第13話

「姫様。

 そろそろ頃合かと」

「そうですね。

 では逃げていただきましょう」


 私達は、人質にした王太子と側近貴族を引き連れて、王国内を逃げ回りました。

 いえ、大袈裟な言い方をすれば、王国内を正して歩きました。

 王太子軍の侵攻路を逆行した後は、素早くジェダ辺境伯領に向かったのですが、多少の寄り道をしたのです。


 その寄り道とは、悪政で有名な貴族家に侵攻して、王太子と側近貴族を人質として、あるだけの金銀財宝と食糧を放出させたのです。

 彼ら悪徳貴族ほど、権力者に媚を売るのが上手です。

 王太子と側近貴族に恨まれることは避けようとします。


 何より、これをよい機会として、王太子の側近に食い込もうと考えるモノなのです。

 だから、表向き全ての金銀財宝を、王太子の側近貴族の為に供出した体裁を取ります。

 実際には、それに数十倍する財産を隠し持っていますが、そんな事はおくびにも出さないのです。


 でも、私達はそんな姑息な手段を見逃しません。

 戦闘侍女達の中には、密偵術に長けた者達もいるのです。

 彼女達が、悪徳貴族の隠し財産を探り出してくれるのです。

 そしてその隠し財産を、私達が頂くのです。


 確実に隠し財産を頂いた後で、悪徳貴族は殺してしまいます。

 殺しておかないと、民に隠し財産をばら撒いても、悪徳貴族が奪ってしまうからです。

 そんな事が起こらないように、殺してしまうのです。

 このような状況下では、躊躇わずに断行すべきことがあると、私は思い行動したのです。


 散々やるべき事をやり、御養母様達と御別れした所まで、ようやく戻ってこれたのが、王都を逃げ出して二ケ月を過ぎた頃です。

 流石の私達も、少々疲れました。

 何が疲れると言って、馬鹿で卑怯で臆病な王太子と側近貴族と一緒に旅しているという事が、非常に疲れるのです。


 だから、もう、逃げて頂くことにしたのです。

 また、天下に恥を晒してもらう事にしたのです。

 王国中に、またも王太子と側近貴族が、卑怯にも騎士の誓いを破ったと、広めてもらう事にしたのです。


 案の定、王太子と側近貴族は逃げ出しました。

 人質の間も散々わがままを言って困らせた、御世話係の騎士達を置き去りにして逃げたのです。

 騎士達も卑怯者ではありますが、情けなかったでしょう。

 主君に見捨てられたのですから。

 

 まあ、当然の報いではありますが、哀れなモノです。

 更に隙を見せて、騎士達にも逃げる機会を与えました。

 男がいると、心から寛げないので、サッサと逃げて欲しいという本音もありました。

 でも、ようやく、騎士の誓いを護って、逃げない騎士がいたのです。

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