第74話 駆除

「そこに一匹、異世界人がいるんだけど、隊長として駆除しなくていいのか?」

「何?」

 上代琉生が指差す方向に隊長はすぐに視線を移動させる。

「くっ……!」

 その先では康生、そして時雨さんが顔をしかめて上代琉生を睨む。

「あれ?どうして二人がそんな顔してるんですか?もしかして時雨さんまで異世界人の仲間になったんですか?」

 上代琉生はあくまでも煽るように口を開く。

 辺りは当然、その言葉を聞きどよめきが広がる。

 それもそうだ。なにしろ、安全と言われているこの地下都市に異世界人がいると言われたのだ。

 それは慌てるのも無理はない。

「――銃の傷が治っている。ということはそこの娘が異世界人というわけか」

 そう言うと同時に隊長は手に持っていた銃を放つ。


 キンッ!


 まっすぐエルに向かって飛ぶ弾はそのまま顔面に命中しようとしていた所で、鈍い金属音により弾が軌道をずらす。

「まだ邪魔をするか」

 隊長は目を細めて睨む。

「当たり前だ」

 康生はそう言って立ち上がる。

 しかしそれと同時に手に持っていた弾を斬ったレイピアが砕け散る。

 このレイピアは隊長が使っていたものだったが、やはりこれはただの飾りのようだった。

「――あっ、そうそう。隊長さんに一つだけ訂正をいれときます」

「何だ?」

 今にも一発触発の空気の中、上代琉生はあくまでも自分のペースで言葉をしゃべる。

「あの子がドラゴンを倒したって言ってたけど、本当はあの三人で倒したみたいですよ?」

「今更二人増えても関係ない」

「そう、ですか。じゃあ俺はそろそろ行きます」

 それだけ言って上代琉生は手をふらふらと振ってその場を去る。

「さぁて、じゃあこれから異世界人共々、裏切り者を処刑しようか」

 隊長は再びリングの中へと足を踏み入れる。

「私は決して裏切り者ではない!」

「異世界人と一緒に行動しておいて何が裏切り者ではないだ。見苦しいぞ時雨」

「この子は確かに異世界人だが!私達の敵ではない!」

「異世界人が敵ではなかったらなんだと言うのだ」

 時雨さんは必死に隊長に呼びかけるが、隊長は聞く耳を持たず、会話が成立できない。

 康生は都長が捕まり、これで隊長と戦う理由はなくなったと思っていた。しかし上代琉生のせいでエルが異世界人だとバレてしまった事に康生はひどい怒りを覚えている。

 上代琉生は何度怒らせれば気が済むのか。康生はそんな事ばかり考えていた。

「さぁそれでは行くぞ!」

 隊長は銃に弾を装填し戦闘態勢をとる。

「くそっ!」

 康生はこの状況に悪態をつく。

 隊長がやる気の以上、こちらも本気でやるしかない。

(……果たして本当に勝てるのか?)

 康生の中で疑問が浮かぶ。

「頑張ろうね康生!」

「行くぞ康生!」

 しかしエルと時雨さんのかけ声により、すぐにそんな弱気はなくなった。

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