第55話

「トビアスの言う通りです。

 今は国難の時です。

 少しでも対応を間違えたり、対処が遅れたりすれば、国が滅びます。

 貴族も王族も同じです。

 領地を守り、家臣領民を護る義務があります。

 力を出し惜しむことなく、この国難を乗り切り、新たな領地を切り取りましょう」


「「「「「ウォオォォォォォ!」」」」」


 少しは貴族士族の心を捕えられたでしょう。

 時間が経ってしまうと、冷静になったり自家の利益を優先したりするでしょうが、しばらくは王国のために動いてくれるはずです。

 問題はその力を注ぐ場所ですね。

 今此方から開戦するのは損の方が多いです。

 国防上の長濠と偽って運河と用水路造りの人夫を徴発しましょう。


「では、それそれの役目を果たして下さい」



 ドレイク王国との交渉はトマスに任せて、私は内政に力を注ぎました。

 ホワイト家の本領と王都を結ぶ運河は、この国の流通と経済を一変する大事業ですから、失敗は許されません。

 王都を中心に国を南北に二分し、ゲラン王国とドレイク王国のどちらが侵攻して来ても、最終防衛線として機能出来るという前提で、全貴族士族に協力してもらいました。


 密貿易の利益は莫大で、特にヒルメス王子が馬鹿をやってくれましたので、ドレイク王国との交易が想定以上の利益をあげてくれました。

 そこから得た利益、特に食糧を投入する事で、ドレイク王国とミルドレッド王国の貧民や労働者、中には技術者まで出稼ぎ労働者として集める事ができました。


 王家王国が得た富を投入する事で国内の景気がよくなり、多くの人が集まれば、その人間が王家が独占する専売品を購入してくれます。

 特に塩は王族になる前からホワイト家の独占品です。

 そこから得られる富は莫大で、投入した富の一割を塩の増収分だけで回収できています。


 豊かになれば贅沢になるのが人というものです。

 特に美味しいモノが食べたいという欲求には抗えません。

 穀物や肉は直ぐに増産など出来ません。

 肉はまだ狩りで集める事ができますが、穀物は収穫できた物を計算して食べないと、次の収穫前に食べつくせば飢える事になります。

 特に今は開戦直前で王家貴族士族が兵糧として買い占めています。


 そこで直ぐに増やせる魚介類に人が集まりました。

 船さえあれば果てしない大海原に乗り出し、一獲千金も夢ではありません。

 船団を組んで沖に乗り出し、鯨や大型魔獣を狩る事ができれば、巨万の富を得られるのです。

 ホワイト王国では昼夜を問わず造船の土音が響き、漁民や船員になりたいという人が集まりました。


 

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