第74話 熟す(3)

これは


『感動』??


高宮は電話を切った後、思わず胸に手をやった。


なんだか


夏希じゃないみたいだった。



あんなふうに


ものすごくストレートに彼女の気持ちが返って来たことがあっただろうか。




初めて


自分との


将来も


考えてくれている気がして。


これまでの彼女だったら


すぐここに来て


泣いたりして


支離滅裂なこと


言って。



高宮はため息をついて、ちょこちょことやってきたあんこをひょいっと抱き上げた。


そして


愛しそうに


彼女の頭を撫でた。





「あっ! いっけない! コレ、メールしなくっちゃだった!!」


12月も半ばになって


事業部は多忙を極めた。


夏希はいつものように騒々しく仕事をこなしていた。


「おい~。 加瀬! こっちもレックスの斉藤さんから電話かかってきてるぞ!」


八神が電話をつなぐ。


「わ~~、もう!」


慌てて電話に出て


「はい! くらしゅっくじゅごうぶの加瀬ですっ!!」


カミカミの応対をし、周囲は失笑だった。


「アホか・・」


八神も笑いを堪えた。






「はあ? 加瀬が?」


南は高宮と休憩室にいた。


「なんかね。 ちょっとびっくりして。」


高宮はふと微笑んだ。


「ああ、こんな風に考えられるようになったんだって。 出会った頃の彼女のことを思い出すと。 ウソみたいに大人になったなァって、」


「そっかあ。 んじゃあ・・あたしが出る幕もないかな、」


南も笑った。


「今日もちゃーんといつも通り仕事してたよ。 あたしや萌ちゃんに泣き言なんか言わないし。 真緒ちゃんのことも加瀬なりに整理してるなァって感じ。 そうやってね、お互いのダメなトコ、許し合えないと結婚なんかでけへんもん。  加瀬は今まで高宮のことで悩んだりする時は、自分で解決できなくて、泣いて喚いて。 どーしていいかわかんなくなって。 それを周りがよしよしって落ち着かせてやらないと、アカンかった。 正直・・高宮のことも親しい友達とあんまかわらない目線で付き合ってたかもしれへん。 そうじゃなくて、一緒にずうっと生きていく人としてあんたのことを意識し始めたかもしれへん。」


と言われて


高宮は少し顔を赤らめた。


「なんか。 子供が成長していく姿、見るようで楽しいな、」


南が明るく言うと、


「親みたいな気持ちになって。 きっと・・そうだな。 子供の卒業式を見る親ってこんな気持ちなのかなって。 胸がいっぱいになって嬉しくて。」


高宮はふっと微笑んだ。


「とか言って。 結局変わってへんって可能性も残ってるけどね。」



南の冗談も


ありえるので


とりあえず苦笑いしかできなかった。





高宮は年末でさらに多忙になり


正直、夏希とゆっくり話す時間もなかった。


あんこはほぼ夏希の家にいることになり、彼女もゲージの中でひとりで留守番ができるようになってきた。


「お~~、おりこうだったね~。 ごめんね、ひとりにしちゃって。」



夏希は帰ってすぐにあんこを抱き上げた。


するとうれしそうにしっぽを振っている。


あれから


高宮とはゆっくり会う時間もなかった。


お互いに忙しくて、メールであんこのことを書いて送るくらいで。



だけど


今はじっくり


時間をかけて


彼のことを考える時だ。



夏希はふうっとため息をついた。



「ハラへった~。 もう2時じゃん、」


八神は時計を見た。


「どうりで歩くのにも力入らないと思いましたよ。ねー、立ち喰いでもいいから食べていきましょうよ~、」


一緒に外出した夏希はおなかを押さえて八神に懇願した。


「立ち喰いって・・女が自ら言うかよ。 ま、ちょっと時間あるし。 たまにはおごってやっか。」


八神が言うと、


「えー! ほんとに? うれしー。 ローンで大変なのに、悪いですねえ、」


夏希は笑った。


「余計なコト言うなっつの、」



八神はそう言いつつも。



その後


二人がどうなったのか。


気になっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る