第87話 想い(3)

結婚の許しをもらいに行くのに


親ならともかく


全くの他人で


第3者の斯波がついていくなんて


どう考えても


非常識すぎる。



萌香はもうそればかりを考えてしまった。




「で・・高宮さんは・・なんて?」


おそるおそる聞いてみると


「・・はい、わかりました。って・・」



「え、」



高宮もそんなに簡単にOKしたのだろうか、と


そっちも疑問だった。



「おれは、この2年半。 あいつを一番近くで見てきたと思う。 ほんっと、どうしようもなかった加瀬が何とかここまで頑張ってまあ、少しは成長したとも思うけど。高宮と結婚できるくらいにはなったかなとも思う。 あいつが、高宮と一緒になる決心をしたんなら。 おれはもう全力であいつの望みを叶えてやりたいんだよ。 親の反対にあっても、何とか説得して。 最後は笑って許してもらえるようになってもらいたい。 あんなスゴい家に入って苦労もあるかもしれないけど。 それはもう加瀬はわかってる。 だったら・・何とか一緒にさせてやりたいんだ・・」




萌香は


斯波の言葉に


思わずほろっと来てしまった。



「清四郎さん、」


「おれは色んな気持ちを乗り越えて萌香と一緒になって本当に良かったと思ってる。 オヤジとも少しは分かり合えてやっぱり良かったって思うから。 家族に祝福されて一緒になることがなにより幸せだろ、」




萌香は涙ぐんでしまった。




「・・うん・・」



「加瀬に幸せになってもらいたい・・それだけなんだ、」



加瀬さんが


高宮さんとつきあってることが


あんなにおもしろくなさそうだったのに。




こんな風に言う


彼が


ちょっと信じられないけど。



「そうね。 加瀬さんは・・みんなに祝福されて幸せになるのが、合ってる子よね。」



なんだか


親になった気分で。



嬉しくて


寂しい気持ちが


萌香の心の中にも渦巻いた。






「は、斯波さんが??」



夏希は思わず胸を押さえた。



「ウン。 おれもびっくりしたけど、」



この日は高宮のマンションに直接帰って、彼の帰りを待っていた。



「最初は。 何言ってんだ、この人って思ったけどさあ。 信じられないほど・・真剣で。 ショックなくらい。」


高宮は脱いだ上着をソファの背もたれに掛けた。


「ショック?」


夏希はあんこを抱っこしながら首をかしげた。




「夏希のこと。 すんごい真剣だったから・・」



「え、」



「夏希のことを・・心配してる。 ひとりでおれの親に会いに行くのを心配している。」




斯波さんが。



夏希は黙り込んでしまった。



「ちょっと。 どうなるかわかんなかったけど。 はい、わかりましたって。 言っちゃった。 ちゃんと事前にウチの親には言うから。 大丈夫。」


高宮はふっと夏希に笑いかけた。



しかし


夏希は固まったままで。


あんこを手に抱きながら。



気がついたら


ポロポロと


涙が頬を伝わって。



「・・夏希?」


高宮は夏希の顔を覗き込んだ。



「あ~、もう。 どーしよう・・」


夏希は思わずギブスの手で涙を拭ってしまった。



斯波の想いが


どうしていいかわからないほど


嬉しくて。



高宮はふっと


心配になってしまった。


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