第40話

 第二次討伐軍を撃破したレーナ姫と暁の騎士団は、周辺の帝国直轄領と譜代貴族士族領を占領した。

 だが外様貴族士族領は無視した。

 彼らが味方に付く機会を与える為だった。

 その効果は徐々に表れることになる。


 大公国からも治安部隊が送られて来た。

 大魔境の狩りで僅かに身体強化された徒士の子弟だ。

 彼らに見習い騎士の身分を与え、第一次第二次討伐戦争で鹵獲した軍馬を貸し与えたのだ。

 これで後方の安全を確保して、更なる進軍が可能な体制を築くのだ。


 それだけ工夫しても、前線も後方も兵力不足だった。

 大魔境の魔獣を抑える役目を放棄する事は出来ない。

 兵糧等の軍需物資を確保するためにも、狩りの頻度を増やさないといけない。

 流民を鍛えて猟師にする政策も採っているが、直ぐに効果は表れない。

 ジリジリと苦しくなっていた。


 そこにアームストロング侯爵家から婚約の使者が来た。

 帝国と戦争中に婚約の使者だ。

 裏に軍事同盟の意志があるのは明々白々だった。

 しかも相手が、正室腹で嫡男の第一公子だ。

 人質を出すと言う謎賭けなのだと直ぐ理解出来た。


 大公と大公妃は悩みに悩んだ。

 軍事的にも政治的にも、時機を得た最高の良縁と言える。

 だが二人の娘には幸せになってもらいたい。

 出来る事なら、愛し愛される相手と縁を結ばせてやりたい。

 特に苦労させたレーナは幸せにしてやりたかった。


 だが、大公国の家臣領民を命を預かる身としては、時に非情な決断が必要だ。

 最悪の場合は、ユリアと帝室の再縁組みも考える必要があった。

 閨での暗殺にも気を付けないといけないので、一度種をもらうだけで直ぐ帝国に返すとしても、帝室の血を大公家に入れる、苦渋の決断も考慮に入れていた。

 考えるのも嫌な事だったが。


 そのような非常な策も、頭の片隅には合った。

 出来る事なら採りたくない策だ。

 それくらいなら、ロイ・アームストロングを婿に迎えた方がいい。

 だが使える策は多く残しておきたい。

 悩みに悩んでいた時、ユリアが先に決断した。


「アローン。

 アームストロング侯爵家が父上様に使者を送ったと言うのは本当?」


「間違いありません。

 斥候が報告してきました」


「何の使者だと思う?」


「軍事同盟の使者だと思われます。

 しかも婚姻政策でしょう。

 若殿が噂通りの名君なら、自ら人質になる心算でしょう」


「婚姻なら姉上様か私しかいないわね。

 姉上様の性格なら、私にそんな事はさせず、自分が犠牲になる心算ね」


「そうかもしれません。

 ですが、良縁でもあります。

 ユリア姫様にも悪い話ではないのではありませんか」


「そうね。

 でも出来れば、姉上様には子飼いの騎士から婿を選んでいただきたいわ。

 私が婚約すると父上様に伝令を送ってちょうだい」

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