第19話

「陛下、マイヤー王国の軍船が港にやって参りました!」

 いかがいたしましょう?」


 マイヤー王国から迷惑な客が来たのは、私と父上様が密談した翌日でした。

 前王家の密偵達に新たな役目を与え、マイヤー王国に送り込む手段を考えていたその部屋に、旧ホワイト侯爵領、今は王家の直轄領となっている我が故郷の港に、マイヤー王国の軍船が入港してきたと言うのです。

 しかもその軍船は莫大な金銀財宝と、やんごとなき人物を乗せていました。

 事もあろうに、自称第四王子のガブリエル殿と、自称王弟のグレイソン殿がいたのです。


 マイヤー王国は強硬策を取ってきたのです。

 私の婿候補として、現王の息子であるガブリエル殿と、前王の息子であるグレイソン殿を送り込んできたのだ。

 なんと強引なのでしょうか。

 それだけマイヤー王国が何かに追い込まれていると言う事なのでしょうか?

 普通に軍事的に考えれば、ゲラン王国対策だと思われるのですが。


「これは一大事である。

 直ぐに決断できることではない。

 二人の入国を認めれば、我が国がマイヤー王国から婿を迎える事に決したと、他国に思われるだろう。

 そんな事実がない以上、入国を認めるわけにはいかん。

 だが同時に、無碍に追い返す訳にもいかない。

 アルフィンと相談するから、しばらく待て」


「急ぎの伝令よくやり遂げてくれました。

 その方の働きで考える時間を手に入れる事ができました。

 その方の働きに感謝と褒美をとらせます」


「うむ、そうであったな。

 よく気がついてくれた、アルフィン。

 この者に休息を与えてくれ。

 早馬で胃腸に負担がかかっているだろう。

 消化のよい食事を用意するように。

 それと褒美だが、褒賞銀一枚を与えてくれ」


 父上様も慌てていたのでしょう。

 全身汗と埃に汚れた伝令を労わる余裕がないようでしたので、差し出がまし事ですが、私が言葉で褒める事で、父上様が現物の褒美を与えるように仕向けました。

 側近が慌ただしく動き始めました。

 ですが父上様の狼狽が激しいようです。

 もう一言指示が足りません。


「今日はよく集まってくれました。

 今の報告を聞いた通り、マイヤー王国の現状を一刻も早く知る必要があるのです。

 マイヤー王国に事情があるのは明らかですが、何も知らずに巻き込まれるわけにはいきません。

 貴方達には直ぐにでもマイヤー王国に入り、事情を調べ上げてもらわなければなりません。

 ですが、マイヤー王国から婿を迎えるのを頭から否定している訳ではありません。

 マイヤー王国の事情が我が国の為になるモノなら、積極的に利用します。

 そのつもりでマイヤー王国に入り込む準備をしてください」


 集まっていた前王家の密偵に解散を命じました。

 これで真剣にマイヤー王国を調べてくれるでしょう。

 父上様が情けなさそうな目をされておられます。

 以前の父上様なら、即座に判断され命令をくだされていた事です。

 地位が人を作ると言う諺があるように、重圧が人を壊す事もあるのです。

 考えを直ぐに変えるのはよくないですが、父上様にあまり重圧をかけない方がいいのかもしれません。

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