第21話

 帝国は姑息だった。

 呪殺未遂を事実無根と断じ、逆に大公家の捏造だと、大公の退位処分を下したのだ。

 そして次の大公に、帝国に亡命していたオットー・ハーン伯爵改め、オットー・アロンを据え、大公国の貴族士族領民に新大公オットー・アロンに忠誠を尽くすように、頭ごなしに命じたのだ。


 アロン大公国は独立を宣言するとともに、帝国に宣戦布告をした。

 帝国はクルト・アロン大公を逆賊と断じ、討伐軍を送り込んできた。

 討伐軍の大将はオットー・アロンが務め、討伐軍の主力は外様貴族士族が任じられた。

 帝国は広く、戦乱の世を治める時に敵味方に別れた貴族士族も、今では同じ貴族士族となっている。


 しかし現実には、明らかな差別があった。

 戦乱の時代に、一度でも帝室に逆らった事のある貴族士族は、常に厳しい視線を向けられていた。

 譜代貴族士族よりも厳しい役目に尽かされた。

 何かと献上金を命じられた。


 そして、いざ外様の貴族家士族家を取り潰す段階になると、同じ外様の貴族士族家に討伐を命じるのだ。

 討伐軍は編成するだけで莫大な金がかかる。

 御恩と奉公の関係だから、軍役にかかる費用は貴族家士族家の自弁なのだ。


 素直に取り潰されてくれても、遠征するだけも兵糧や軍装などの諸費用が必要になる。

 兵糧などを運ぶのに必要な民は、領内の男を徴発するが、その間領民は働けないので、領地の生産力が激減し、翌年の年貢収入が落ち込んでしまう。

 そこに不作でも重なれば、飢饉で餓死者が出る事もあるのだ。


 今回の討伐軍にも外様の貴族家士族家が当てられたが、一度や二度討伐に失敗しても、帝国本隊と譜代の貴族家士族家には痛くも痒くもない。

 むしろ大公家と外様の貴族家が消耗すれば、漁夫の利を得られる。

 領内が充実している外様大貴族の討伐は、帝国にも損害が出てしまうが、弱ってくれれば躊躇わずに取り潰せると考えていたのだ。


 命を受けた外様の貴族家士族家は困っていた。

 手を抜けば、帝国に懲罰の理由を与えることになる。

 だが本気で戦えば、経済力と軍事力が低下し、帝国が侵攻してきた時に抵抗出来なくなる。

 討伐を命じられた外様の貴族家士族家は、大公家が素直に当主交代を認めればいいのにと、心底思ったいた。


 だが大公家は膝を屈しなかった。

 既存の騎士団徒士団を大魔境に送り、軍資金と兵糧を確保しつつ、新兵に実戦教育を施し、戦力の増強を図っていた。


 そして帝国軍の迎撃には、第二公女のレーナを大将に頂く、暁の騎士団と暁の徒士団を送り出したのだ。

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