第七話 屋上に呼び出し
「西生さん? うーん、あんまり話したことが無いなぁ。印象って言われても、大人しそうっていうか、話しにくそうっていうか」
翌日の昼休み。和美は前の席に座る秋原と昼食を共にしていた。秋原はピンク色の可愛らしいサイズの弁当を持参。中身は色とりどりの食材で詰められている。
対して和美は今日も購買部のパンだった。今日も焼きそばパンは売り切れていて、カレーパンとあんパンという組み合わせ。購買部のあんパンは美味しいので食べ飽きないのが良いところだ。
野菜成分を紙パックの野菜ジュースで補いつつ、和美はうーん、と頷いた。
「何、また《お手伝い》関係?」
「ううん、そうじゃないんだけど」
秋原の西生に持つ印象は、和美が持つ印象と大して変わらない。昨日会った西生奈菜とはまったく違う印象だ。関西弁で話す強気な少女。隣のクラスの彼女と重ねるには難しい。
もしかして、別人で西生奈菜を介して連絡を取り合う必要があるとか。
はたまた、猫を被ってるタイプか?
猫を被ってるタイプだと苦手なタイプかもしれないな、和美は野菜ジュースを飲み干してそう思った。
昨日の事が気になって朝イチに和美は2のAへと乗り込んだのだが、目があった西生奈菜に小さく横に首を振られ目を逸らされてしまった。
今じゃない。無言の訴えを読み取って和美は誰か別人を探していたフリをして教室を出ていった。何となく西生奈菜との関係性を誤魔化しておく方が良い気がした。
そして、先程。購買部に昼食を買いに行く途中、廊下で西生奈菜の姿を見かけた和美は声をかけようとしたが今朝と同じように西生奈菜は首を横に振った。戸惑う和美とすれ違うように西生奈菜は歩いていき、ぼそっと小さく呟いた。
「放課後、屋上で」
西生奈菜はそのまま階段へと歩いていった。
人目につきたくない。つまり、そういうことなのだろうか。
「西生さんねー、うーん、部活とかやってないよね、確か。そういうイメージも無いし」
秋原はずっと西生奈菜についてを考えてくれていた。秋原はよく和美の《お手伝い》の話を聞いてくれていた。個人を特定するようなプライバシーな話は出来ないが、《お手伝い》をすることで引っ掛かった感情を和美は秋原に話していた。
身勝手なお節介で始めた《お手伝い》だが全てが善意で受けとめれるかというとそうでもない。そういった部分を話せるのは和美にとってありがたかった。
「大体同じ印象だね」
「お力になれなくてゴメンね」
「ううん、いつも助かってるよ」
「それで、やっぱり《お手伝い》とは関係無いの?」
「うん、今度話す機会があるってだけ」
自分のイメージと周りのイメージが相違無いというのも一つの収穫だとも言える。
大体、西生奈菜という印象は彼女と直接話せばわかる話なのだから下調べも不必要だったのかもしれない。昨日の事があったから、少し慎重になっているのかも。
あんパンの残りを口に押し込んで和美は天井を見上げた。屋上。もしかしたら今も西生奈菜は屋上にいるのかもしれない。放課後の予定は空いていたか、和美はぼんやりとスケジュールを浮かべていた。
「来てくれましたね、高城さん。ありがとうございます」
放課後。ホームルーム終了のチャイムが鳴って、和美は人目を気にしながら屋上へと向かった。メモ帳など持っていないので頭の中にあるスケジュール表から今日の予定が空いてることを確認する。記憶力は確かな方だ。
秋原が興味を抱いていたが、別の《お手伝い》だと誤魔化した。
「んー、やっぱり昨日と印象が違うね、西生さん」
屋上で待っていたのは和美と同じ紺色の制服を着た眼鏡に三つ編みの少女。和美より少し背が低く、幼さと気弱さが交じった表情が昨日感じた同い年というより年下みたいな印象を受ける。
和美と視線を合わせているが、無理してるように感じる。
「あ、そ、そうですね。昨日のはその、仕事モードというか、巫女モードというか。スイッチが入ってる感じなので」
「関西弁でも無いんだね」
「そ、それも、その、いつも対峙してる
やはり無理していたのか、西生奈菜は目を逸らしてしまった。
「こおに?」
聞き慣れない言葉に和美は問い返した。
「あ、昨日の、赤とか青とか緑の一つ目の顔のヤツです。私達はそう呼んでいます。角が、昔話とかに出てくる鬼に似てるから」
昔々あるところに、で退治されたり泣いたりする鬼。民話や郷土信仰で出てくる妖怪の一種。古文の犀川がそういう雑談をしてたのを和美は思い出す。
「私達って?」
「家系なんです、そういう・・・・・・」
西生奈菜は俯いて続く言葉を濁らせた。和美からはその表情は読み取れなかった。
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