第90話 ユウヤの不安

 すべての出店を回り終え、買ったものを食べ終わったユウヤとイザナミは星空を見ながら休憩していた。

 ユウヤは星空を見ながら先ほどイザナミと話した普通の子供として生まれていたらということを考え、嫌な考えに行きつき暗い顔をした。


「どうしたの?」


 イザナミはユウヤの雰囲気が暗くなったことに気づき、暗い顔で星空を見るユウヤの横顔を見ながら問いかけた。

 ユウヤは突然の問いかけに少し驚き、イザナミに問い返した。


「どうしたって何がだ?」

「暗い顔してたから、何か嫌なことでも思い出したのかと思って」

「ああ、顔に出てたのか」


 イザナミの言葉に問いかけられた理由に納得し、先ほどの嫌な考えを話した。


「さっき今の生活は辛いこともあるけど満足してるって言っただろ」

「ええ、言ってたわね」

「俺は今の俺に満足してるけど、周りはどうなのかなって思ってな」

「……なるほどね」


 イザナミはユウヤが何を言いたいのか察し、少し目を細めてどう励ますべきか考え始めた。

 イザナミは励まし方を考えながらもユウヤの話の続きを聞いた。


「こんな体質で生まれたせいで、病気の母さんに迷惑をかけた」

「本人は迷惑と思ってないんじゃない?」

「だろうな。けど、俺が生まれたばかりの頃、俺が制御出来ない魔力を母さんが代わりに制御してたんだ。母さんやレティシアは隠してるけど、それが母さんの寿命を削ったことは何となくわかってた」

「だから、恩返しに秘薬を探しに旅に出たの?」


 イザナミの問いにユウヤは首を横に振って否定した。


「確かに恩返しになるかもしれないけど、俺はただ病気を治してあげたかっただけだ」

「そう」


 イザナミはいつもの優しい微笑みを浮かべてユウヤの話を真剣に聞いていた。


「母さん以外にも、いろんな人に迷惑をかけてきた。力の制御が出来なかった頃は感情を抑えないとまともにものも触れなかった」

「今は力を制御出来るようになったんでしょ。迷惑かけた分はしっかりと返せばいいじゃない」


 ユウヤの思いに対してイザナミは丁寧に優しい口調で返していった。


「確かに力は制御出来るようになった。けど、制御できる魔力を増やすことに一つだけどうしても消せない不安がある」

「不安?」


 星空を見ていたユウヤは視線を落として地面を見て今まで以上に暗い顔で続けた。


「一度だけ、怒りで魔力生成量を一瞬だけ全開にしたことがある。その時は師匠が止めてくれたし、怒りも多少は抑えられてたからなんとかなった」

「感情を抑えられなくなるのが怖い?」

「ああ、子供のころから感情を抑えることが当たり前で、抑えきれないほど感情が動いたことなんてそれまでなかったんだ」


 ユウヤは額に手を当てて初めてデザストルと遭遇した時、レティシアを殺されかけたことによる怒りを思い出しながら話した。

 そんなユウヤの頭に手を置いたイザナミは優しく撫で始めた。


「大丈夫よ。もし、次に感情を抑えられなくなったら私が助けてあげるから」

「!?」


 イザナミのその言葉を聞いてユウヤは驚き目を見開いてイザナミの顔を見た。


「だから、どうしても抑えられなくなったら、我慢しないで全力で暴れて発散しなさい。その後のことは私が何とかするから」

「……は、はは」


 最初イザナミが何を言っているのか理解できなかったユウヤは、イザナミの言葉を理解して引きつった顔で乾いた笑い声を出した。


「本気で言ってるのか?」

「ええ、私も仲間にしてくれるんでしょ。なら、それくらいの仕事はするわよ」

「いや、そういうことじゃなくて」

「分かってるわ」


 イザナミはユウヤの話を遮ってユウヤから視線を外し満月を見ながら続けた。


「ユウヤが暴れればどうなるかなんて分かってる。けど、いつも頑張って我慢してるんだから、たまには全力で発散してもいいと私は思うのよ」

「……本当に全力で暴れていいのか?」


 優しく微笑むイザナミの横顔を見ながらユウヤは真剣な顔で問いかけた。

 イザナミはその問いに満月からユウヤに視線を移して返した。


「ええ、いいわよ。けど、本当に抑えられなくなった時だけよ」

「ああ、分かった」


 イザナミの言葉を聞いてユウヤは微笑み頷きながら返した。


「じゃあ、そろそろ舞を見に行きましょうか」

「そうだな」


 ユウヤとイザナミは奉納の舞が行われる演舞場に向かった。

 二人が演舞場について少しすると真剣をもった優奈が演舞場に出て来た。

 ユウヤから見て優奈は緊張のせいで表情が硬いが、舞は問題なく舞えているように見えた。


「緊張してたからどうなるかと思ったけど、問題はなさそうね」


 イザナミから見てもユウヤと同じように問題はないようだ。


「ただ、足の向きや刀の角度なんかの細かいところはまだ出来てないわね」


 ユウヤはイザナミの言葉を聞いて優奈の刀へ意識を向けると、イザナミの言う通り去年のイザナミの舞と多少角度が異なっていた。


「今回が初めてなんだから許してやれよ」

「別に攻めてるわけじゃないわよ。皆が楽しんでくれてるなら私はそれでいいの」


 イザナミは舞を舞っている優奈から視線を外して、演舞場の周りに集まっている町の人たちを見ながらユウヤに返した。

 ユウヤもイザナミと同じように町の人たちに視線を向けた後、イザナミと一緒に優奈に視線を戻した。

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