第31話

「そろそろ代わってもらえませんか、テオ」


「そうですよ、テオ。

 確かにあなたの武勲は凄かったですが、最初から最後までレーナ姫と踊るのはやり過ぎですよ」


「分かっているさ。

 だが、夜は長いんだ。

 もう少しよかろう」


「いいや、駄目だ。

 我々は勿論だが、他の団員達にも機会を与えてもらおう」


「レーナ姫と踊りたければ、武勲をたてればいいだろう」


「その基準を厳しくしたら、武勲争いで作戦が崩壊してしまう。

 武勲をたてられない、裏方の者にも機会を与えなければならん。

 それくらいの事、テオならば分かっているだろう」


「分かっているよ。

 しかたがないな。

 だがそう言った以上、お前達も一曲にしておけよ」


「「分かっている」」


 レーナ姫と踊れるのは、騎士団最高の栄誉となっていた。

 全ての騎士団員が、その機会を求め、武勲を目指していた。

 だが誰もが表舞台に立てるわけではない。

 裏方を務める者も必要だった。

 そんな者がいなければ、陣も作戦もあったものではない。


 誰かが、目立たないが大切な裏方を務めなければならない。

 率先して務める滅私奉公の騎士もいる。

 そんな者を評価してこそ主人なのだ。

 レーナ姫はそれが出来る主人になっていた。

 前世の経験と今生の努力によって。

 暁の騎士団では裏方仕事も武勲なのだ。


 暁の騎士団は、三年の大魔境経験で大きく飛躍した。

 団員一人一人が成長していた。

 個人の武勇だけでなく、連携も素晴らしかった。

 僅かなサインで助け合えた。

 個人では狩れない強力な魔獣も、協力して狩っていった。


 特にレーナの聖魔法が暁の騎士団を強くした。

 事前の支援魔法で、物理攻撃耐性と魔法攻撃耐性を飛躍的高め、死傷を防いだ。

 普通では狩れない強力な魔獣を狩れるようにした。

 負傷した後も、聖魔法で傷を完治させた。

 ついには、死んだ者を蘇らせる聖魔法まで会得した。

 

 そんな戦いが、レーナ姫を至高の存在へと高めた。

 まさに戦の女神だった。

 大公城を護るユリア姫と共に、双璧の女神だった。

 大公国の民にとっても、双子の姫は女神だった。

 民は二人を双姫神と呼び称えていた。


 命に係わるような重病になっても、双姫神が治して下さる。

 例え死んだとしても、寿命でない限り、蘇らせてもらえる。

 大きな負傷で死んだとしても、重要な臓器や頭を失っていなければ、一人が命を蘇らせ、一人が身体を癒してくれる。

 双子でなければ成し得ない連携技だ。


 大公国の騎士には夢があった。

 武勲をたてて大公配になるという夢だ。

 大公殿下には二人の姫君しかいない。

 大公家を存続させるには、婿を取るしかない。

 誰もが武勲をたてて大公配となる夢を見ていた。

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