第80話 イヴの奇跡(3)

「だからね。 隆ちゃんもあたしに迷惑をかけて。 つらいことあったらお酒飲んでもいいよ。 あたしに・・当たってもいい。 あたしに悪いとか。 思わなくっていいから・・」



夏希は子供のように手で涙を何度も何度も拭った。



「あたしたちは・・・そーゆー風になりたい。」



もう


なんて言っていいのか。



「もし。 隆ちゃんがホントにそう思ってくれるなら。 あたしも隆ちゃんのお父さんとお母さんに・・きちんと会って、挨拶をしたい。」




言葉は


本当に拙くて。



彼女は初めて会った時と


全く変わってないような気がするけれど。




間違いなく


彼女は『大人』になったと思う。



高宮はスッと席を移動して、夏希の隣に座った。




「ありがとう。」




ニッコリ笑ってそう言って夏希の頭を撫でた。



「ありがと、」


そして、抱きしめた。




彼女が


そういう『決心』をしてくれた。



もう


それだけで


死ぬほど嬉しい。






「・・結婚、しよ。」



高宮は夏希を抱きしめながら彼女の耳元で囁いた。




驚いたり


しなかった。



今までの彼女なら


それだけでパニくって、わけわかんなくなって。


それで終わりだけど。




もう


そこまでの気持ちになってくれたって


わかったから。



夏希は


その言葉を


もうぼんやりと捕らえていて。



彼と一生一緒に生きていくことは


家族になることだって


思っていたから。





「・・おれの、家族になって・・。」




彼女の言うとおり


お互いに迷惑かけてかけられて。


それを一番許しあえる存在になれたとき


アカの他人が


『家族』になる。



夏希は心の底から


高宮と『家族』になりたい、と思った。



怖いとか


不安とか


そんなことは不思議に感じずに。



すんなりと


そう思えた。





「・・うん、」





夏希は気がついたら、頷いて


彼の首に両手を回した。




そして


自然に自分から彼にキスをすることができた。





出会ってから


2年と半分。


いろんなこと


あったけど。





あたしは隆ちゃんから


たくさん


大事なものを


もらった。





これからは


あたしも隆ちゃんに大事なものを


あげたい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る