第96話 違和感
ユウヤは黒い壁のように自分の周りを回り続ける黒い球を斬撃で迎撃していた。
黒い球はイザナミの神としての力、死の力の塊であり触れたものに死を与える力であるため、膨大な魔力を持ち魔法に対して高い防御力を持つユウヤでさえまともに当たればただでは済まない。
「いい加減、迎撃だけだと厳しいか……」
ユウヤは少しずつ迎撃しきれずに躱す必要がある黒い球の数が増えたことに苦い顔をして呟いた。
(上手くいくか分からないが、このままだと死ぬだけだし賭けてみるか)
このままだと何も出来ずに死ぬだけだと理解したユウヤは身体強化に回している魔力を体が耐えられる限界まで増やした。
身体強化の魔力が十数倍に増えたユウヤは体に纏わせた三割以外を頭に集中させて思考力を上げた。
思考力が格段に上がったことにより、先ほどまで迎撃するのでやっとだった黒い球がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
(これならいけるな)
ユウヤは先ほどまでに迎撃に飛ばしていた斬撃を一点ではなく広範囲に広げるイメージで黒い球の迎撃を再開した。
圧倒的な身体能力により迫って来る黒い球を簡単に迎撃できるようになったユウヤの斬撃は迫って来た黒い球を吹き飛ばした後、ユウヤを囲んで逃がさないようにしている大量の黒い球の壁も少しずつ吹き飛ばし始めた。
斬撃も最初こそ上手くいかなかったが、次第に斬撃の範囲が広がり斬撃としての威力は落ちたが、強大な力に任せた風圧で黒い球をすべて吹き飛ばした。
「……」
大量の黒い球を吹き飛ばされたイザナミは驚きと呆れの混ざった表情でユウヤを黙って見つめた。
ユウヤも黒い球をすべて吹き飛ばしたことを確認して身体強化の魔力をすぐに落とした。
(流石に全力で身体強化すると、まともに剣技を続けるのは出来ないか)
圧倒的な身体能力を扱いきれず、まともに剣技を続けられなかったユウヤはたった数秒の間に二、三回剣技をやり直していた。
「思っていた以上に無茶苦茶な力ね」
「まともに制御は出来ないが、辺り一帯を吹き飛ばすだけなら制御は考えなくてもいいしな」
「なるほど、いつも力を抑えてたのね」
ユウヤの言葉にイザナミは納得して呆れたような顔で小さくため息をついた。
「小さい攻撃も大きい攻撃も力任せに吹き飛ばされるわけね」
「力任せの攻撃だとイザナミには通じない」
「「なら、接近戦で倒すしかない」」
ユウヤとイザナミは同時に呟くと、二人とも少し微笑みながら刀を構え同時に距離を詰めた。
二人はまた最初と同じように剣技と舞で刀を振るい始め、刀同士がぶつかる音だけが辺りに響き続けた。
二人は少しの間刀をぶつけ合ったが、イザナミが少し微笑み刀に黒い靄を纏わせたことによりユウヤはイザナミの刀を避けてイザナミから距離をとった。
イザナミは距離をとったユウヤに面白そうに微笑み挑発するようにわざとらしく話しかけてきた。
「どうしたの?接近戦で決着をつけるんじゃなかったの?」
「そのつもりだが……」
「こないならこっちから行くわよ」
イザナミはユウヤとの距離を詰めて舞を舞い始め、ユウヤは黒い靄を纏ったイザナミの刀を躱しながら剣技を始めたが、イザナミもユウヤの刀を躱してユウヤに斬りかかった。
ユウヤはイザナミが距離を詰めるまでの間に、身体強化とは別で頭に流していた魔力量を増やし思考力を上げることでイザナミの刀を正確に捉えて躱しながら剣技により攻撃を仕掛け続けた。
お互いに刀を避け刀を振るう時間がかなりの時間が続いたが、思考力を上げている分ユウヤが少し有利になり、ユウヤの振るった刀をまとに避けれなかったイザナミは舞を中断して無理矢理に刀を避けて距離を取った。
「今のは少し危なかったわ」
「……」
ユウヤは距離を取ったイザナミの言葉が頭に入って来ないほど、違うことが気になっていた。
(なんでだ?どうしてあんな動きを……)
ユウヤはイザナミが舞を中断してまで避けた理由が分からなかった。
イザナミの取ったその行動が思考力を上げたユウヤの頭の中で様々なことを考えさせ集中力を奪い、ある可能性に至った。
「何か、気になることでもなるの?」
少し大きめの声で問いかけてきたイザナミの声により余計な考えを振り払い刀を構え直した。
「特に何もないさ」
余計な考えを振り払っても考え付いた可能性が、先ほどまでのイザナミの行動に対する違和感に気づかせる。
ユウヤは違和感を振り払い、「イザナミを倒せ」と自分に言い聞かせ、イザナミに斬りかかる。
イザナミはユウヤの刀を避け、黒い靄を纏った刀でユウヤに斬りかかる。
二人はまたお互いの刀を避ける時間が続いたが、ユウヤの動きは時間が経つにつれて違和感により集中力が落ち動きが悪くなっていった。
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