も寂しがってたけど。まだお父さんとお母さんは店の仕込み中だから、今から行けば教えてくれるんじゃない?」
「おう、じゃあ一緒に行くか」
「べ、別に好きにすればいいんじゃないかしら」
こいつ、たまにツンツンするんだよな。なんでなんだろう。まあ、俺も飛鳥と一緒にいるのは楽しいから別にどうだっていいんだけどな。俺たちは、料理の話をしながら、飛鳥の家までの道を歩く。こいつの家はそこそこ有名な料理屋で、俺もよく通っている。凄くおいしいんだよな。
こうやって飛鳥と歩いていると、改めて、この日常が素晴らしいかを感じられる。以前まで鬼と戦っていたのだが、正直非現実的すぎてなんというか、まるで漫画の中のような世界にいるようだった。内容はもっと悲惨だけどな。
俺はあんな世界には戻らない。平和な日常を謳歌するんだ。この瞬間まで、俺はそれを疑わなかった。これからずっと、平和な日常が続いていくと思っていた。
「きゃ、なにこれっ」
飛鳥の声が聞こえたと同時に足元に現れた幾何学模様の魔法陣。これは、今まで見たことないタイプだ。呪法という魔法のようなものを使う鬼もいるが、こんな、まるでRPGのような魔法陣を出す奴なんていなかった。分けの分からない現象に、俺の頭が混乱する。なのに飛鳥と来たら……。
「ねえ諸刃、コレ、魔法陣。ももも、もしかして、異世界に転生とかされちゃう系! 私、勇者になっちゃう系っ!」
「ちょ、落ち着け、マジで落ち着いてくれっ」
飛鳥はテンションアゲアゲだった。そういやこいつ、ライトノベル、特に異世界に転移する系の作品が大好きだったな。後悪役令嬢系。いくつか俺も「読め」と無理やり渡されたことがあるのだが、うむ、確かにあの手のほんと同一の現象が起こっている。
「ラノベだと、魔法陣が現れて一瞬で異世界行きのイメージがあるんだけど、割と時間がかかるんだな」
俺は素直な感想を述べる。魔法陣が現れてから数十秒経過しているのだが、全く消える気配はないし、異世界に行く気配すらない。ただ魔法陣が浮かんでいるだけだ。
「………………もしかして、私、一人ではしゃいじゃった系? これ、本当は何かのドッキリでした系?」
「いやいや、こんな魔法陣ドッキリ、CGでもつかわなきゃ誰も出来ないよ」
「ほ、本当に? ラノベ展開だと、魔法陣が現れると同時に転移が始まって、王様の目の前で勇者になれーって強要されるんだけど……」
「いやいやいや、ラノベじゃあるまいし。というか強要されてうれしいのかよ」
「私的には、かなりうれしいよっ!」
ちょっと興奮気味に言う飛鳥に苦笑する。こいつ、本当にこの手のラノベが好きだな。もしかして、剣術やってるのもその影響かと疑いたくなる。
そろそろ魔法陣が出現してから1分が経過しようとしていた。うん、本当に動かない。このまま魔法陣の外に出て、飛鳥の家に行ってしまうのもいいかもしれない。動かない魔法陣をいつまでも待ち続ける意味なんてないからな。
「そろそろ行くか? これ待っていても仕方ないぞ」
「ま、待って、もうちょっとだけ」
飛鳥は何かすごく期待しているような瞳で俺を見てきやがった。こいつ、こういうときだけ我儘になるよな。まあ仕方がない。付き合ってやるか、そう思った時に変化が現れた。
『スキャン完了。エラー。不純物を確認しました。不純物を弾き飛ばして、対象のみ転移を実行します』
謎の声が急に聞こえて来たと思ったら、おなかに強い衝撃が加わり、魔法陣からはじき出された。そして信じられない光景を目の当たりにする。
俺が魔法陣の外に出た瞬間、今まで見えていた景色が全て消え、真っ暗な空間に放り出された。そして感じる浮遊感。徐々に下に落下するような感覚。
「諸刃っ!」
飛鳥は手を伸ばすが、魔法陣によってはじかれてしまった。俺は、悲しそうな表情をしながらこちらを見る飛鳥に向かって言ってやった。
「おれ、お前と友達になれてよかったよ、じゃあな」
「こんな時に何言ってんのよばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
飛鳥の鳴き声交じりの叫びを聞きながら、俺は真っ暗な闇の底に落ちていった。稼業が嫌で家を飛び出したのに、この展開。俺はいったいどうなるんだろうか。異世界、楽しいところだといいな。
そんな現実逃避をしながら、俺は真っ暗な空間を落下し続けた。続けたんだが、いつまでたってもそこに着かない。コレ、どういう状況。なんか、この落下する感じが心地よくなってきた。よし、寝るかっ。
いつまでたってもそこにたどり着かず、ずっと落下し続けるという展開に、俺は考えるのをやめた。
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