第601話 分裂

「康生は大丈夫なのか?」

 魔力の物体と壮絶な戦いを繰り広げているのを遠目で見ながらリリスは上代琉生に尋ねる。

 流石にあれを一人で相手にするのはいくら康生であろうと相当きついはずだ。

「現状は大丈夫みたいです。むしろ魔力解放の力を全面に発揮出来て喜んでいるようにも思えますけどね」

「ふんっ、あいつは本当に戦うのが好きな奴じゃな」

 しかし上代琉生の言うように、康生は現状では魔力の物体相手に何ら変わりなく戦えていた。

 魔力暴走の力が使えるようになったからか、その力を試せてとても楽しそうとまで見えるほど康生は生き生きしていた。

 しかしだからといって康生一人が戦えば解決する問題ではない。

「それで、奴の対処はどうするつもりじゃ?」

「そうですね。現状は英雄様が作った魔道具頼りになりますが……」

「それは現状、あやつしかもっておらぬということか」

 そう、あの物体を倒すには普通の倒し方ではだめだ。

 康生が開発した魔力を一時的に魔力を使えなくする魔道具があってこそ奴を倒すことが出来る。

 しかしそれはすでに先の戦いで魔力の物体と康生自身に使ってしまった。

 そのため今、手元にその魔道具はない。

 つまり今、あれを倒す手段は康生達にはないということだ。

「一体どうするつもりじゃ?康生がいくら戦っても時間稼ぎにすらならんということは分かっておるじゃろ?」

「えぇ。ですがそれで十分です」


「なんじゃと?」

 康生が戦っているのはただの時間稼ぎだと上代琉生が認めたことにリリスは訝しげな視線を向ける。

「現在、その魔道具を急ピッチで作ってもらっている状況です」

「作っているじゃと?」

「えぇ。俺達が異世界に行った際、英雄様に頼まれてその魔道具の設計図をメルンに渡していたんですよ」

「なんじゃと……?」

 いつ間に?という疑問をリリスはすぐに抱いたが、今はそれを聞いている時間がない。

 とにかくメルンの元に設計図が渡り、あの物体を倒すための魔道具が作られているという事実をリリスは認識した。

 だからこそ勝利の糸口があるということでリリスは少しだけ安心する。

「ですが……そう上手くいけばいいんですけどね……」

 しかし上代琉生だけが、物体を見上げながら苦い表情を浮かべていた。

 まるで何かに恐れるように、そして物体に対しての畏怖の念が感じ取れた。

「まぁ、あの物体に関しては今更心配してもきりがないだけじゃ。今はあやつをそれぞれの国に行かせぬよう全力を尽くすだけじゃ」

「そうですね」

 リリスの言葉を聞いて上代琉生は僅かに表情を和らげた。

 魔道具さえくれば勝てる。

 そんな思いがリリスの中にあるので少しは余裕を持っていられたのだろう。

 だが、

「二人とも大変っ!例の物体がまた分裂を始めたっ!」

 エルの言葉に二人はすぐに表情を険しくさせるのだった。

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