第188話 最適

「貴様!よくも我々を裏切ったな!」

 無線から上代琉生の声が聞こえた瞬間、翼の女が怒声を響かせた。

 それは康生も同じですぐさま文句を言おうとする。

 しかしすぐさまその言葉を飲み込み、現状把握につとめようと無線に耳をかす。

『お、落ち着いて下さいって。ちゃんと話を聞いて下さいよ』

「うるさいっ!裏切り者の話など聞いてたまるか!」

 すぐさま無線を投げだそうとする翼の女を見て、康生は慌てて止めに入る。

「な、何をするっ!」

「お、落ち着いて下さい!」

 康生に止められた翼の女は少し暴れたが、康生の言葉を聞き、少しだけ冷静さを取り戻した。

『ありがとうございます英雄様。これでようやく落ち着いて話が出来ますよ』

 康生が翼の女をなだめたのを音声から読みとったのか、感謝の言葉を言ってくる。

「今はそんな事を言っている時間はない。とにかく事情を簡潔に説明しろ」

 しかしそれでも康生の上代琉生に対しての怒りが収まったわけではなく、怒りがにじみ出るように上代琉生に説明を求めた。

『分かってますよ。まず最初に言いたいことは、俺は裏切り者じゃないって話ですよ』

「何っ!?」

 上代琉生の言葉を受け、翼の女がすぐに反応を返す。

 それもそうだ。翼の女の中、という康生達の中では上代琉生はすでに裏切り者として扱っていた。

 それが本人が突然、自分が裏切り者ではないと言ったので、信用できるはずもなく、ただ怒りという火に油を注いぐだけのように思えた。

『だったら誰が裏切ったか?って思ってますよね?俺以外にこの地下都市にいる者でもっとも裏切り者として候補があがるのは俺なのは納得できますけど、実は俺以上に適任の人はいるんですよ?』

「なんだとっ!?一体それは誰だと言うんだ!」

 上代琉生の言葉を聞き怒りを露わにしている翼の女を横目に、康生はしばらくの間考える。

 上代琉生以上に裏切り者として適任な存在。

 しかしそんな存在はいるはずもなく、もしいたら裏切り者の候補としてとっくに挙がっているはずだ。

『っといっても皆さんはその人物がこの地下都市にいる事は知らないでしょうけど、英雄様達は一度あった事はありますよ?』

 一度会ったことがある、という言葉にひっかかりを覚えつつも康生は、そんなじらすような態度に少しの苛立ちを覚えた。

「もったいぶらずに早く言え。今は時間がない」

『あぁ、そうでしたね。すいませんでした』

 どうやら時間がないことは上代琉生も把握しているようで、素直に康生の言うことを聞くようだ。

『この地下都市で俺以上に裏切り者として最適な人物。そして同時に敵に情報を売りつけて得する人物。それは――この地下都市の元都長です』

 その言葉を聞いた瞬間、かすかに無線から新たに語られた裏切り者の存在の声が聞こえたのだった。

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