第642話 判断

「一体どういうことなんだエルっ?」

 AIが黙り込んでしまったので上代琉生は代わりにエルに尋ねた。

「いや……でも気のせいかもしれないし……」

 だけどエルは未だその事実が信じられないようで、康生の体をくまなく調べていた。

 しかしそれでもエルしばらくしてから再び動きを止めた。

「やっぱり……康生はまだ死んでいない……?」

「どういうことなんだ?」

 エルが再び調べた結果を聞いて上代琉生は再度質問をぶつける。

「康生の心臓は確かに止まっているわ。だけど細胞も臓器も死んでないの。心臓が止まったら普通、細胞はすぐに死んでしまうはずなのに……」

「細胞が死んでない……?」

 不可解な説明を聞いて上代琉生をはじめ、その場の者達が首をかしげる。

 確かにエルの言うとおり、それは信じられないようなことだった。

「――AI、そろそろお前の考えを聞かせてくれ」

 未だ状況のよく分かっていない上代琉生だったが、それでも康生が死んでないという事実を信じAIに助けを求める。

『はい、今計算が終わりました。すぐにご主人様を生き返らせる方法を実践します』

「そんなことが本当に出来るのっ?」

 するとAIは自信満々に答える。

 だが心臓が止まっている以上、どうすることも出来ないことが分かっているエルだからこそすぐにAIに聞き返す。

 一体どうやって康生を生き返らせるのかと。

『方法は簡単です。英雄様を先ほど戦った化け物と同じにすればいいのです』

「何を言っている?」

 AIが言う方法を聞いた瞬間上代琉生をはじめ、国王達は一気に表情を険しくさせる。

「英雄はもう死んだのだろう?それなのに例の化け物として生き返らせるなど認められぬものか!そんなことをしてしまえば英雄を侮辱するのと同じではないか!」

 国王の一人が激怒したように声を荒げる。

 そして上代琉生や他の国王達も全く同じ意見のようで、画面に写るAIをじっと睨む。

「その通りだ。無理矢理生き返らせることは絶対にだめだ。それだけは認められない」

 上代琉生はじっとAIを見て答える。

「えぇ……」

 そしてエルもまた同様にゆっくりと頷いた。

 だがAIはそんな皆を無視してさらに作戦の内容を語る。

『生き返らせる方法は簡単です。ご主人様にありったけの魔力を注ぎ込むだけです。そうすれば恐らくご主人様は生き返ることが出来るでしょう。そのための適性も先ほどの戦いでご主人様は得ています』

「だからっ……!」

 AIの説明を聞いて上代琉生はすぐに反論しようとした。

 だがAIはそんな上代琉生を遮ってまで淡々と言葉を紡ぐ。

『ご主人様が暴走するかもしれませんが、そうならない可能性だってあります。それにこのまま時間を放置していてもご主人さは外から魔力を吸収し勝手に化け物になってしまうでしょう。ですので後の判断は皆様に託します』

 AIはそういうと、それ以上何も言葉を話すことはなかった。

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