第76話 魔法

「武装解除!」

 時雨さんがそっと胸に手をあてて呟く。

 するとドラゴンと戦った時のように、鎧がうっすらと光を浴びる。

 カチャッ。

 時雨さんが武装鎧を発動させると同時に、隊長は銃を構える。

 時雨さん程度の鎧だったらそこまでの速さは出ないと思ったのだろう。

 そうして時雨さんに照準を合わせている隙に康生は隊長に向かって素早くつっこむ。

「AI!風の力はしっかり充電出来てるよな?」

『勿論です』

 AIの返事を聞くと康生は一気に靴の力を解放し加速する。

 ――康生が使っている風の力は、当然先ほどでの戦いで使ったようにすごい力を発揮する。しかしこの力のすごい所はほかにもあり、これは風の力というだけあって戦闘中でさえも力を溜めることが出来る事だ。

 どういう事かというと、風の力を使って加速すれば、その分の風が回収できる。そしてそれを特別な技術で圧縮をすれば再度、風の力として利用できるということだ。

「いけっ!」

 そうして康生は隊長に向かって一直線に突撃する。

「ふんっ」

 しかし流石は隊長、一直線に向かってくる康生にすかさず標準をあわせなおし、すぐさま銃の引き金をひく。

 パンッ。

「無駄だっ!」

 康生は飛んでくる弾をレイピアで弾き返す。

 しかしレイピアは今の使用で完全に破壊されてしまった。

 それもそうだ。全速力でくる弾を、全速力で動いている中で弾いたのだ。

 当然レイピアへのダメージは計り知れないものになるはずだ。

 こうして康生は弾を防ぐ手段のレイピアをなくしてしまう。

「さてどうする?」

 隊長は余裕の表情を浮かべたまま再度弾を放つ。

 パンッ。

 康生の頭に向かって弾が放たれる。

 しかし康生はもう弾を防ぐ道具はない。

 だが康生は焦らずに足に力を込める。

「はっ!」

 瞬間、風の力もあり康生は空高くに跳躍する。

「また空中か。何度言ったら……」

 またもや空中に飛んだ康生に隊長は照準を合わせる。

「だから俺は考えなしに空中にきたわけじゃないよ!」

 康生が言った瞬間、隊長の目の前から一つの影が飛び出してくる。

「くらえっ!」


 キンッ!


 瞬間、金属同士がぶつかりあう音が響く。

「惜しいな」

 みると隊長の目の前に時雨さんがおり、長刀を隊長めがけて振り下ろしていた。

 しかし隊長は寸前の所で銃でガードをし、時雨さんの攻撃を防いだ。

「まだ!」

 時雨さんは攻撃を防がれても力を入れる。

 しかし隊長の腕力はすごく、男と女の力ではやはり差が出てしまう。

 そうして時雨さんは徐々に押し返されようとしている。

「くらえっ!」

 だがその時、空中にいた康生が隊長めがけて拳を振りかぶる。

「無駄っ!」

「うっ!」

 隊長は力を出して瞬時に時雨さんの長刀を押し返す。

 そしてそのまま康生の拳にあわせて鎧を向ける。

「いけっ!」


 ゴンッ!


 康生の拳が隊長に鎧にあたり鈍い音を響かせる。

「人の拳程度で鎧が傷つくわけがなかろう」

 隊長はあざ笑うかのように言う。

 しかし、


 ピキッ。


 康生の拳があった部分の鎧にヒビが入る。

「な、なに!?」

 隊長は声をあげて驚き、咄嗟に背後に飛ぶ。

「きたっ!」

 しかしその先にはなんとエルが待ちかまえていた。

「かの者の視界を塞げ。『ブラッグアイ』」

 エルが対象の者の視界を見えなくなる魔法を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る