第34話

「私を囮にしなさい」


「それは出来ません。

 姫様を囮にするなど、絶対に出来ません」


「だけどアローン。

 そうするのが一番損害を少なく出来るのではなくて?」


「その通りではありますが、姫様を危険に晒してまで、損害を少なくする意味はありません。

 それに損害が少なくなるのは、敵でございますぞ」


「今は敵だけど、いずれ味方に出来るのではなくて?」


 大公軍が新たな領地を占領して、統治に力を入れている頃、帝国軍が第二次大公国討伐軍を投入してきた。

 噂では、前回討伐軍に加わった外様貴族士族に加えて、新たな外様貴族士族も動員されたというが、今回も帝国軍は参戦しないそうだ。

 だから勝てる可能性は高い。


 問題は勝ち方だった。

 単に勝つだけではなく、味方を増やす勝ち方がしたかった。

 外様貴族士族が、帝国を離れたがっているのは分かっていた。

 そんな外様貴族士族に損害を与えたくなかった。

 だが、アローンをはじめとする騎士達は、レーナを危険に晒す戦い方を拒んだ。


「アローンにしては正直すぎるのではないか?

 何も本当の姫様を囮にする必要はない。

 影武者を使えばいいではないか」


「ちぃ。

 俺としたことが、頭に血が上っていたようだな」


 騎士団長のフィンが助言したことで、アローンの頭も冷めた。

 レーナ姫が自分を囮にすると言ったことで、普段冷静沈着なアローンも、レーナ姫を想うあまり熱くなってしまったのだ。

 フィンにもその気持ちが痛いほど分かっていた。

 共にレーナ姫を恋する漢なのだ。


 冷静さを取り戻したアローンには、無数の策が思い浮かんでいた。

 その中でも一番レーナ姫が安全な策。

 自分達の損害が少ない策。

 外様貴族士族を損害を抑える策。

 外様貴族士族の心証をよくする策を取ることにした。


「テオ。

 悪いが功名を盗ませてもらう」


「何も功名を盗まなくても、お前でも出来るだろう」


 テオにはアローンの言いたい策の想像がついた。

 だから、正々堂々自分の力で功名をあげろと言いたかった。

 だがアローンは、少しでもレーナ姫の安全を高めたかった。

 その為には、テオに影武者をさせる必要があった。

 テオに匹敵する騎士が、数多くいると思わせたかった。


「僅かな確率であろうが、その差が実戦で最悪の状況で現れる事もある。

 ここはテオに泣いてもらいたい」


「仕方がないな。

 だが次のダンスも俺が一番だぞ」


「分かっているよ。

 フィンもそれでいいな」


「構わんよ。

 だが、ハッタリを仕掛けるのなら、一人じゃもったいないぞ」


「分かっているよ。

 数は多いほどいいからな」

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