第42話 マユリの力

 ユウヤとマユリは門を通って町の外に出ると、二人は町から少し離れた山の中に入り周りの何もない平原に移動した。

 ユウヤが周りに木や魔物がいないことを確認すると、マユリに話しかけた。


「じゃあ、ここで見せてくれ」

「分かったわ」


 マユリはユウヤから少し離れて息を吸って呼吸を整え始めた。

 ユウヤはマユリが呼吸を整えている間に、近くにあった岩に腰を下ろして待った。

 ユウヤが少し待っていると、マユリは準備が出来たらしくユウヤの居る方に向くと歌い始めた。


「!?」


 突然歌い出したマユリにユウヤは最初驚いたが、町の人の前で歌っていた時とは違いとても楽しそうに微笑みながら歌っていた。


(いい曲だな……)


 ユウヤは楽しそうに微笑みながら歌うマユリの姿に見惚れて見ていると、マユリは歌に合わせて踊り始めた。


「これは……」


 マユリの踊りの振り付けに合わせて、様々な現象が起こり始めたのを見てユウヤは誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

 マユリが腕を上げると、腕のが通った場所がキラキラと光の粒が腕から落ちたように腕が光の軌跡を描くようでとても綺麗だった。

 マユリは胸の前で握っていた手を開き、ゆっくり円を描くように腕を伸ばして体の外に開き、両手が肩より少し低い位置で止めた。

 腕を開いたマユリは目を瞑って、少し歌うと手を握りしめて目を開くと同時に手を開くと、右手には水の球体、左手には火の球体が掌の上に発生した。


(あれが精霊の力を借りた魔法か)


 ユウヤはマユリが作り出した水と火の球体を見て感心していると、マユリは本格的に踊り始めた。

 マユリが腕を振るうと、水と火の球体が追従するように軌跡を残しながら移動した。

 歌に合わせた踊りだけでも綺麗で人を魅了するようなマユリの踊りに合わせて水と火の球体と光の粒が軌跡を描いているため、マユリの踊る姿はさらに綺麗で美しくユウヤも見惚れて見入っていた。


 マユリの踊りに見入っていたユウヤは周りの変化に気づくのに少し遅れた。

 マユリの周りの光の粒の輝きが強くなってきていると思い違和感を感じたユウヤはマユリから少し視線を外して周りを見ると、いつの間にか黒いドームの中に二人はいて、ドームの中は夜のように暗く周りが見えずらくなっていた。


 ユウヤが視線を戻すと、マユリは予定道理といったように少し微笑みと、水と火の球体を軽く投げるような動作をすると、水の球体は左周りに火の球体は右回りに黒いドームの中を軌跡を残しながら回り始めた。

 水の球体は光の粒を大量に含んでいるのか光りながらドームを回り、同じく軌跡も光っている。

 そして軽く投げる動作により、光の粒は黒いドームの中に広がりまるで星空に包まれたような光景がユウヤの前に広がった。


「すごいな」


 ユウヤはその光景に驚き無意識に小さな声で呟いた。

 マユリは驚いたユウヤの顔を見て嬉しそうな顔をして歌と踊りを続けた。

 マユリはまた手を軽く握り、開くと水と火の球体が新たに作られた。

 先ほどまでとは違い、水と火の球体と光の粒の軌跡は黒いドーム中に広がっていった。

 しばらくの間、歌い踊り続けたマユリは最後に回り続けると、黒いドームは光の粒やドームの中を回っている二つの球体を巻き込んで、段々と縮まっていき回り終わった時にはマユリの頭上に黒い大きな球体となっていた。

 その様子を見て黒い球体を凝視していたユウヤを見て、マユリは手を上げて掌の上に浮いている水と火の球体を黒い球体に押し込んだ。

 マユリは押し込んだ後に肩の位置まで腕を伸ばしたまま手を勢いよく降ろすと、黒い球体がはじけて周りに光の粒をばらまき、マユリの頭上に虹を作り出した。

 その光景を見てユウヤは微笑みながら拍手を送った。


「すごく良かったよ」

「ありがとう」


 マユリは少し汗を流しながら、微笑んでユウヤにお礼を言った。


「精霊の力はこんなにたくさんのことが出来るのか?」

「そんなに、たくさんのことはしてないわ」


 そういうと、マユリは手を出して指を折りながら数え始めた。


「光の粒を作るのと、水と火を発生させて操ること、後は暗闇の空間を作ったくらいかな」

「意外と少ないんだな。もっといろいろやってると思ったが」

「工夫してるだけで、そんなにたくさんのことはしてないわ」

「へー」


 ユウヤはマユリの言葉に感心するような声を上げて返した。

 マユリはユウヤが座っている岩に近づいてくると、ユウヤの隣に座って休み始めた。


「はあ、少し疲れたわ」

「魔力はそんなに消費してないようだが、踊るのに疲れたのか?」

「ええ、歌いながら踊るのって結構辛いのよ」


 マユリは少し荒い呼吸を整えながらユウヤに返した。


「それにしても、楽しそうに歌えるじゃないか」

「だって、久しぶりに私のことを分かってくれる人に聞いて貰えたからね」

「町の人の前でもあんな風に歌えばいいのに」

「……ねえ、ユウヤ」

「なんだ?」

「明日、私ライブやるんだけど、見に来てくれない」

「明日か、少し分からないな。今日受けた依頼を確認に行きたいから、それがどれくらい時間が掛かるかによって変わるかな」

「……そっか」


 ユウヤの答えを聞いて、マユリは少し俯きながら呟いた。

 そんなマユリを見てユウヤは微笑んで、話しかけた。


「まあ、出来るだけ早く帰って来るさ。あくまで明日は様子見の予定だから」

「本当?」

「ああ、前と同じで夕方くらいにやるのか?」

「今回は昼過ぎくらいから夕方まで」


 マユリはユウヤの問いに首を横に振って答えた。


「厳しいが、まあ、頑張ってみるさ」

「依頼の内容ってそんなに大変なの?」

「分からない。初めて受ける部類の依頼だからな」

「そうなんだ」

「それじゃあ、町に帰るか」

「そうね」


 二人は岩から立ち上がると、町に向かって歩き始めた。

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