第160話 そうなんですかね

「ただいま〜」

 自分の家ではないが、講堂へと帰ってきたエルが扉を開けて入ってきました。

「…………?」

「ん?どうしたんだエル?」

「どうされました?」

 勢いよく入っていったエルが突然固まったので、時雨さんと翼の女はすぐに後を追って講堂に入る。

「なんだ?」

 そしてエルと同様に固まる二人。

 翼の女が訝しげに声を発すると、一人の異世界人がエル達が帰ってきたのに気付く。

「あっ、指揮官どの!」

「一体何をしている?」

 ようやく気付いた異世界人に向かって翼の女が代表して尋ねる。

「え、えっと、それは――」

「はっ!」

「「「おぉ!!」」」

 しかしその声はすぐに康生と異世界人達の声に遮られる。

 説明しようとした異世界人も、康生の声が聞こえると途端にそちらに注意を向けようとする。

「……どうして皆がここに集まっているんだ」

 翼の女が目の前の光景にため息を漏らす。

 異世界人達は皆部屋の中にいると思っていた翼の女だったが、それが全て部屋から出て、講堂中央に集まっている事にただ疑問を覚えた。その中心に康生がいるのだから尚更だ。

「ちょ、ちょっと康生?何してるの?」

 気になったエルはとうとう、異世界人達の中へと入り込む。

「――あっ、エルっ!」

 それに気付いた康生はすぐにエルの元へと移動しようとするが、異世界人達が邪魔で身動きがとれないことに気付いた。

 エルの後を追って、時雨さんと翼の女もすぐに康生の前へと駆けつける。

「一体何をしていた?」

 代表して翼の女が康生に問いただす。

「べ、別に変な事はしてませんよ。ただ、ちょっと魔法を教えてもらっていただけで……」

「魔法だと……?」

「は、はい……」

 ここでようやくエル達は康生の手元にあるものに気付く。

「っ!それって!」

 一番最初に気付いたエルが康生の手元を注視する。

 ――康生の手元には小さなの水の球体が浮かんでいたのだった。

「うん。今教えてもらった水の魔法だよ。でも誰でも出来るみたいだからあんましすごくはないんだけどね……」

 ここで翼の女は納得した。

 先ほどどうして、皆が盛り上がっていたのか。それは康生が魔法を使い水の球体を生み出したからだと。

「ほ、本当に魔法が使えるのか康生っ?」

「み、みたいですよ?」

 遅れて反応した時雨さんに康生は水の球体を見せるように向ける。

 それは確かに康生の手の上に浮いており、人の技術では到底存在しないような物だったので、時雨さんもそれが魔法であることを認識する。

「……貴様はやはり我々の仲間なのか?」

 初級ではあるが、こうしたまた目の前で確実に魔法を使ったという事もあり、翼の女は再度康生を問いつめようとする。

 しかし康生はどこか半笑いになって頭を掻き、

「も、もしかしたらそうなんですかね?」

 と、どこか拍子抜けのように答えたのだった。

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