第二章 カレーパン大闘争
第十九話 売れ残りのカレーパン
「はい、カレーパン二つで二百円ね」
購買部のおばさんに商品を渡されて、和美は交換に硬貨を渡した。
「今日も遅かったのね、高城さん」
「先生の手伝いがあったので」
カレーパン二つはなかなか重たいかもしれないなと手に持った袋を見ながら和美は思った。
「そんなに毎日手伝うことがあんのかねぇ?」
「誰かしら困ってる人っていますからね。何かあれば手伝いますよ?」
「大丈夫よ、申し訳ないし間に合ってるから」
購買部のおばさんは笑って手を振って和美の申し出を断った。和美に渡したカレーパンで本日の商品は売り切ったので、片付けを始めだした。
「昼食で売り切れるってやっぱり購買部のパンって人気ですよね」
「ある程度数は計算して作ってもらってるけど、三つ四つ買う男の子もいるからね。まぁ、何であれ売り切れてくれるのは私としてはありがたいね。売れ残るのは何だか申し訳ないしね」
美味しいパンだからね、と購買部のおばさんが続け和美は賛同して頷いた。
購買部のおばさんに軽く挨拶を済まし、和美は自身の教室へと帰っていった。
和美の席には秋原と矢附が椅子を寄せて待っていた。二人は弁当箱を持参していて広げて食事を進めていた。
「ごめん、遅くなって」
「私は馴れたけど、矢附さんは?」
「あ、あの、噂通りなんだ、って。あ、その、今まであまりちゃんと知らなかったから、直面した感じで、驚いてる」
秋原は笑って矢附を見ていて、矢附は困惑しつつ和美を見ていた。
青い鬼との遭遇など色々あった日から一週間経った。
次の日に和美は記憶が曖昧なままの矢附を昼食に誘った。それから、矢附と下校を共にする約束をして、瀬名に監視役の交代を伝えた。
矢附も瀬名も突然の申し出に困惑したようだったが、曖昧な記憶を補填するためか、和美の圧に押されたのか、首を立てに振り了承した。
記憶は曖昧なんだから口約束だったとしても良かったのでは、と奈菜に言われもしたが助けたいと想ったのは和美なので反故にする気はさらさら無かった。
最初の二日は矢附と会話の弾まない昼食を取っていたのだが、三日目には秋原も昼食を同席してくれたので助かった。
下校時間は《お手伝い》をする和美とカウンセリングを受ける矢附の時間が図らずとも噛み合っていて、相手を待たせるようなこともなく帰れた。
「矢附、今日は部活に来る日よね?」
綺麗に焼き目のついた卵焼きを口に運んでる途中で声をかけられ慌てて矢附は振り向いた。瀬名がそこに立っていた。
「あ、うん。今日は部活行くよ」
「じゃあ、授業終わったら一緒に行こうか」
それだけ言って瀬名は自分の席に戻ってクラスメイトの
瀬名から和美が監視役を引き継いで四日目。誰に言われるわけでもない関係となった瀬名と矢附は同じ部員としての距離感になっていた。バレーボール部部長と一部員。何故かそういう関係性になると以前より壁の無い形に落ち着いたようだ。
「あ、高城さん、私、部活行くから・・・・・・」
「うん、昨日聞いた。私も今日は《お手伝い》があるから時間的には問題ないと思う」
「あ、うん、ありがとう」
和美と矢附の関係性、距離感はすんなりと落ち着いたわけではなかった。だか、無関係に近かったのだから一週間程度なら順調なんじゃないかと和美は思っていた。共に昼食を食べ、共に下校する。そうして時間を重ねれば仲良くなれるだろうと、和美はカレーパンをちぎり頬張りながら考えていた。
「やっぱり、面白い人だなって思うんだよね。私、高城さんのこと」
コンパクトな弁当箱の容量を三分の一埋める大きさの唐揚げを秋原は箸で持ち上げながる。唐揚げ、煮豆、白米と渋い弁当。
「なんで、カレーパン二つだから?」
「それは面白いかは微妙なとこだよね、好きな人は食べてそうだし。もたれない、それ?」
「うーん、大丈夫、かな。購買部のカレーパン、割とあっさりだし・・・・・・ん、だとするとなにが何が面白いの?」
「矢附さんはどう思う?」
「え、私? えっと、面白いと思う、よ」
秋原の突然の振りに矢附は戸惑いつつ同意して頷いた。
「ん? どういうこと?」
そういうこと、と秋原が唐揚げを口に放り込みながら答え、和美は首をかしげた。しっかりした答えは返ってきそうになかったので和美は諦めて、一個目のカレーパンの最後の一切れを口に放り込んでから飲み物を買ってないことに気づいて、口をもごもごとさせながら悔やんだ。
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