第71話 扉(3)

気がつけば


夏希は


ずうっと言葉を発していなかった。



真剣なまなざしの高宮の顔をジッと見るだけで


まるで蝋人形のように固まったままだった。



ハッとした南は


「ちょ、ちょっと加瀬! 何とか言ってやんなよ、」


小声で小突いた。



「えっ・・」


夏希はようやく小さな声を発した。




高宮はその時、南がいたことに初めて気づいたようで


「・・って! いつのまに!」


と、たじろいだ。


「いつのまにって。 さっきっからいたけど?」


呆れて言った。



なんかもう


周り見えてなかった・・。



高宮は少しだけ正気に戻ってきた。




「りゅ・・隆ちゃんのお父さんとお母さんにって・・。 あたしが?」


夏希はいちおう確かめた。


「他に誰がいるんだよ! おれが夏希と真剣につきあっててこれからもずっとつきあっていきたいって。 ウチの親に認めさせたいから。」


高宮は彼女の両肩をひっつかんだ。



「・・・・・」



なんだか


冷静に思考できなかった。



どーゆーこと・・?


アレ?


そもそも。


こんなんなったのって


隆ちゃんが真緒さんと一緒に出かけてとか


そんなことが発端で。



その問題は


コレでいいのかな???



夏希は腕組みをしてうーんとうなってしまった。



「えっ・・ダメ?」


彼女のリアクションに急に不安になってきた。



「ダメって・・ゆーか・・。」


もじもじする夏希に南は


「も~~! ニブすぎるよっ! 高宮は・・加瀬と将来一緒になりたいってことを両親に宣言したいんやで??」


と言ってやった。



「は・・?」


夏希は激しく驚いた。



高宮はそこまで南に言われて、もう顔が沸騰しそうな勢いだったが、



「夏希の気持ちを聞かせてくれっ!」


必死に彼女に言った。



しかし


またも夏希は


ネジが1本抜けてしまったかのように


動かなくなってしまった。



わ・・


わかんないよ。


いきなりそんな・・。



回路が


ショートしてもう発火寸前だった。



「・・・・・」


夏希はもうどうしていいかわからずに、無言のままずんずんと歩いて行ってしまった。



「夏希!」


高宮は追いかけようとしたが、


「ちょっと待った。 アレ、そうとう頭ン中混乱してる、」


南は高宮のスーツを引っ張った。


「ノーリアクションですよっ!?」


声が裏返りそうだった。


「あんたもなあ・・もっと順序おって攻めないと。 真緒ちゃんとのことも加瀬は整理ついてへんのに。 いきなりつっこみすぎやん、」


「そ、そうですかァ?」


「しかも。 あんたの親なんか。 もー、絶対に加瀬とのこと反対してるんやろ? いきなりハードル高すぎ・・」


南は腕組みをしてウンウンと頷いた。


「だから・・そこまでおれは夏希のことを考えてるってこと・・言いたかったんですけど。」


「まあ。 あたしに任せて。」


南は胸を叩いた。


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